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3/27/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−10


(仮訳)

WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(3月26日、更新第10報)


中国からの症例数と死亡数の更新情報

中国当局は本日公式に、平成14年11月16日に中国南部の広東省で発生した、異型肺炎の集団発生による患者数を792例、死亡数を31例と報告した。患者は広東省の7つの都市で発生した。

中国当局は以前に2月14日付でWHOに対し、平成14年11月16日から平成15年2月9日の間の患者数305例と死亡数5例を報告していた。

新しい報告数の値は、平成14年11月16日から平成15年2月28日の期間を対象としている。

5人の国際的専門家からなるWHOのチームは週末に中国へ到着し、本日、広東省での異型肺炎の報告に用いられた症例定義の検討を行なった。チームはこの定義を、WHOの重症急性呼吸器症候群(SARS)「可能性例」の定義と比べて検討し、両者の定義が一致していると結論付けた。

WHOの専門家チームは引き続き、中央の担当部局及び広東省の保健官僚と、いくつかの症例集積の細部にわたり詳細な討議を行なった。その結果、昨年の11月に中国南部で発生した異型肺炎の症例は、今年2月26日にアジアの国々で見られるようになり、その後世界中のいくつもの都市へ広がりSARSと呼ばれている疾患と、同じ疾病の患者であると言う結論に達した。

中国当局は更にWHOチームに、定期的な地方からの情報更新に基づく新しい報告システムの立ち上げに関して伝えた。WHOは、このシステムにより3月の中国国内からの報告数の情報が入手可能になり次第、提供されることを期待している。

中国で用いられている症例管理の手引きは、WHOが出した感染拡大防止のための勧告に沿っている。

中国はまた共同研究も開始し、SARSの原因病原体の特定に向けて作業しているWHOのネットワークに属する研究所の研究者たちと、国内の患者血清を交換する予定である。

報告症例数の更新


中国からの新しい情報により、昨年11月16日以降に世界中から報告された「可能性例」の総数は1,323例、そして死亡数は49例となった。中国からの報告を除くと、昨日から本日にかけての報告数の増加は41例であった。このほとんどが香港中国特別行政区に集中しており、シンガポールの1死亡例を含んでいる。詳細はWHOのウエッブサイトで入手できる。(下記は感染症情報センター翻訳版へリンクしています)
Cumulative Number of Reported Cases (SARS).


感染拡大防止のための国家的対策

幾つかの国はSARSが更に拡大することを防ぐため、検疫を含む最大限の対策を導入している。SARSのような新興感染症の場合には、その実態はよく知られておらず、集団発生の初期に、感染拡大を防止するために必要な最大限の感染制御対策を設定するのは、公衆衛生上当然な政策である。

国家の保健担当部局の視点からは、人々を感染から守ることができる、一般の人々の間へ疾病が広がることを防止できる、そして特に航空機による旅行を介して国際的に広がることを防ぐことができると期待できる時には、最大限の警戒対策を取る事が正当化される。

SARSの疫学がより詳細に解ってくるに従い、疾病の伝播形式や拡大防止に最も効果がある対策など解ったことに基づいて、このような対策を国内及び国際的に調整し、緩和していく事が可能になる。


第一回のSARS臨床国際症例検討会が本日開催

SARSの臨床像と治療に関する第一回国際症例検討会が、WHOの主催で今日開かれた。電子会議で13カ国からの80人の臨床医が一堂に介した。彼らの討議と会議の結論は本日WHOのウエッブサイト上に掲載された。(下記は感染症情報センター翻訳版へリンクしています)Clinicians hold virtual conference on management of SARS patients.

中国の集団発生に関する以前の仮説:クラミジアによる異型肺炎

中国疾病対策予防センター(中国CDC)は広東省CDCと共同で2月18日に、中国南部の異型肺炎による死亡例の肺から採取した試料のうち、2検体からクラミジア感染の証拠を発見したと発表した。

今週の月曜日に、中国当局はWHOチームへ、起因病原体としてのクラミジアの調査援助を打診した。この依頼は、SARSの病原体の速やかな特定のために設立されたWHOのネットワークに属する11の研究所へ送られた。

翌火曜日には、毎日行なわれているネットワークとの電話会議において科学者たちは、世界中の他の地区から送られてきた、SARSと診断された症例の試料からクラミジア病原体を検出すべく、数多くの検査が行なわれたことを報告した。ほとんどの検査はクラミジアについて陰性であり、本日さらに追加の陰性報告があった。

これらの結果から、対象となった中国の症例は、集団発生の原因で未だ特定されていない病原体とクラミジアが重複感染を起こしていたと考えられる。

ウイルス同定の進展


SARSの原因の究明のために研究者達は可能な限り網を拡げており、パラミクソウイルス科および他の科のウイルスも検討されてはいるが、研究の焦点はコロナウイルス科のウイルスに集まりつつある。診断キットが開発されれば、それにより早いうちに病原体を確実に同定できるとの意見が多い。WHOのネットワークの研究者の中には、ヒトに対する感染が重症化するには、二種のウイルスが相互作用する必要があり、それらのウイルスの重複感染によりSARSが起る、との仮説を立てている者もいる。科学的証拠は、以前にはヒトに感染したり重症な病気を起こしたりするものとして知られてなかった、一種類の新しいウイルスあるいは二種類のウイルスが原因となっている可能性を強く示唆している。

その他に考えられている仮説には、ある動物種に疾病を引き起こす既知のウイルスが、種の境界を超えてヒトに感染した、あるいはヒトに感染する既知のウイルスが変異して、ヒトに対してより重篤な病気を起こす性質を獲得したといったものがある。しかしながら、次第に確実になりつつあることは、SARSは新たに知られるようになった病原体を原因とする、新しい重症疾患であると言うことである。


 
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