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4/10/2003


SARS:診断のための検査の有効性と検査方法
(4月8日)

 

SARSの診断は依然臨床所見と曝露の有無のみに基づき行われている(Case Definitions for Surveillance of Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS) [日本語版] )。しかしながら、カナダ、フランス、ドイツ、香港特別行政区、日本、オランダ、シンガポール、英国、米国などでは、SARSの「疑い例」あるいは「可能性例」に対してルーチンにウイルス学的検査を行うようになって来ている。この検査はまだ開発と改善の途上であり、現段階で実地にそれを用いることは、SARSとヒトコロナウイルスとの関連を理解する上で役立つ。

現在実施可能な検査方法の状況

1.

抗体検査
―ELISA(IgM/IgA)はSARSの患者血清中の抗体を、臨床症状が出現後約20日目以降から、信頼性を持って検出することができる。また幾人かの患者では、14〜21日の時期に抗体が検出されている。

―SARSウイルス感染VERO細胞を用いた免疫蛍光抗体法(IgMを検出)は、発症後約10日後から血清中の抗体を検出する。これは信頼性のある検査方法ではあるが、細胞培養系で生きたウイルスを培養する技術や蛍光顕微鏡を必要とするなど、他の方法に比べ実施に必要な要件が多い。

2.

分子学的検査法
―PCRはコロナウイルスの遺伝子産物を血液、便、気道分泌物といった様々な検体から検出することができる。この検査法に用いるいくつかのプライマーは、米国疾病対策予防センター(CDC)、ヘルス・カナダ連邦研究所、香港大学、香港保健省ウイルス部局などにより作製され、WHOのウエッブサイト [感染症情報センター 日本語版] 上で公開されている。SARSに関するWHOの多施設共同研究ネットワークに属するいくつかの研究施設が、現在これらのプライマーを用いた検出法を比較検討中であり、その最初の結果は近々報告される予定である*

* 現時点では、各プライマーの感度、特異性に関する評価が確定しておらず、今回公表されたプライマー・セットの中には検出感度の劣るものもある。従って、現時点でWHOネットワークに参加している施設以外でPCR検査を行う事は早計であると考えられる。WHOの検討結果の報告を待っていただきたい。

3.

細胞培養法
―SARS患者検体(気道分泌物、血液)中のウイルスは、VERO細胞などの培養細胞へ感染させることでも検出できる。

陽性結果は、その検体を採取したSARS患者が現在あるいは最近、コロナウイルスに感染したことを示唆する。コロナウイルス陰性の結果が出ても、患者がSARSでないと言うことは意味しない。

陰性結果:SARSは臨床検査に基づき診断されるのではなく、臨床症状の検討と感染の可能性が考えられる様な曝露歴によって診断される。
SARSの患者でコロナウイルスに関するウイルス学的検査結果が陰性となった理由としては:
―感度が低いために、検査結果が正しくない(偽陰性)。現在の検査法は感度を向上させるために更に開発を続ける必要がある。
―患者がこの新しいコロナウイルスに感染していない。感染の原因は呼吸器症状や肺炎を引き起こす他の病原体(ウイルス、細菌、その他)である。
―検体採取がウイルスやその遺伝子物質を分泌する時期に行われなかった。検査した検体の種類により、ウイルスの排出期間が短い間しか行われない事も考えられる。

 

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