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3/24/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−4
WHOが、本疾患の病原体として可能性が考えられるウイルスについて述べたが、厚生労働省が仮訳したものをここに示す。


(3月20日仮訳)

WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時の集団発生の報告

(3月19日、更新第4報)

ウイルスが原因と示唆する暫定的知見

 ドイツと香港特別行政区の2研究施設において、SARS患者の検体からパラミクソウイルス科のウイルス粒子を検出した。これは、病原体を特定するために努力してきた中での大きな最初の一歩である。これまで多数の高度な設備を有する研究施設において、一般的に肺炎や呼吸器症状の原因であり、SARSが発生している殆どの地域でも広く存在することが知られているインフルエンザウイルスを含め、既知の細菌、ウイルスを検出する試みが行われていたが、いずれも検出できていなかった。
 上記のように、呼吸器疾患の原因になりうる既知の細菌やウイルスを検出することができなかったので、SARSの病原体は、未知の病原体である可能性が強く示唆されてきた。
 今回の結果で、SARSの病原体を発見したと結論付けてしまうのは早計である。全ての研究チームが、今回の結果はあくまでも暫定的なものと強調している。病原体を特定できたと確信をもって結論付けるには、さらに研究が必要である。
 国家、研究所間の協力が引き続き行われている。全ての研究チームは、平成15年3月17日に設立された、11の代表的研究施設からなるSARSの国際研究プロジェクトに参加している。迅速に病原体を確定するためには、これらの協同研究が望まれる。
 患者の検体からパラミクソウイルスの粒子が発見されたことは、SARSの原因を解明する最初の手がかりであり、進行中の研究の方向性を絞り込む上で極めて重要である。病原体が確定されれば、医師の治療方針も、現在行われている試行錯誤の治療方針から、治癒を望める、より的確な薬剤の選択に変更する事が可能となる。起因病原体の知見が増加すれば、診断方法の開発も加速し、その結果、一般臨床医や公衆衛生当局にも、患者診断の有効な手段を提供する事ができる。さらに診断方法の確立は、現在医療機関を受診している多数の「感染を恐れている人々」を安心させることができ、感染に関する「誤った警報」も減少させることができる。


発生国と患者数の更新

 3月19日現在、10カ国(カナダ、中国、ドイツ、シンガポール、スロベニア、スペイン、タイ、英国、米国、ベトナム)から疑い例と可能性例が264例、死亡が9例報告されている。最も報告が多いのは香港、ハノイ(ベトナム)、シンガポールである。詳細は一覧表で情報提供されている。世界中でSARSに対する関心が非常に高まってきている。症例定義に基き、疑わしい例が早期に検出され、すみやかに各国の公衆衛生当局やWHOに報告され、調査が行われているので、SARSのサーベイランスの感度は高いと考えられる。


パラミクソウイルス科

 パラミクソウイルス科にはRSウイルスのように、呼吸器感染を起こすウイルスや、ムンプスウイルス、麻疹ウイルスのように、小児の疾患を起こす馴染みのあるウイルスが属している。これらのウイルスの幾つかは、広く世界中に分布しており、冬季に流行を引き起こす。従って病原体を検索する際には、これらの既知のウイルス粒子が検出される可能性がある。現時点では、SARSの病原体を検出したのではなく、一般的な病原体が紛れ込み、それを検出した可能性も否定できない。
 パラミクソウイルス科にはヘンドラウイルス、ニパウイルスという近年になって発見されたウイルスも属している。これら2つのウイルスはパラミクソウイルス科としては例外的に、ヒトを含めて多くの動物に感染し、時に死に至らしめることもある。この科に属する他のウイルスの多くは、単一の種類の動物にのみ感染することが多い。
 ニパウイルスによる最初のヒトの死亡例は1998年、マレーシアで豚と濃厚に接触した人で起きた。この集団発生では265例の脳炎患者が報告され、そのうちの105例が死亡した。ヘンドラウイルスは1994年と95年にオーストラリアでウマの重症呼吸器疾患を引き起こし、ヒトも感染し2例の死亡者が報告された。いずれの集団発生においてもヒト-ヒト感染は報告されていない。現時点では、この2つのウイルス疾患に特異的な治療法はない。


 
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