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4/21/2003



 SARSに関する検査対応について

(国立感染症研究所 感染症情報センター)

 

1. SARSにおける病原体検査方針

(1)

国立感染症研究所ウイルス第三部第1室(以下感染研)ではSARSに関する特異的検査を行うが、それ以外の既知の病原体の検査は地衛研もしくは病院検査室で行う。

(2)-1

すべてのSuspected、Probable caseは、原則的には地衛研もしくは病院検査部において、通常の病原体取り扱いに準じてBSLレベル2で既知の肺炎を起こす(異型肺炎含む)病原体の一次スクリーニングを行うものとする。これには、一般細菌培養、迅速診断法(連鎖球菌など一般細菌、レジオネラ、クラミジア、マイコプラズマ、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、その他状況に応じて行う)、血清学的方法(マイコプラズマ、クラミジア)を含む。

(2)-2a

これに加えて、ウイルス分離が可能な検査室ではウイルス分離を行う。ウイルス分離を行う場合には、SARS病原体の危険度レベルが未確定であるので、BSLレベル3施設内においてレベル3に準じて対応する。分離に使用する培養細胞、VeroE6、LLCMK2は病原と考えられるCoronaウイルスに感受性がある。現時点ではSARS病原体と考えられるCoronaウイルスの同定は国内では感染研でのみ可能であるので、CPEが出現した場合には培養上清を感染研に送付する。

(2)-2b

レベル3の施設が地域にない場合には、ウイルス分離を地域では行わず、ウイルス分離用検体を感染研に送付することとする。

(3)

Probableの定義に合致する症例、あるいはSuspectedの患者であっても、すでに二次感染と考えられる症例が出ている場合やその他の臨床検査所見において、Highly suspected caseと考えられる症例では、上記で行う一次スクリーニングに平行して、感染研に以下の検体を送付し、病原体検索を行う。当初Suspectedに分類された患者であっても、経過によりProbableになった患者は、その時点でProbableとして扱う。


2. 病原体検査のための検体採取方針

まだ暫定的な結果ながら、喀痰から多くのウイルスが検出されたという報告がありましたので、念のため採取可能であれば喀痰の検体もお願いします。

(1)

喀痰
通常の方法にて、自分で出せる場合には滅菌生理食塩水もしくは水道水で複数回うがいをして口腔内雑菌を除いた後、喀痰を採取してもらう(唾液の混入は可能な限り避け、口腔内常在菌の混入を抑える。)。密栓できる喀痰専用容器(滅菌済み)に入れてフタをしてジップ付きプラスティック袋に入れて速やかに提出する。検体採取の際は、周りの人に飛沫が飛ばないよう区切られた部屋で行うなどの対策を講じる必要がある。採痰ブース(陰圧)があればより理想的である。人工呼吸器管理の場合には無菌的な操作のもとに、滅菌されたカテーテルを使って気管吸引液を採取する。採痰容器は密栓できる喀痰専用容器(滅菌済み)に採取後、ジップ付きプラスティック袋に入れて速やかに提出する。

48時間以内に検体を輸送することが可能な場合には、検体採取後直ちに冷蔵庫に保存し、4℃(保冷剤)で輸送する。48時間以上輸送することが不可能な場合は、検体採取後直ちに施設内で-70℃以下の冷凍庫に保存し、冷凍(ドライアイス)にて輸送する。

(2)

鼻咽頭拭い液あるいは鼻咽頭洗浄液/吸引液
通常の方法にて、鼻咽頭拭い液の場合には両方の鼻孔内を、口腔咽頭拭い液の場合には咽頭後壁および扁桃領域を拭い、スワブを2ml [注:綿棒が乾燥する状態や、大量の液体に浸した状態ではウイルスの検出が困難になります。1.5〜2 mlであれば綿棒が適度に液体に浸る程度となり、ウイルスの検出に最適です。] のウイルス輸送液体培地、ない場合は生理食塩水内に入れ、柄を折りとったのち、蓋をする。洗浄液/吸引液の場合には、1〜1.5mlの生理食塩液を鼻腔内に注入し、その後鼻咽頭分泌物を吸引する。もう一方の鼻孔についても同様に行い、吸引液は清潔試験管にいれる。48時間以内に検体を輸送することが可能な場合には、検体採取後直ちに冷蔵庫に保存し、4℃(保冷剤)で輸送する。48時間以上輸送することが不可能な場合は、検体採取後直ちに施設内で-70℃以下の冷凍庫に保存し、冷凍(ドライアイス)にて輸送する。

(3)

