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3/26/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−8


(仮訳)

WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の 報告
(3月24日、更新第8報)


旅行者への勧告とSARSの現況

旅行時の注意

重症急性呼吸器症候群(SARS)は2月中旬にアジアで初めて報告された。それ以降、三大陸の13カ国から17人の死亡例を含み、450人以上の患者が報告されている。

平成15年3月15日にWHOは、この時点までの情報と暫定的なSARS症例定義をもとに緊急旅行勧告を発表した。この勧告の目的は、SARSの可能性のある症例について各国の関連当局と臨床医に注意喚起し、SARSを疑わせる症状のある旅行者と旅客機乗務員に対し、医療機関の受診を勧めることである。

現在入手している情報に基づきWHOは、引き続き渡航制限勧告は出していない。3月15日に政府、航空会社、臨床医、旅行者らに対して発表した渡航に関する指針は、引き続き有効である(下記は感染症情報センター翻訳版へリンクしています)。WHO issues emergency travel advisory.

保健当局及び臨床医に対する勧告

SARSの更に詳細な臨床像は、WHOのウエッブサイトに掲載している(下記は感染症情報センター翻訳版へリンクしています):
Preliminary Clinical Description of Severe Acute Respiratory Syndrome.

さらにWHOは、SARSが疑われる例は隔離し、厳格なバリアーナーシングを行なうように提言している: Management of Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS)

WHOと各協力研究施設は、世界の感染症対策のネットワークであるGOARNの枠組みによって、ハノイ・ベトナム、香港特別行政区、台湾・中国の保健当局の援助のために実地疫学チームを派遣している。また先週には、ハノイへ300キロの感染防止用資材と医療品を送っている。

世界中の保健当局と病院関係者はすでにSARSの症状を警戒している。SARSが疑われる例は迅速に診断され、報告されている。患者の適切な隔離と管理によって、新規患者からの二次感染伝播の危険は大きく減少している。

現在までに得た情報によると、引き続き大半の患者の発生は、病院内の医療従事者、患者の家族、その他の患者と密接な接触があった人で発見されている。

患者情報と感染者が報告されている国

13の国々の保健当局によると、本日までに累積で17例の死亡を含む456例の患者の報告がある。これは、一週間前の3月17日の7カ国、150例に比べ一段と増加している。Cumulative total of reported cases, 25 March.

感染者が報告されている国から、最近報告された例のほとんどは「可能性例」である。以前の報告は「疑い例」、「可能性例」の両方を含んでいた。国によってはSARSの症例定義が異なっているところもあり、米国は本日までに37の「疑い例」を報告し調査している。

引き続き香港特別行政区が最も深刻な影響を受けている地域であり、260例の患者と10例の死亡例を報告している。このほかの深刻な影響を受けている地域としては、死亡例はないが65例の患者の報告があるシンガポールと、4例の死亡と58例の患者を報告しているベトナムがある。カナダからは、3例の死亡例と11例の患者報告がある。

「疑い例」と「可能性例」を区別する現在最も有効な手段は、SARSの特徴的所見を呈する胸部レントゲン写真である。香港の科学者たちの「自家製の検査方法」は、3月22日の時点で信頼できる検査結果を提供し始めており、数日の内には主要な研究所でこの方法を用いて検査ができるようになると考えられる。更に精巧なSARSの検査方法も、数週間の内には広く診断に利用する事が可能にようになると期待される。

現在、パラミクソウイルス科あるいはコロナウイルス科に属するウイルスではないかと強く疑われるようになったSARSの病原体の確定作業は、引き続き猛烈なスピードで進んでいる。3月17日に設立されたネットワークに属する11の代表的研究機関の研究者たちは、関係者限定のウエッブサイトで情報交換をし、毎日の電話会議においてウイルス学的又は臨床上の情報の比較検討を行なっている。

3月20日には診断と治療の検討を促進するために、臨床医による第2のネットワークが立ち上げられた。

中国のWHO専門家チーム

WHOの疫学、微生物学、ウイルス学、呼吸器疾患の専門家からなる国際チームは、3月23日の日曜日に中国の北京へ到着した。この多国籍チームは中国の保健省の依頼に基づいて、昨年11月中旬に広東省で発生した異型肺炎の集団発生と、今年2月中旬にアジアで始まった現在のSARS集団発生の関連について調査するために召集された。

5カ国からの専門家を含むこのWHOチームは、中国南部の集団発生における入手可能な症例の疫学的情報と検査情報を検討することになっている。彼らはそのほかに、どのような追加調査が必要であるか、また検査業務とウイルス学的調査を継続するためにどのような試薬、抗体、検査キット、機器設備、専門的技術が必要であるかについて提言を行なう。このような追加提供される技術や機器の投入により、広東省の異型肺炎の原因究明の努力が強化されることが期待される。

国際的拡大への懸念

旅行に関するWHOの第一の懸念は、世界中へ急速にこの疾病が広がり、多くの国で定着することである。このような伝播と定着がどの程度起こっているかは、世界中のSARS症状の高度サーベイランスと疑わしい例の迅速報告によって監視が行なわれている。

WHOへ報告している国の数の多さに現れているように、世界中のこの疾患に対する関心は非常に高い。隔離手順などに関する勧告は、これら手法が導入されてから、始めに診断された症例からの引き続く感染が報告されていないことから、有効であると考えられる*。

現状では、患者の迅速な診断と隔離が感染の国際的な拡大を防いでおり、WHOとしては旅行と貿易に関してそれ以上の制限を加える必要性は無いと考えている。

伝播確認地域への旅行に関する注意


世界中の国がサーベイランス活動を活発化させた結果、伝播確認地域へ旅行した者の中から少数の患者が確認された。現在までこのような旅行歴のあるSARSの症例数が少ないことは、伝播確認地域への旅行者にはほとんど危険が無いことを示している。
入手可能な情報に基づいてWHOは、旅行先にかかわらず、SARSに基づくわずかなリスクが旅行者の健康リスクを著しく上昇させるものではないと考えている。したがって、いずれの渡航先についてもSARSのために渡航制限する必要性はないとの意見は変えていない。

WHOはまた、いくつもの国がそれぞれの国民に対して、地域内での感染が報告された地域へ特に必要のない旅行をわざわざしないように、注意喚起していることも理解している。このような注意は渡航制限には当たっておらず、感染拡大へ懸念を持つ国家の関連当局として当然の責務である。

航空機による旅行に関する注意

多くの人々は、航空機での旅行の安全に関しても心配をしている。当初感染が確認された国以外で発見された患者は、航空機により入国している。

今までのところ、SARSが航空機内で伝播した、あるいは患者と同じ機内にいた他の乗客や乗務員が感染したと言う証拠は全く無い。飛行中に乗客が曝露をうけた懸念がある場合は、乗客及び乗務員の経過観察に関する手順があるのでそれに従って欲しい。仮に航空会社が、SARS「疑い例」を搭乗させた後に機体の消毒を希望する場合は、WHO "Guide to Hygiene and Sanitation in Aviation" (PDF) に示されている手法に従って行なえば、十分に効果が上がると考えられる。

*訳注:この文書が出されてから後に、二次、三次の感染が報告されているが、患者隔離がきちんとなされているかどうかについて不明な点がある。


 
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