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中華人民共和国衛生部

北京および安徽省における SARS集団発生の原因調査報告(要旨)

 2004/7/1(原文 / WHOによる英文訳


中国衛生部は、軍事医科学院、北京市疾病預防控制中心、中国疾病預防控制中心伝染病預防控制研究所からの7人の専門家からなる調査団を編成し、2004年4月の北京市および安徽省におけるSARS集団発生の合同原因究明調査の結果について本日報告した。この調査の一部にはWHOの専門家らが協力した。調査結果概要を以下に記す。

1.今回の集団発生は実験室内感染である:(1)二人の発端者は同一実験室内で研究を行っていた。この実験室ではSARSコロナウイルスに関連した研究が行われていた。(2)国立ウイルス学研究所を閉鎖後に、同様の患者が発生していない。(3)唯一の死亡例である第二世代の症例の病理解剖の結果、胸水中よりSARSコロナウイルスが分離され、その遺伝子配列のシークエンス結果が実験室株(HT-SCoV-2)とほぼ一致した。(4)いずれの発端者にも、野生動物との接触による感染を証明する事実はない。(5)いずれの発端者の潜伏期間中にも、他にSARS症例が発生した報告は無く、実験室外で感染の源となるSARS患者に接触した可能性もほとんどない。(6)男性研究者の発症は、先に発症した修士学生に最後に接触後15日を経過しており、その接触も廊下で行き違う程度であり、この男性研究者が修士学生から感染することは不可能である。

2.汚染の感染源は腸管感染症ウイルス実験室に限局している:(1)二人の発端者はともにこの実験室で研究活動を行っていた。彼ら以外に、この実験室を利用していた女性研究者ふたりが、IgMとIgG抗SARSコロナウイルス抗体陽性となっており、感染は明らかに集積していた。(2)第二世代の死亡例の胸水中よりSARSコロナウイルスが分離され、その遺伝子配列のシークエンスが実験室株(HT-SCoV-2)と非常に高率で一致した。(3)国立ウイルス学研究所の職員全員の医学的な観察が実施され、血清学的調査も実施されたが、これまでのところ、この実験室以外からのSARSコロナウイルス感染者は見つかっていない。

3.今回のSARS集団発生の原因に、BSL3実験室内感染が関与していた証拠はない:(1)発端者ふたりは、2004年に入ってまったくBSL3実験室に入室していない。(2)腸管感染症ウイルス実験室とBSL3実験室双方へ入室していた女性研究者の血清中の抗SARSウイルス抗体陽性であったが、彼女が両発端者の感染源となった証拠はない。(3)腸管感染症ウイルス実験室専用のBSL3の基本的実験施設の、備品と全体的構造はBSL3に必要な条件を満たしていた。

4.推定される実験室汚染の原因:不完全なウイルスの不活化−2004年の春節以後、前出の女性研究者は数回にわたり不活化SARSコロナウイルスを、BSL3実験室から普通実験室へ運び実験をしていた。このウイルスの不活化が有効であったかについては厳密に確認されておらず、この時期とふたりの発端者の発病時期が重なっている。用いたウイルス不活化手法は(1%NP40+PBS+1%SDSを氷上で60分処理)、その有効性に関しての適切な外部評価が実施されておらず、また、処理後のウイルスについても、不活化の確認実験や品質管理確認を毎回実施する規定がなかった。

調査の結果、今回のSARSの実験室内感染の原因は、実験室内バイオセーフティ管理が不適切であったこと、規則が遵守されていなかったこと、実験者の不適切な実験操作がとられたこと、実験室内安全対策が十分でなかったことにあり、結果として実験室汚染と研究者の感染につながる責任重大な実験室内事故につながったことが明らかになった。

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(2004/7/2 掲載)



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