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WHOによる集団発生期後のSARS―CoV検体と培養の
取り扱いに関するバイオセーフティ指針

WHO 2003/12/18原文

2002年11月と2003年6月のSARS流行期の間に、多くの検体がヒトのSARS疑い例と確定例から集められ、種々の病理学的検査のために異なる国や国際的研究所へ送られた。これらの検体の、集団発生期におけるWHOの安全な取り扱いの関する指針は、「WHOによるSARS検体の取り扱いに関するバイオセーフティ指針(4月25日)」に示されている。これに加え、SARS―CoVの起源の調査の際に、多くの検体が動物から集められており、これらもまた同じ検体の安全な取り扱いの指針に沿って取り扱われなくてはならない。

以下のバイオセーフティ指針は、流行期後におけるSARS―CoV検体の取り扱いのためにWHOにより用意された。この指針はヒト−ヒト感染伝播の連鎖が存在していないことを考慮し、SARS―CoVを用いる実験研究において、厳格にバイオセーフティ手技を遵守し、その実践を行う重要性に焦点をあてた。以下および前回のバイオセーフティ指針に詳細に記述したが、WHOはバイオセーフティ・レベル3(BSL3)を、活性のある(生きている)SARS―CoVを取り扱う際の適切な封じ込めレベルとして強く推奨する。

現在比較的多くの研究室でSARS―CoVを用いた研究が行われ、あるいはSARS症例からの検体が保存されており、SARS集団発生が、実験室内事故に引き続いて起こる可能性は十分に考慮すべきリスクである。これらの研究室が現時点では、実験室でのバイオセーフティ違反に関連した事故による曝露からの、新たなSARS―CoV感染伝播の最も大きな脅威となっている。

この脅威の深刻さからWHOは、SARS疑い例および確定例、あるいはSARS―CoVを含む培養検体を安全に保管し、実験することができると認可された研究施設の登録一覧を、国家政府が保持することを強く勧告する。

しかるべき国家当局の部署が、研究施設が定期的な監査のために、SARS―CoVのウイルス株と検体の貯蔵目録を作成し、管理するための指針を提供すべきである。

WHOはまた、安全な状態で保存することができないような、SARS―CoVを含むことが疑われたり、確認された不要な臨床および動物検体、または、SARS―CoVの保存株を破棄することを推奨する。

いかなる実験室内事故(例:SARS―CoVを含んでいる疑いのある物質を誤ってこぼした)でも、しかるべき当局へ報告する必要があり、そして、そのような事故の結果、SARS―CoVに曝露した可能性のある人々すべてについて、SARS―CoV感染の兆候を10日間詳細に経過観察しなければならない。それに加えて、こういった実験室における急性下気道症状の小集団(cluster)の発生に対しては、迅速にSARS―CoV感染を除外するための調査をすべきである。感染の性質および重症度によっては、現在の「WHOによるSARSアラートのための臨床症例定義」を満たさない急性呼吸器疾患の孤発症例の発生の場合にも、SARS―CoV感染の除外が必要になる場合もある。

集団発生終息後の時期において、実験従事者の安全を確保し、実験室での事故の可能性を軽減するためにWHOは、SARS―CoVあるいはSARS―CoVを含む可能性がある検体を取り扱う職員に対し、以下の指針を勧奨する。

SARS―CoV検体とウイルス保存株の取り扱いに関するWHOバイオセーフティ指針:

実験室設備が、基本的実験室―バイオセーフティ・レベル2(BSL2)の封じ込め条件に満たない場合には、検体を適切な設備の整ったリファレンス研究所へ初期診断検査のために送付すること考慮すべきである。

以下の取り扱いは、「WHO実験室バイオセーフティマニュアル,改訂2版」(英文/PDF)に説明されているように、BSL-2の施設で、適切な基本的実験室―バイオセーフティ・レベル2(BSL2)の実験手法で行ってもよい:

・ 血清と血液検体のルーチンの診断検査(血液および血清学的検査を
含む)
・ 中和あるいは不活化(溶解、固定、その他の処理)が確認されているウイルス粒子、または、非感染性の不完全なウイルスゲノムの一部の、両方あるいは一方を取り扱う手技
  ・ 追加検査のために、診断を行う研究施設へ検体を送る際の最終梱包。検体はすでに、密封し除染された輸送用の一次容器に入っている必要がある。

以下の取り扱いは、BSL2実験施設でBSL3の実験手法を用いて行うこともできる:

BSL2施設で、SARS―CoVを取り扱うためにBSL3の実験手法を必要とする作業は以下を含む:

検体の分注、または希釈

細菌あるいは真菌の培養液を加える

試験管内(in vitro)、生体内(in vivo)のいずれにおいても、ウイルス病原体の増殖を伴わない臨床診断検査を行う

未処理検体にかかわる核酸抽出手技

顕微鏡検査のための塗抹試料の化学的あるいは加熱固定による作成


BSL3実験は以下を含む:

エアロゾルを産生すると考えられる手技はすべて、生物学的安全キャビネット内で行わなければならない(例:音波破砕、ボルテックス器による振動撹拌)。

実験/研究室スタッフは、特定の操作手技を行う際のエアロゾル発生のリスクと曝露のリスクに基づいて、使い捨ての手袋、前開きでない、あるいは全身を包み込むようになっているガウン、前腕部をすべて覆うようになっている袖のついたスクラブ・スーツかつなぎ、頭を覆うカバー、そして必要な場合は靴カバーや専用の履き物、防護眼鏡、サージカル・マスクかフルフェイス・シールド(顔面を完全に覆うもの)などの防護用具を、特定の実験操作を行う際に、エアロゾル産生や飛沫曝露の危険がある時には着用するべきである。

検体の遠心は、密閉型遠心用ローターあるいは、蓋付きの遠心管を用いて行うこと。これらのローターや遠心管からの検体の取り出しは、生物学的安全キャビネット内で行う。

作業台の表面や実験器具は、検体を処理した後に除染を行う必要がある。製造者の推奨している方法に従い、エンベロープを持つウイルスに対して効果のある一般的な除染剤を用いれば、十分なはずである。一般的には、バイオハザードとなる実験中にこぼした検体などに対しては、5%のブリーチ液(漂白剤)が適当である。消毒と除染に関するより詳細な情報は、「WHO実験室バイオセーフティマニュアル,改訂2版」(英文/PDF)にある。

SARS疑い例や確定例の検体、あるいはSARS―CoVで汚染された生物学的汚染廃棄物は、「WHO実験室バイオセーフティマニュアル,改訂2版」(英文/PDF)に概略が示されているように、処理する必要がある。

WHOは、SARS検体を用いて実験を行うBSL2では、上記のBSL3予防措置がとられ、それに従い実験、研究が行われることを強く勧奨する。

生物学的安全キャビネット内で手技や検査の一部を行うことができない場合には、個人的防御装備(例:防毒マスクのような呼吸防護器具(respirator)、フェイスシールド)と物理的封じ込め装置(例:遠心分離用安全容器、密閉型ローター)を適切に組み合わせて必ず用いなければならない。

以下の取り扱いは、封じ込め設備の完備した実験室―バイオセーフティ・レベル3(BSL-3)の施設で、適切なBSL-3での実験手技の訓練を受けた者により行われることが必要である。

試験管内(in vitro)、生体内(in vivo)のいずれかにおいて、ウイルス病原体の増殖を伴う臨床診断検査を行う

細胞を用いたSARS―CoVの複製、または細胞培養からの分離ウイルスの保存にかかわる実験

SARS―CoV検体の培養からのウイルス病原体の分離抽出

SARS―CoVの増殖または濃縮を含む操作

以下の取り扱いには、動物実験におけるBSL-3施設とBSL-3の手法を必要とする。

活性のあるSARS―CoVを用いた、あるいは野生動物源からの非常に近縁のウイルスを用いた動物実験

SARSの推定病原体の確認または特性を決定するための、動物感染実験に関連した操作全般

WHOのSARS実験施設ワークショップからの提言
(2003年10月22日,ジュネーヴ)

