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3/28/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−12


(仮訳)

WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(3月27日、更新第12報)


SARSウイルスの確定は近く、新しい迅速診断法の確立も間近

3月17日にWHOはSARSの病原体を確定するために協力する、世界中の代表的な研究施設のネットワークを確立した。

先にネットワークの研究所は、パラミクソウイルス科とコロナウイルス科に属するウイルスに研究の焦点を当ててきた。今週初めには、ネットワークで共有される知見が一貫してコロナウイルスを示唆する事が多くなった。

WHOのウイルス学者であり疫学者である Klaus Stohr 博士は、「ネットワークに参加している多くの研究所の研究結果が、コロナウイルスがSARSの病原として最も可能性が高いことを示している。今回検出されたウイルスは既知のヒト及び動物に感染するコロナウイルス科のいずれのウイルスとも異なっている。このウイルスは多くの国のSARS患者の検体から一貫して検出されている。このウイルスは細胞培養系でも分離されており、我々は原因微生物の特定へ確実に近づきつつある」と述べた。

病原体と確定するにはいわゆる「Kochの原則」を全て満たす必要がある。これを立証するための追加実験がオランダの研究室で進行中である。

3月21日には既に香港大学の科学者が、SARSの病原体と強く疑われる新しいウイルスを細胞培養と電子顕微鏡で検出していた。しかしこの時点では、このウイルスの帰属は不明だった。

今週初めに米国疾病対策予防センター(CDC)の研究者が、コロナウイルスがSARSの病原体であることを示唆する強力な証拠を得た。以来、WHOのネットワークに参加している多くの研究施設でCDCにより提供された遺伝子検査法を、複数の国からの患者検体に対してコロナウイルスの存在を確認するために用いるようになった。

確定症例が多数発生している地域からのSARS患者の検体が、参加研究施設の研究者間に分与されていることも研究の進展を促進している。

多くが集中治療を受けている367人の症例と10人の死亡例が出ている香港が、依然最もひどく影響を受けている地域である。

ウイルスの遺伝子配列の決定は四つの研究施設で進行中である。配列が決定できれば、ウイルスの分類・帰属を決定するとともに遺伝子診断の精度を高めることに役立ち、また特異的な対策を開発する糸口にもなる。

現在のところ、適切な集中治療と支持療法以外にSARS患者の予後を改善する治療法はない。

ネットワークに参加している研究者はこのウイルスが、全く新しいまたは今までに特定されていないコロナウイルス科のウイルスである事が証明されると考えている。

診断法開発の進歩

精度が高く簡便な診断手技の開発もすみやかに進行している。香港にある香港大学、中国大学、公立ウイルス研究所とWHOネットワークの全研究施設が基本的な診断手技を既に開発している。SARSの確定症例群と健常対照群による研究では、一貫してこの診断法により全ての確定症例が陽性、全ての健常対照者が陰性の結果を示している。明日から、さらに多くの検体検査が開始される。

香港の診断法はPCRによる遺伝子検査であり、香港の研究者は免疫蛍光抗体法(IFA)による診断法も開発した。ネットワークの共同研究施設で、PCR用のプライマーの配列をコンピューターで解析することにより、速やかな検査の検証が進行中である。WHOのネットワークはこれらの診断試薬をネットワーク以外の世界中の研究所で直ちに入手が可能になるようにすると言っている。

数日の間に、SARSの疑い例、確定例からの何百もの検体がこれらの新しい診断法で検査される予定であり、それによって、これらの診断法は多数の検体を連日スクリーニングできるよう、精度、能率が向上されるであろう。

PCR法は感染初期のSARS症例の検出に、良好な信頼性が認められている。免疫蛍光抗体法(IFA)は、感染後約3週間の回復期血清を用いて感染の有無を検査するため用いられている。両方の検査により、自宅で安全に治療できるよくある病気にかかっていながら、疑わしい症状に心配している世界中の多くの患者を、安心させることができるはずである。

SARS疑い症例を管理するための、WHOによる隔離と厳密なバリアー・ナーシングは、伝播確認地域の医療施設に多大な負担を強いている。

症例数と伝播確認地域の更新

本日までに13カ国から、53の死亡例を含む1,408症例が累積で報告されている。本日ルーマニアが、可能性例3例を初めて報告した。これは昨日より85症例、4例の死亡例が増加していることを示している。

中国の最新情報

中国保健省は平成15年2月28日までに広東省でSARS症例792例と31の死亡例があったことを、本日公式に発表した。これらの症例の約30%が医療関係者であった。
中国保健省はさらに、SARSが中国の他の地域でも発生していると発表した。北京では3月26日までに10症例、3死亡例が認められている。このうち2症例が医療関係者であった。中国北方の山西省では3月26日までに4症例が発生し、このうち2例が医療関係者であったが、死亡例はない。


 
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