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WHOと中国が広東省のSARS症例を確定

WPRO 2004/1/5(原文

週末からの検査結果により、中国衛生部と世界保健機関(WHO)は、中国南部のSARSが疑われた症例を、SARS確定例とした。

最新の検査結果は、WHOの国際リファレンス研究施設ネットワークに属する、香港独立行政区(中国)の2つの検査施設と、北京の中国疾病ヤ、防控制中心(中国CDC)の下にあるひとつの研究所で行われたウイルス中和抗体検査から得られた。

3つの検査施設からのウイルス中和反応の結果は、この32歳の広東省広州市のテレビ・プロデューサーの男性患者が、最近SARSコロナウイルス(CoV)に曝露されたことを示していた。

この検査では、病初期のSARS中和抗体の血中レベルと、最近の血中レベルを比較した。検査結果によると、この抗体レベルは著しい上昇を示し、SARSの検査上の定義を満たしていた。

香港での検査は、香港大学(Hong Kong University)と政府のウイルス研究所(政府病毒實驗室:Government Virus Unit)からのチームにより行われた。これら国際リファレンス研究施設からの結果は、2004年1月5日にWHOへ伝えられた。続いてWHOから北京の中国衛生部へ結果が伝えられた。同時に、ジュネーヴのWHO本部、マニラと中国のWHO地域事務所の、国際WHO専門家委員会(international panel of WHO experts)が電話会議を開き、香港と北京からの結果を検討した。この討議の結果WHOは、この症例は確かに検査により確定されたSARS症例であるとの結論に達した。この結論は、中国衛生部へ伝えられた。

初期の不確実な検査結果のためWHOは、中国衛生部に対し、WHOの国際リファレンス研究施設ネットワークに属する検査施設へ検体を送付することを提言した。中国衛生部は、広東省への距離が近いことと、昨年のSARS集団発生期に広範な検査を行った実績を踏まえ、現状での最善の選択として香港独立行政区(中国)の2つの検査施設を選んだ。

一例では直ちに公衆衛生学的脅威とは言えないが、予防的措置は継続するべき

WHOは、この症例は今やSARS(確定)症例に分類されることとなったが、これによって直ちに中国南部に公衆衛生学的脅威があると言うわけでは無い点を強調することが重要であると述べている。中国全土への旅行は安全である。

症例の早期検知と早期隔離、時機を得た接触者追跡調査を可能とするシステムが存在すれば、SARSは制御し、封じ込めることができる。広東省当局は、明らかにそのようなシステムを開発することに最大の努力を払っており、その達成のための重要な過程が既に開始された。

広東省当局は現時点までに、“密接な”接触者と分類された25人と、“日常的な”接触者39人、医療従事者17人の、81人の患者接触者を特定した。“密接な”接触者25人と“日常的な”接触者の39人全員の隔離は解除されており、健康であると報告されている。医療従事者は、患者と最後に接触してから14日間が経過するまで、監察下におかれる。現時点では、医療従事者の全員の健康状態は良い。

中国衛生部−世界保健機関(WHO)共同チームは、現在進行している患者周辺の調査の一環として、先週広東省を訪問した。彼らは、広州における状況は現時点では制御下にあると結論づけた。この評価は、SARSが疑われた症例が、確定例へ格上げされる以前に成されたが、依然当てはまると考えられる。しかし同時にWHOは、中国衛生部と広東省当局に対して、ここ数日から数週間のうちに、一層サーベイランスシステムを強化し、調査範囲を拡大するように強く要請した。

広東省全体で、もちろん中国国内の他のすべての省および自治区においても、広州市で見られたような適切な対応が確実にとられなければならない。

保健システムの他の部分(救急医療部、中国伝統医療医院など)を、完全にこのサーベイランスシステムの中に組み込む必要がある。なぜなら、発熱と咳のある人々が皆、昨年のSARS集団発生期に設立した「発熱クリニック(fever clinic)」を受診するとは限らないからである。

広東省にいる合同チームはまた、現在のように医療施設内での感染予防対策が十分に実施されている間に、一層の改善が行われる必要があると考えた。中国政府の招聘を受け、感染源の可能性があるものの発見の努力を含めたこの事例の調査を支援するために、今週にも追加支援のWHOの国際的専門家が広東省へ向かう予定である。彼らは先のWHOチームによる評価と検討の結果を指針として用い、状況に応じてそれから発展させる予定である。

SARSウイルスを運搬、伝播すると考えられる野生動物の屠殺

一方WHOは、ヒトとSARSウイルスを持っていると考えられる動物との接触を減らすという、本日の中国当局の決定を歓迎した。

「WHOは長い間、動物がSARS−CoVのリザーバとなり、従って感染源となり得ると考えてきた。WHOはどの動物がウイルスを保持し、ヒトへ伝播することができるか特定するための、また、非常に重要なことであるが、どのような条件下でウイルスが動物からヒトへ伝播することができるのかについての研究の実施を繰り返し呼びかけてきた」と、西太平洋地域においてWHOのSARS対策の指揮を執る押谷仁博士は述べた。

押谷博士は、野生動物を屠殺する際には、処分に携わる人達の感染防御が成されなければならないと、注意を促している。また、「処分は注意深く行わなければいけない」とも言っている。彼はまた、野生動物の売買が監視の目の届かない地下に潜り、密かに行われる可能性も警告している。

感染源となり得る動物についての研究に加え、ヒトおよび環境からの感染源に関する一層の研究も必要である。「この時点では、余りにも分からないことが多すぎる」と、押谷博士は述べている。

WHOは以下を繰り返し述べる:

・ 一例のSARS確定例すなわち公衆衛生学的リスクでは無い。
・ 広東省への一般の人の旅行はまったく安全である。
・ 今日までに、この患者からの感染拡大の証拠は何もない。81人の特定された接触者は全員健康であると報告されている。

・ 広東省公衆衛生当局は、中国衛生部、中国CDCと共にこの事例を、2003年の集団発生後に設立したシステムを用いて、全過程を通じて(接触者の追跡調査、隔離、医療監視を含め)SARSであることを想定して取り扱った。

・ 広東省と香港の保健当局は、広州市でのこの事例の発生を受けて、体温検査や他の手順などの、旅行に関した地域における安全対策の導入に協力してきた。

・ 保健当局はこの事例を、現行のサーベイランスシステムがどれだけ良く機能しているかを見るために用いており、今回の事例に関する経過の再評価はすでに開始されている。

WHOは、中国衛生部からこの事例に関する情報の報告を毎日受けており、中国の状況対応への支援の機会を歓迎する。

より詳しい情報を希望される方は、WHO中国のRoy Wadia氏(+86 1361 117 4072,wadiar@chn.wpro.who.int)あるいは、WHO西太平洋支局(WPRO)のPeter Cordingley氏(632 528 9992,cordingleyp@wpro.who.int)へご連絡ください。欧州での問い合わせは、Dick Thompson氏(+4122 791 2684 または +4179 475 5475)へお願いします。

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2004/1/6 掲載 IDSC

 
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