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WHOのSARS科学研究諮問委員会が第一回会合を開催

2003/10/22 WHO原文


WHOのSARS科学研究諮問委員会は10月21日に、ジュネーヴにおいて2日にわたる第一回会議を開催した。30人以上に及ぶ第一線のSARS研究者が集まったこの会議は、この疾患への理解を一層深め、その再発生に備えるために、最も緊急に必要とされている科学研究を特定する目的で開催された。

来月、優先的研究課題について発表することで、参加者の合意を得た。これらの課題は、治療効果と感染制御、そして社会的影響も含め、大きく、疫学、検査診断学、集団発生対策、臨床(症例管理)に分けられる。研究項目は、この会議参加者らにより更に検討される予定であるが、公表のために一週間以内に最終的に取りまとめられる。

研究項目は、最も対費用効果の高い感染制御対策を特定するために、更に科学的根拠を必要とする領域を含め、今回の集団発生中に提起された幾つかの問題点に関する議論や、その後得られたデータの解析に基づいて設定された。参加者らは、世界がSARSの再発生を検知でき、より迅速に制御でき、少ない費用で、社会的な混乱を引き起こさない方法で対応できることを確実にする必要が極めて大きいことで一致した。

主要な議題の一部

世界的なSARSアラートシステム

会議参加者らは、新規症例検知を実際に行うときの対策準備のレベルに関して、現在のアラートのシステムがおそらくは重症患者の集積(クラスター)の検知に十分に役立つと述べた。誤ってアラートが出されることは十分予期できるし、実際に既に起こっている。そのような出来事は、アラートシステムがしっかり働いていることの再確認となる。しかしまた、SARSの孤発例を早期に検知することは難しいであろうということで、参加者らは合意した。

軽症のSARS症例や非定型的な症状を呈する症例は初期に見逃される可能性もあるので、リスクの段階*(起源・潜在地域、発生警戒地域、低リスク地域)に基づき決められたサーベイランスの強化の度合いによって、幾重かの検知のためのラインを整備することが重要である。さらに、世界の人口の少なくとも半数は、簡単な胸部レントゲン撮影を行うことができる施設を受診することもできないと言う事実によって、この世界的なアラートのシステムは弱体化される。

*SARSの集団発生終息後の期間におけるアラート、情報確認、 公衆衛生上の管理」参照 

初期の集団発生が起こった地域への最近の渡航歴がある者に対して、高度に警戒する方針を継続している国々もある。他の臨床所見、検査所見、疫学的徴候がSARSと一致する場合は、こうした渡航歴を聴取できなかったとしても、それによって自動的にSARSを鑑別診断から外すべきではない。ひとりの感染者との接触が国際的拡散の発端となったメトロポールホテルの事例は、この集団発生終息後の時期に渡航歴が果たす役割の限界を示すひとつの偶発的出来事である。国際空港近くの主要な交通の中心となるところはすべて、国際的拡散の同様な発端となる出来事が起こる場となり得る。

資源不足の環境下における対策準備
3月12日と15日の世界的な警告の後に、輸入症例を経験した国々のほとんどが、それ以上の感染伝播を食い止めることができたか、あるいは非常に少ない数の症例数に抑えられたことが、高いレベルの警戒が有効であることを示している。仮にSARSが再発生したとしても、現状の警戒レベルで迅速に検知し、封じ込められる程度の、小規模な患者の集積として起こることが期待される。

主な懸念材料は、医療保健基盤が症例の検知、隔離、集中治療、接触者追跡調査などの需要に対応しきれない可能性のある、資源が不足気味の地域や施設において患者が発生することである。そういった環境での集団発生の動きは、前回の最初の集団発生中に見られたのとは異なる様相を見せるようになる。感染の伝播を増幅するとされている最新で高度な病院設備や治療方法がないため、発展途上国では、他で見られたのと同じ理由からの爆発的な症例数の増加は経験しないかもしれない。しかし他の多くの要因、たとえば病棟が満杯であることや、適切な隔離設備が無いことは、“super-spreading”と呼ばれる出来事に寄与するかもしれない。

中には、特にリスクが高いかもしれない地域や領域を特定する方法を中心とした議論もあった。ひとつの取り組み方として、航空機利用客の流れを評価し、どの都市が国際的な感染の拡散に最も無防備であるかを判定する方法がある。これによって、強化サーベイランスと予防対策計画の支援を、最もリスクが大きいと考えられた地域に集中することが可能になるであろう。

診 断
SARSの診断は難しく、現在使用できる臨床検査法にはすべて限界がある。現時点では、臨床検査として推奨できる唯一の「ゴールド・スタンダード」は存在しない。それぞれの疾病段階ごとに、異なる適切な検査がある。現存の血清学的検査の信頼度に影響を与えるもうひとつの問題は、広範に分布している、その他のヒトコロナウイルスとの交差反応である。