血清
血清は急性期と回復期の2点において採取する。急性期血清はSARSが疑われた時点で即座に、回復期血清は3週間後に採取、輸送する。血液は血清に分離した後、それぞれ血清で1〜2ml程度が必要で、48時間以内に検体を輸送することが可能な場合には、検体採取後直ちに冷蔵庫に保存し、4℃(保冷剤)で輸送する。48時間以上輸送することが不可能な場合は、検体採取後直ちに施設内で−70℃以下の冷凍庫に保存し、冷凍(ドライアイス)にて輸送する。

(4)

尿
50mlの尿を遠心分離し、沈査を2〜3mlの上清に懸濁させ、コニカル試験管(ファルコンなど)にいれ、パラフィルムにてシールする。48時間以内に検体を輸送することが可能な場合には、検体採取後直ちに冷蔵庫に保存し、4℃(保冷剤)で輸送する。48時間以上輸送することが不可能な場合は、検体採取後直ちに施設内で−70℃以下の冷凍庫に保存し、冷凍(ドライアイス)にて輸送する。

(5)

便(オプション)
10〜50mlの便を50mlの生食に懸濁し、遠心分離後、上清2〜3mlを蓋付き容器に入れ、パラフィルムにてシールし、ビニール袋にいれる。48時間以内に検体を輸送することが可能な場合には、検体採取後直ちに冷蔵庫に保存し、4℃(保冷剤)で輸送する。48時間以上輸送することが不可能な場合は、検体採取後直ちに施設内で-70℃以下の冷凍庫に保存し、冷凍(ドライアイス)にて輸送する。



3. 感染研での検査の範囲と結果報告

(1)

感染研において行う検査は、SARSに関連するCoronaウイルスについての特異的検査とする。

(2)

暫定的結果の報告は可及的速やかに行うものとする。

(3)

結果は情報センターを通して、行政担当部局と医療機関への同報送信とする。

(4)

情報センターでは、すべての情報をいれたデータベースを維持するものとし、結果報告の管理も行う。



4. 検体受付

(1)

感染研による検査は、医療機関、保健所、都道府県、地衛研などの合意の元、行政からの依頼によるものとする。病院からの直接の問い合わせについては、情報センターにて、ここに記載する原則を説明することとする。

(2)

上記1の (3) のクライテリアに合致するものは、まず情報センターにて受付を行い、情報センターが患者および各検体に対して各々ID番号をつける。今後は、すべての連絡にこのID番号を使用する。この際、医療機関担当者、検査担当者、行政担当者のコンタクトリストを受け取るものとする。

(注)症例IDは、都道府県番号+患者イニシャル+感染研にて受付順のシリアルナンバー(001より始まる)+診断カテゴリ(S:Suspected;P:Probable;D:Discardedとし、これはカテゴリが変わった場合には、SP(SからP)、SD(SからD)のように連続して付記する)とし、検体IDは、症例IDに引き続く、_(アンダーバー)+検体種別(UR上気道;LR下気道;B血液;U尿;F便;T:組織)+検体採取日時(患者から採取した日付で、例えば4月4日午後3時5分であれば、0304041505とする)+(同時に数検体とった場合には順に1、2と括弧内に入れる)ものとする。CPE陽性培養上清の場合には、検体種別の前にYをいれる。

(3)

この情報とともに、情報センターは、ウイルス3部第1室に検体受付を連絡し、ウイルス3部第1室が具体的な検体送付方法とタイミングについて先方の担当者と相談する。

(4)

検体の搬送方法は、基本的に天然痘の検査材料の輸送方法(添付2)に準じるものとし、上記 (3) によって合意された時間指定で送付するか、持参するものとする。

(5)

検体受付時間は、原則として勤務時間帯(9:00〜17:00)とし、土曜日、日曜日、祝祭日は検体を受けることはできない。但し、緊急の場合には、個別に対応する。



(添付)検体の送付方法はこの中に詳しく説明されています。
     1.「重症急性呼吸器症候群(SARS)管理指針」(PDF 100K)

     2.「検査材料の採取・送付に関する追加情報」 (PDF 64K)


◆連絡先
 国立感染症研究所感染症情報センター
 〒162-8640 東京都新宿区戸山1-23-1 
 TEL03-5285-1111(代)、 FAX03-5285-1129


◆検体送付先
 国立感染症研究所ウイルス第三部
 〒208-0011 東京都武蔵村山市学園4-7-1 
 TEL042-561-0771、FAX042-561-0812

(注)この検査対応方針は、現時点までの知見に基づく、暫定的なものであって、今後の新たな知見の発見、あるいは国内の状況によって、随時更新されるものとする。

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