IDSC 緊急情報トップ >
 

 

3/26/2003


(仮訳)


WHOによる緊急旅行勧告
(3月15日、ジュネーブ発表)


WHOは昨週一週間のうちに、150例以上の、原因未確定の異型肺炎である重症急性呼吸器症候群(SARS)疑い例の新規報告を受けた。今日までに、カナダ、中国、香港特別行政区、インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムから患者が報告されている。本日未明に、ニューヨーク(米国)からフランクフルト(ドイツ)に到着した乗客の一人が機内で発症し、同行者と共に隔離のために病院へ搬送された。

SARSが短期間に数カ国へ広がったことから、本日WHOが旅行者と航空会社を対象として緊急時対策指針を公表した。

WHO事務総長のGro Harlem Brundtland博士は、「このSARSと言う症候群は、今や世界的脅威である。世界はこの疾病原因の究明と患者治療に協力し、感染の拡大を防ぐ事が必要である」と語った。

現在のところ一般の旅行を制限する勧告は、いかなる渡航先に対しても出されていない。しかしながらWHOは、政府、航空会社、臨床医、そして一般旅行者からの多くの問い合わせに応じて、旅行者と航空機乗務員及び航空会社への手引きを現在提供している。感染の正確な特性は現在調査中であり、この手引きはWHOが入手した初期の情報に基づいて出されている。

航空機乗務員を含む旅行者:すべての旅行者は以下を含むSARSの主要症状と兆候に気づくことが必要である。

  ・高熱(>38℃)

  ・咳嗽、息切れ、呼吸困難などを含む、一つ以上の呼吸器症状
そして、以下の一つ以上の条件を満たすこと:

  ・SARSと診断された人と密接な接触があったこと
  ・SARSの報告がある地域へ最近旅行していること

旅行者がこの組み合わせの症状を満たす場合には、医療機関を受診すべきであり、その際には医療従事者へ、最近の旅行歴に関する情報を必ず伝えることが大切である。上記の症状を発症した旅行者は、回復するまで旅行を中止することを勧める。

航空会社:機内に上記の条件を満たす乗客あるいは乗務員がいる場合には、航空会社は到着地の空港へ緊急連絡をしなければならない。発症者は到着時に、空港保健当局へ評価と管理のために受診することが必要となる。この旅客機の搭乗客と乗務員には、SARS疑い例として患者の状態の情報提供をしなくてはならない。乗客と乗務員は引き続く14日間のすべての接触者の詳細情報を空港保健当局へ提供することが要請される。現在のところ健康状態に問題の無い乗客に関しては、引き続く旅程の中止の必要性を示唆するものは何も無いが、特に上に示された症状を発症した場合には、すべての搭乗客と乗務員は医療機関を受診することが勧められる。現状では、発症しない限り乗客、乗務員への予防的投薬や検査の適用は無い。

この疾患を引き起こしている病原体に関する明確な情報が無い状況では、航空機へ取るべき特別な処置に関しての提言を行うことはできない。一般的予防的措置として、WHOの "Guide to Hygiene and Sanitation in Aviation" (PDF) に解説している手法に従い、航空機体を消毒することが考えられる。

 * * * * * *
更なる情報が得られたことにより、WHOの推奨するSARSの症例定義は以下のように改定された。

疑い例(Suspect Case)

平成15年2月1日以降に以下の症状を示して受診した者で以下を満たすもの:
  ・高熱(>38℃)

  ・咳嗽、息切れ、呼吸困難などを含む、一つ以上の呼吸器症状

可能性例(Probable Case):

  ・SARSと診断された人と密接な接触があった者
  ・SARSの報告がある地域へ最近旅行していること
の二点に加え、疑い例で胸部レントゲン写真に肺炎の所見があるか、RDSの所見があるもの

あるいは

死亡につながった診断不能な呼吸器疾患の患者で、病理解剖結果で原因が特定できないRDS所見を示していたもの

コメント

SARSは発熱と呼吸器症状に加え、頭痛、筋硬直、食欲低下、消耗、混迷、発疹、下痢などを含むその他の症状を伴うことがある。
 * * * * * *
WHOは、この集団発生について更に知見が得られるまで、SARSの患者に対し、隔離とバリアー・ナーシングの手法をとり、臨床的に有効性が示唆されている治療法を採用することを推奨する。同時にまた、すべての疑い例をWHOのような国際的保健機関へ報告することを勧告する。

WHOは世界中の国家機関と密接なコミュニケーションを保っており、疫学的又検査や臨床上の援助も提供している。WHOは各国家機関と共に、この集団発生に対する的確な調査や報告、そして封じ込めを確実に行うために協力している。

*密接な接触(Close contact)とは、SARS患者の看護をした、同居していた、又は患者の気道分泌物や体液に直接接触したことを言う。


 
  IDSCホームページへ