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2003-04シーズンのインフルエンザ予防接種:SARSへの配慮を含めた提言

2003/9/2 WHO

SARS再流行の懸念
先般のSARSの世界的な集団発生により、類似の症状を引き起こす呼吸器疾患の発生に関する懸念が高まった。SARSの世界規模の集団発生は夏の期間中封じ込められていたが、季節性に従ってSARSが再度流行するかどうかの可能性についてはほとんど分かっていない。呼吸器疾患によっては、気温や湿度が高い場合にはほとんど発生せず、気候が涼しくなると再度発生するようになるものが幾つかある。

現時点では、SARSにはワクチンは無く、効果的な治療方法もなく、治療開始時に利用できる信頼性のある診断検査法も無い。インフルエンザシーズン中のSARSの再流行が否定できないため、保健医療当局の中には、インフルエンザや他の呼吸器疾患の症例、特にそれらが医療施設内での患者の集積として発生した場合に、SARSが疑われて、経済的に負担の大きい予防措置や調査を行うことになるだけでなく、医療サービスの現場での混乱が生じるのではないかと心配するところもある。

SARSが多くの医療従事者を巻き込んで、医療施設内で感染伝播を起こすことは、先の世界規模での集団発生において特に目を引く特徴のひとつであった。WHOは、同一の医療機関の施設単位で、発熱と下気道感染症状(咳嗽、呼吸困難、息切れ)を示す2人以上の医療従事者の発生が、10日間の間に前後してあった場合に、SARSの集団発生の可能性を疑い、更に放射線学的調査や臨床検査を行うべき理由になると考える。(Alert, verification and public health management of SARS in the post-outbreak period [日本語:SARSの集団発生終息後の期間におけるアラート、情報確認、公衆衛生上の管理] を参照)

インフルエンザとインフルエンザ予防接種
インフルエンザは、発熱と呼吸器症状を生じ、SARSの疑いを引き起こす可能性がある幾つかの疾患のうちのひとつである。しかしながらインフルエンザは、施設内や地域社会における集団発生と地域的流行の可能性があることから、特に懸念対象となっている。一般的に、季節的流行の間に毎年世界中で全人口の10〜20%がインフルエンザに罹患し、その結果、300〜500万の重症例と少なくとも25〜50万の死亡がでている。

インフルエンザに関連した重症例と死亡例のほとんどは、肺炎を含めた二次的な合併症のリスクが高い特定のグループの間で発生する。このようなグループには、高齢者、免疫機能低下者、慢性の心循環器系疾患、呼吸器疾患、腎疾患、代謝性疾患を基礎疾患に持つ者などが含まれている。

インフルエンザに対する安全で有効なワクチンの入手は可能であり、これら高リスク群に含まれる人々に対して、毎年接種が推奨されている。インフルエンザを予防する最も有効な方法は、毎年インフルエンザ予防接種を受けることである。これに加え、高リスク群とその治療や看護を行う医療従事者へのインフルエンザワクチン接種により、SARSと間違えられる肺炎症例の数を減少させることができる。

インフルエンザワクチンは、例えば施設内で看護を受ける高齢者において、インフルエンザによる死亡を80%、入院や肺炎の発生を50〜60%、また、インフルエンザの発症を30〜40%防止する。

より詳しいワクチンの有効性に関する情報は下記を参照
- WHO recommendations on the use of inactivated influenza vaccines (PDF)
- Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (United States of America)

SARSに関連した懸念のため、幾つかの国々の医療保健当局は、既にインフルエンザに関連した重症化や死亡について高リスクであることが知られているグループへの予防接種に、高い優先順をおいている。医療従事者は、感染への抵抗力が低いグループへ感染を広げ、高齢者や他の高リスク群の看護・介護施設内においてインフルエンザ集団発生を拡大する可能性があるため、彼らに対するワクチン接種を考慮している国々もある。このようなグループに密接に接触する医療従事者に対して予防接種を行うことで、高齢者や他の高リスク群の看護・介護施設内においてインフルエンザ集団発生が生じる確率を減らすことができる。

インフルエンザワクチンは十分に活用されてはいないので、WHOは現在のワクチン接種の勧奨に沿ったこのような動きが、率先して各国で取られることを歓迎する。世界中で推計10億の人々が、肺炎と、インフルエンザによる超過死亡を含む重症化の高リスク群にあたる。インフルエンザに対する予防接種を受けているのは毎年2憶5,000万人のみであり、先進国が主である。同様に、罹患リスクの高い人と接触する医療従事者の予防接種率は、ほとんどの国で低いままである。WHOは最近になって、高齢者人口における予防接種率の達成目標を、2006年までに最低50%、2010年までに最低75%と設定した。(Prevention and control of influenza pandemics and annual epidemics (PDF) [日本語版] を参照)
 
現時点でこの世界的目標の達成を阻む鍵となる要素は、インフルエンザワクチンの供給に限界があることである。ワクチン製造会社は、2003年のワクチン供給量を大幅に増やすことはできないが、2004年にはワクチンの増産が可能であるだろう。

これらを考慮してWHOは引き続き、インフルエンザによる深刻な合併症を発症するリスクが最も高いグループと、これらの人々を看護あるいは介護する医療従事者に対し、ワクチン接種を優先させることを提唱する。このような的を絞ったインフルエンザワクチンの使用により、インフルエンザによる健康被害を減らし、利用可能なワクチン供給を最大限に有効利用する、最も効果的な戦略がとれる。これにより、SARSと誤認されたり、高価な検査を必要とするような疑いを招いたりするかもしれない呼吸器疾患の、症例数の減少を図ることもできる。

10月6日にWHOは、ヒト社会で現在循環しているウイルス株に対して有効なインフルエンザワクチン成分に関して、本年度の提言を発表する。この様な提言は毎年2回、北半球と南半球のインフルエンザ流行シーズンを見越して出されている。

WHOはこのインフルエンザ予防接種に対する提言を、SARSの発生の疑いが想定される今シーズンの流行期における経験と、近々ワクチン供給量が増加する見通しの双方に従って、改定していく予定である。

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(更新日:2003/9/4)