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3/25/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−7


(3月24日仮訳)


WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(3月22日、更新第7報)


SARSウイルスの分離と新しい診断方法の信頼性

 香港大学の微生物学の科学者チームは本日、重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすウイルスの培養に成功したと発表した。同時に同チームによって信頼性のある診断検査の開発について一層の進歩がみられたことが発表された。

香港の研究者は特別な細胞系を用いて、中国南部の広東省からの教授と接触した後に肺炎を発症した患者の肺組織から、疾病の原因と考えられるウイルスを分離した。この教授とその接触者はともに死亡している。

ウイルスの分離によって、診断検査を非常に迅速に開発するための堅実な基礎ができた。

香港の科学者たちは、中和抗体法に基づいた基本的な検査方法を考案した。この新しい検査の正確さを検証するために実験系を組み、今日行なった実験結果によると、8人のSARS患者の血清から、そのウイルスに感染したことの証明となる抗体を検出するできることができた。このような結果に一貫性がみられることは、考案された検査方法がSARS症例を確実に検出していることを示している。

この手作りの検査方法は、更に精巧な検査方法へ開発されると思われる。SARSに対する信頼性のある迅速検査方法は、真性の症例を迅速に確認する方法を必要としている多くの臨床医を支援するために、早急に必要とされている。またこのような検査方法は、この疾患の国際的関心の高まりと新しい地域へ急速に感染が広がっている状況下で、医療機関にあふれている多くの「感染を恐れている人々」を安心させることがでる。

多くのよく見られる又通常自然治癒する疾患の初期症状は、SARSのそれと良く似ている。

ウイルス分離が成された今、香港や他の地域の科学者は病原体の特徴の決定、既知のウイルスとの関係の特定、病原体の最終的同定に向かい、急速に前進する事が可能となった。これらの成果は、平成15年3月17日にWHOによって立ち上げられたネットワークに参加している11の代表的研究施設の間で共有される。

非常に急速な研究の進展

電話会議と電子メールを使って毎日密に新しい研究成果を共有していく今回のような協力体制によって、通常数か月を必要とする進展がわずか数日間で実現可能となった。
「この目覚しい業績は、世界中の国家の知的資源が単一の問題に集中したときに、世界がどれだけの事ができるかを示す一例である」と、今回の国際研究施設ネットワークを取りまとめているWHOのウイルス学者 Klaus Stohr 博士は述べている。

「通常学術的領域で競争者である科学者たちが、今回は事実上肩を並べて働いている。一週間未満で彼らは、他の状況下では恐らく数か月以上掛かる成果を生んだ。この迅速な進歩は、SARSを封じ込める事が可能であり、近い将来感染を終息させるであろうと言う希望を膨らませてくれる」とも、博士は言っている。

SARSの原因であるこのウイルスはいくつかの研究グループによって、よく知られたパラミクソウイルス科に属するものと考えられている。昨日、この科に属するメタニューモウイルス(metapneumovirus)が原因では無いかと示唆する発見が、カナダの研究者により発表された。

メタニューモウイルスは、平成13年6月にオランダの科学者たちによって最初に発見された。彼らの研究所は、今回の新しいWHOのネットワークに含まれている研究所の一つである。その発見の時にすでにこのウイルスは、ヒトに肺炎を含む呼吸器疾患を引き起こす事が知られていたが、SARSの病原体が示しているような、伝播パターンとは異なり、重症度も低かった。

現時点では、別の科に属する全く異なるウイルスがSARS集団発生の原因である可能性も完全に除外することはできない。

原因ウイルスは依然未確定


WHOは、SARSの原因病原体を特定する競争は決して終わっていないと、注意を促している。ウイルスは分離されたが、その同定は未だ済んでいない。協同研究のネットワークに属する他の研究グループは、病原体が他のウイルス科に属する可能性がある手がかりを得たとも伝えている。

SARSは2月中旬に初めてアジアで確認された新興感染症で、三つの大陸に渡り380人以上の感染者を出し、患者の多くに重症肺炎を引き起こした。感染確認地域(Affected Area:その地域において感染が確認された地域)と、国別患者数と死亡者数は、毎日WHOのウエッブサイトで報告されている。今日までに発表された情報によると、報告症例の大半が医療従事者と患者家族および患者との密接な接触があった人々の間で発生している。

調査団の中国への派遣

現在、5人の専門家で構成されるWHOのチームが中国へ向かっているが、その目的はSARSと同様の症状を呈し、医療従事者と患者と密接な接触のあった人たちという良く似た集団に感染が広がった集団発生が、SARSと関連性があるかどうかを調査するためである。

今日の時点では、引き続き香港が最も深刻な影響を受けている地域である。香港当局は、医療従事者、医学生、患者家族、患者と密接な接触のあった見舞い客など222人の患者を報告している。この中で217例が肺炎を引き起こし、多くは重症である。


 
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