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3/20/2003

重症急性呼吸器症候群(SARS)−3
WHOのQ&Aを元にして、厚生労働省が日本語のQ&Aを公表した。

 


WHOの重症急性呼吸器症候群(SARS)のQ&A
(仮訳・注釈)

(これはWHOが3月18日に公表したQ&Aを厚生労働省が国内専門家の意見をもとに仮訳し、注釈を付したものです。参考としてお使いください。)


1:SARSの症状はどういうものですか?
 SARSの主な症状は、38℃以上の高熱、痰を伴わない咳、息切れと呼吸困難です。また胸部レントゲン写真で肺炎の所見が見られます。SARSには、頭痛、悪寒戦慄、食欲不振、全身倦怠感、意識混濁、発疹、下痢など他の症状が見られることもあります。


2:SARSの感染力はどの位ですか?
 現在分かっている範囲では、感染した人の飛沫、体液を通じて感染すると考えられています。従って、感染した人と濃厚な接触をしなければ、人から人に伝播しないと考えられています。いまのところ患者の大部分は、SARS患者に医療行為を行った病院スタッフ、患者と接触のあった家族の人達です。どの位の量の病原体によって感染が引き起こされるのかは分かっていません。


3:SARS患者はどのように管理すればよいのでしょうか?
 SARS患者は、ドアが閉鎖された陰圧の病床などに入院させることと、呼吸器、粘膜からの感染を防ぐ厳密な感染防御対策(バリアナーシング)が推奨されます。SARSが疑われるが診断のついていない患者も、他の疾病の患者と同室にすることは避け、別の独立した病室を使用することが重要です。病院スタッフ、面会者は患者と接触する場合には、有効なフィルターの付いたマスク、医療用のゴーグル、ガウン、顔面カバーの着用が必要です。(注 医療機関での実際の対応の際には、3月18日付け結核感染症課長通知(健感発第0318002号)にお示しした患者の医療管理に関するWHO文書をご参照ください。)


4:SARSの治療法は?
 様々な薬剤が試みられましたが、現時点で予防、治療のために推奨される薬剤はありません。抗生物質は無効のようです。適切な防護体制の整った医療機関での保存的治療が中心になります。適切な保存的治療によって症状が軽減し、集中治療室から一般の病室に移ることが出来た患者さんもいます。


5:この病気の病原体がわかるのにどのくらい時間がかかりますか?
 病原体を特定するための国際研究プロジェクトが3月17日立ち上げられました。世界10カ国にまたがる高度な技術を持った11の研究施設が毎日連絡を取り合いながら協力して病原体の特定に取り組んでいます。これらの施設には患者及び剖検例から様々な検体が集められており、病原体を特定するための検査が進行中です。


6:SARSの感染が拡大する速度は?
 SARSはインフルエンザより感染性が低いと考えられています。潜伏期は短く、3〜6日程度だと考えられています。しかし、海外旅行の移動が短時間で可能となったことで、患者が急速に世界中に拡大する危険性が生じています。


7:SARSの最初の患者は、いつ、どこで報告されましたか?
 平成15年2月26日に、男性1名が、高熱、痰を伴わない咳、筋肉痛、軽い咽頭痛の症状で、ハノイ(ベトナム)の病院に入院しました。この患者は、入院後4日の間に呼吸困難が悪化し、高度の血小板減少と呼吸窮迫症候群の徴候を示して、人工呼吸器を必要とするようになりました。


8:現在までに、何例のSARSの患者が報告されていますか?
 平成15年2月1日から3月18日の間に、4例の死亡者を含む219例が報告されています。SARSの初期症状は、インフルエンザを含む他の多くの疾患と同じです。世界中でこの病気の危険性に対する認識が高まり、公衆衛生当局の関心が深まったことで、疑い例のサーベイランスが充実し、迅速で正確な報告が行われるようになりました。しかし、報告された疑い例のすべてがSARSと証明されたわけではありません。世界中から数多くの患者報告や、うわさが流れていますが、これらのほとんどがSARSと初期症状が良く似た、インフルエンザのような疾患の、毎年冬の時期に見られる流行に過ぎませんでした。SARSの報告患者数と、死亡者数の累計は、WHOのホームページで常に更新されています(注 厚生労働省ホームページからリンクされています)。


9:何カ国からSARSの報告がされていますか?
 平成15年3月18日の時点で、8カ国から報告されています。このうち4カ国では輸入例のみで、その地域での二次感染は報告されていません。このように、患者が報告された国でも、国内での病気の拡大を示唆する情報は無く、一般の住民には感染の危険性がないと考えられています。