非公式のSARS実験施設ワークショップが、2003年10月22日にジュネーヴのWHOで開かれ、検査プロトコールと試薬の標準化、血清学的診断のための陽性コントロール血清のパネル作成、非流行期に非定型肺炎の患者検体を検査することについての指針を提供する、検査室用の指針の実践的計画あるいはアルゴリズムの開発、活性のあるSARS―CoVを用いて研究をしている実験室におけるバイオセーフティと生物学的封じ込めなどに関する、SARS―CoV感染の検査による診断面について議論された。この会議での議論と提言の要旨は、「Summary of the discussion and recommendations of the SARS Laboratory Workshop, 22 October 2003」(英文/PDF)で入手できる。

検体の輸送:

国内での検体の輸送は、各国の現行の規約に則って行うことが必要である。

SARSの「疑い例」あるいは「可能性例」から採取したヒト検体、あるいは
SARS―CoV感染動物由来検体の国際的空輸に際しては、現行の国際航空輸送
協会(IATA:International Air Transport Association)危険物規約に必ず
従わなければならない。

  ・ 危険物索引
  ・ 診断用検体の委託輸送2003

2003版のIATAの規約によると、SARS病原体が入っていることが分かっているか、あるいはそれが疑われる検体のすべてについて、診断あるいは調査研究の目的で移送する場合には、UN 3373「診断用検体」として輸送することができる。

これ以外の目的で輸送される検体および、病原体の意図的継代のために準備された培養検体(IATAの規約で定義されている)は、適宜、UN 2814あるいはUN2900として輸送する必要がある。

輸送するすべての検体(UN 3373,UN2900,UN2814)は、3層の梱包層から成る三重の梱包をしなければならない:

「診断用検体」UN 3373は、品質の良い梱包材で包装されなければならない。つまり、輸送中の衝撃や重荷に十分耐えるだけの強さがある梱包がされなければならない。通常の条件下での輸送で起こりうる振動、温度変化、湿度変化、気圧変化によって生じる可能性があるどんな中身の漏出も防ぐように梱包し、密封しなくてはならない

一次容器は2次梱包材の中に梱包するが、通常条件下での輸送で壊れたり、穴が開いたり、2次梱包材中に内容物がもれたりしないように包装しなければならない。2次梱包は適切なクッション材に包み、最外層の梱包に入れる必要がある。どのような内容物の漏出によっても、クッション材やこの外層の梱包の保護作用を損なうことがあってはならない。

液 体
一次容器は漏出耐性で500ml以下の容量のものでなくてはならない。吸収材を一次容器と2番目の梱包のあいだに入れることが必要である。もし、複数の壊れやすい一次容器をひとつの2次梱包材に入れる場合は、容器を別々に包むか、互いに接触することを避けるように離して配置する必要がある。吸収材は一次容器の内容量全体を吸収するのに十分な量でなければならず、2次梱包は漏出耐性容器である必要がある。一次容器も2次梱包も内部圧力によって、95kPa(0.95 bar)より大きい内外圧力差が生じても漏出が起きないものでなければならない。ひとつの外装梱包容器には4Lを超えた材料を梱包してはならない。

固 体
一次容器は粉末などの漏出のない容器で、500g以下の容量のものでなくてはならない。もし、複数の壊れやすい一次容器をひとつの2次梱包材に入れる場合は、容器を別々に包むか、互いに接触することを避けるようにする必要がある。2次梱包は漏出耐性容器である必要がある。ひとつの外装梱包には4kg以上を梱包してはならない。

航空輸送の場合、完成した荷物の全体の外側の寸法は、最低10cm以上でなくてはならない。

梱包方法は一定の実践的基準を満たしている必要がある。

内容明細、梱包条件、印やラベル、添付書類、冷却剤に関する詳細な情報は、適当な担当局、現行のIATA輸送指針、梱包材会社、クーリエ会社(利用予定の運送会社)などへ問い合わせていただきたい。

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2003/12/19 掲載

 
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