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3/24/2003


(仮訳)

WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)の
臨床病像に関する暫定情報

(3月21日)



重症急性呼吸器症候群(SARS)は、アジア、北アメリカ、ヨーロッパで患者発生が報告されている原因不明の疾患である。この情報では、平成15年2月中旬以来、香港特別行政区、台湾、タイ、シンガポール、英国、スロベニア、カナダ、アメリカ合衆国の各国で治療を受けた患者の、臨床上の特徴についての情報を提供する。現在症例定義が広く非特異的なため、この情報には限界があり、あくまでも暫定的なものである。
平成15年3月21日までに特定された患者のほとんどは、25〜70歳までの健常成人であった。15歳未満の小児の症例がごく少数報告されている。

SARSの潜伏期間は通常2〜7日であるが、10日におよぶ場合もある。症状は多くの場合、高熱(>38℃)が前駆し、時に悪寒、戦慄及びその他の症状(頭痛、全身倦怠、筋肉痛など)を伴う。発症時には軽度の呼吸器症状を呈した症例もあった。数例の患者で、有熱前駆期に下痢を伴ったとの報告があるが、典型的な例では発疹、神経学的症状、消化器症状などは見られない。

発症後3〜7日で、下気道症状期が乾性咳嗽と呼吸困難で始まり、低酸素血症が同時に、又は引き続いて見られるようになる。呼吸器症状は10〜20%の例で、気管内挿管と人工呼吸器の装着が必要となるほど重症化する。現在のWHO(世界保健機関)の疑い例、可能性例の症例定義に当てはまるSARS患者の致死率は3%前後である。

胸部レントゲン写真は、有熱前駆期および全病期を通じて異常が見られないこともある。しかしながら多くの場合、下気道症状期には患者の多くが初期の巣状浸潤影から、より広汎な斑状の間質浸潤影へと進行する。SARSの後期の患者の胸部レントゲン写真では、硬化像が見られたものも数例報告されている。

疾病の初期においては、しばしばリンパ球数の減少がみられる。全白血球数は一般に正常又は減少している。疾病の極期には、約半数の患者で白血球減少と血小板の正常下限値又は減少(50,000〜150,000/μl)がみられる。下気道症状期初期には、クレアチン・フォスフォキナーゼ値(CPK)の上昇(〜3000 IU/L)と、肝由来トランスアミナーゼ値の上昇(正常上限値の2〜6倍)が見られる。ほとんどの患者で、腎機能は正常に保たれている。

治療方法として、既知の異型肺炎起炎菌に対して有効な種々の抗菌薬投与が暫定的に行なわれている。地域によっては、オセルタミビルやリバビリンなどの抗ウイルス剤が使われているところもある。ステロイドも、リバビリンや他の抗菌薬と共に、経口的あるいは経静脈的に投与されている。現状では、仮にあるとしても、最も有効な治療方法は知られていない。


 
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