10:中国広東省の集団発生との関連はありますか?
 平成14年11月に広東省で発生した、非定型(通常と異なる)肺炎の集団発生を解明するための調査は、現在も積極的に行われています。この調査からの知見が、広東省の事例とSARSの関連の有無を明らかにする一助になると思われます。


11:SARSは生物テロですか?
 SARSに生物テロが関与していると示唆するものは何もありません。


12:一般の人が、心配する必要がありますか?
 この病気は重症になることもあり、海外旅行により、比較的短期間に複数の国に拡大しました。従って、今後も十分に注意する必要があります。しかしきちんと予防対策をとればSARSの感染性は高くはありませんし、死亡率も低いです。平成15年3月15日の時点で、患者の90%以上はバリアナーシングを行えば感染を防止できる病院スタッフです。現時点で症例の約10%が病院スタッフ、患者との濃厚な接触によるものです(濃厚な接触とは、SARS患者の看護・介護をしたり、同居していたり、患者の気道分泌物、体液に触れることです)。3月15日のWHOの緊急情報以来、孤発的な症例の報告のみであり、二次的な集団発生は生じていません。


13:今、旅行しても大丈夫ですか?
 WHOは世界のどの地域に関しても旅行制限を勧告していません。しかし、全ての旅行者は上記のSARSの主な症状、徴候を理解しておくべきです。これらの症状が生じた者で、SARSと診断された人と濃厚な接触をしたか、SARSが拡大している地域に最近旅行した人は、医療機関を受診し、旅行歴を伝えて相談する必要があります。上記の症状が見られる旅行者は、完全に回復するまで移動しない方がよいでしょう。


14:WHOの国際旅行勧告の目的は何ですか?
 WHOが3月15日公表した勧告は、人々に対してSARSがどのような病気であり、どのようなことを医師に報告する必要があるかを説明するためのものです。WHOの勧告は旅行のキャンセル、変更を勧めたものではなく、貿易、観光は制限されるべきではありません。この勧告の目的は旅行者、公衆衛生当局の関係者、医師の認識を高めることが目的であり、旅行を制限するものではありません。


15:今回の事例がさらにインフルエンザの大規模な流行にになる可能性は?
 確かに当初懸念されましたが、検査上、SARSの病原体がインフルエンザウイルスであるとする結果は得られていません。


16:一般の人はどうすれば最新の情報を知ることができますか?
 一般の人も、疾患の発生とその対応方針を毎日更新しているWHOのホームページで情報が得られます(注 厚生労働省ホームページからリンクされています)。また、複数の国の公衆衛生当局が一般および医療関係者向けのホームページを立ち上げて情報を提供しています。


17:WHOはどのように対処していますか?
 WHOは国際的感染症対策ネットワーク(Global Outbreak Alert and Response Network 、GOARN)を通して、関係各国と協力してこの集団発生の世界への拡散を追跡するとともに、すみやかに病原体を特定し、診断の精度を高め、推奨される治療法を情報提供できるよう努力しています。またWHOは患者発生国の公衆衛生当局とともに、必要な疫学、医療、物資の援助を行っています。
 WHOの疫学、診療、感染制御、検査の専門家チームは各国、特にベトナムの担当部局を支援しています。ハノイのWHOの派遣チームは世界中の多数の機関から人的、物的な協力を得ています。またWHOの疫学チームは香港と中国本土の調査にも協力しています。


18:多国にわたるSARSの集団発生に対する国際対応の目標は?
 WHOが調整している国際対応の目標は;
 ・ この集団発生を封じ込め、終息させること
 ・ 病原体を特定すること
 ・ 有効な治療法を確立すること
 ・ 必要な人的、物的支援を行い、患者発生国の公衆衛生当局に協力すること
 ・ 公衆衛生当局に情報を提供し、国民の不安に対応すること


19:前向きな成果は得られていますか?
 良好な保存的療法により、ベトナムでは相当数の患者の病状が改善しています。さらに今回の国際的なサーベイランスシステムは感度が高く、疑い例をすみやかに報告できる手段であることが立証されました。世界中の公衆衛生当局がSARSの危険性に深い関心を払っています。過去3週間の症例についての情報の蓄積によりこの病気の病態が明らかになることも期待されています。国際的サーベイランスの導入と症例のすみやかな隔離により、現在のところ、二次的な集団発生は回避できています。


 
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