二人以上の症例が同一の医療機関の単位内で(病院、病棟、医療ユニットなどで)、10日の期間の間に検査陽性と確認されることは、集団発生が終息した後の状況においては、非常に重要な意味がある。それは、たとえば次の世界的緊急事態の開始を示唆しているのかもしれない。このことから、そして診断検査の不備という見地からみて、専門家らは厳しく確認を行うという方針を推奨した。そのため、ひとつの検査施設での陽性結果は、外部の、国際的に認知されているリファレンス研究施設で確認することが必要であるとされた。検査の精度保証のシステムや、臨床家が診断の際に難しい選択をする一助となる、国際的に合意されたアルゴリズムも、必須なものと判断された。

上記の様な問題点は、10月22日のSARSの検査部門ネットワーク会議(Laboratory Network Meeting)でさらに検討される。

たとえば免疫学的あるいは遺伝的マーカーなどを用いて、どの患者が重症化し、その患者が“super-spreading”に関与するであろうかなどを特定するいくつかの方法は、診断に利益をもたらす。医療基盤などの資源に乏しい状況に適した診断検査の開発は、特別な懸案事項である。

SARSコロナウイルスの考えられる進化
数々の動物種におけるコロナウイルスの研究から、これらのウイルスのうち幾つかは既にひとつの種から他の種へ移行したことが示され、SARSウイルスがもともとある動物の自然宿主からヒトへ種を飛び越えて広がったという仮説を支持している。最近の実験的研究で、SARSウイルスはふたつの動物種に簡単に感染しており、ひとつの集団発生と次の集団発生の間にSARSウイルスが「隠れる」ことのできる動物宿主の種は、当初想定していたよりさらに幅広いことが示唆されている。

機械的な機序でコロナウイルスが拡散することが動物実験により示された。この拡散の様式が、環境を介してのウイルスとの接触が、感染伝播に明らかな役割を果たしていると考えられる、淘大花園(アモイガーデン)での集団発生のような事例に寄与していると考えられる。

機械的な機序でコロナウイルスが拡散することが動物実験により示された。この拡散の様式が、環境を介してのウイルスとの接触が、感染に役割を果たしていることが明らかな、淘大花園(アモイガーデン)での集団発生のような事例に寄与していると考えられる。
コロナウイルスの中には、気温の季節的変化にもかかわらず、動物宿主の中で生き延びるものもあると考えられている。他方、より軽症の病態を起こす株に突然変異したものもある。これらの特徴がSARSコロナウイルスにも当てはめることができるとして、将来的なSARSウイルスの進化に関する結論に至る前にさらに多くの研究を行う必要がある。

病院内での増幅:感染制御対策の役割
十分に整備された病院における感染伝播の増幅はSARSに特有の特徴であった。幾つかの事例においては、完全装備をしたスタッフが感染した。会議参加者らはさらに、特定の高度な手技、特にエアロゾルを産生するものが感染のリスクを大きく増強し、逆に余り高度でない医療機関が健闘したという、有力な証拠を提示した。病院を中心とした感染の中には、感染制御対策の明らかな失態によって生じた可能性があるものもある。これらとその他幾つかの場合で、行動の改善に社会科学分野の研究が助けとなり、同時にまた、病院スタッフが新しい疾患、新しい種類の患者、看護の際の新しい必要事項などを使うための著しいストレスへ対応するための助けともなる。

空気感染の伝播を防止するためには、不釣り合いに大量の資源が必要となる。必要とされる感染制御手技はまた、スタッフに対する負担が非常に大きい。SARSは空気感染とは考えられていないので、飛沫や体液への接触による感染伝播の防止に必要な対策と比較検討し、その対策の必要性を研究により明らかにしなければならない。個人防御装備の必要性は、どのような治療手技を行うかに関連していることが合意されており、また別の緊急事項に先だって、十分な水準の看護と、適切な防御を提供できると共に、同時に適正な価格で、継続供給できる装備について十分に考慮しなければならない。

実験室内バイオセーフティー
実験室内のバイオセーフティー上の事故によるSARSの再発生を防止するための、適切な対策が国際的に必要とされている。保健当局には、ウイルスに関する研究を行っているか、検体を保存しているすべての施設の一覧を作成することが推奨される。そして、その情報はWHOへ国際提供される必要がある。

感染制御への介入
迅速な症例の検知と隔離、それと平行しての接触者追跡調査と経過観察は、一般的にある新しい疾患の出現に対応する効果的方法と考えられている。これによって、地域社会の中で循環している感染力のある個人のプールは減少し、接触者の場合には、特に信頼性のある診断検査の存在しない状況で、臨床的に疑いを持つレベルがより鋭敏になる。しかしながら、より効率的な接触者追跡調査に必要とされる情報を管理するためには、情報技術分野からの十分な支援を必要とする。接触者追跡調査への最も効果的な取り組み方に関する研究も必要である。

疫学、臨床、検査の分野からの情報をリアルタイムに収集することと、これらを国際社会が利用できる単一のデータセットへ集約することが、もうひとつの重要な課題である。このようなデータベースを利用できることは、SARSやその他のいかなる新興感染症の集団発生が起こった時にも、治療を含めたあらゆる介入・対応の効果の即時的な評価に大きく貢献するであろう。

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(更新日:2003/11/10)