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2003/6/10(最新版)

 


重症急性呼吸器症候群(SARS)管理例(6訂)

(感染症情報センター案)


*Disclaimer : この管理例は、WHOの管理指針に準拠し、米国CDC、香港特別行政区政府衛生署など、世界でこれまでに得られた知見に基づき、SARSの感染拡大に最も有効であると考えられる「一例」として作成したものです。実際にはこれを参考に、各施設における実情に合わせてご判断ください。また、本指針例は、現在までのSARSに関する最新の知見と入手可能な疫学的情報に基づいており、新しい情報が集まるにつれて今後も改定されていきます。

この管理例は、WHOの管理指針に準拠しています。
SARSのサーベイランスの症例定義院内感染対策指針(WHO)も参照してください。

1. 「要観察例」への対応

厚生労働省から示されたSARS「疑い例」および「可能性例」の症例定義を満たさないが、症状の進展に十分注意すべきで、状況に応じそれらに準じた対応が必要と考えられる者を「要観察例」と定義し、以下にその対応例を示す。実際にはこれを参考に、個別の症例の状況、各施設や自治体の実情に合わせてご判断ください。

1. 「要観察例」には具体的に、以下のようなものが考えられる。

 

38℃以上の発熱

呼吸器症状
(咳、呼吸困難等)

発症前10日以内の、SARS患者との接触あるいは地域内感染伝播が生じている国への渡航歴・居住歴のいずれか

1

×

2

×

3

1) 上記のいずれかの最終曝露日から10日を若干超えている場合。
2) 当該地に渡航した時期が、WHOの「最近の地域内感染伝播が疑われる地域」の時期に該当しないが、その前後数日間に渡航した。
3) WHOの「最近の地域内感染伝播が疑われる地域」ではないが、外務省から渡航危険情報が出されている地域に渡航した


2.

「要観察例」に該当しないが、渡航歴または、SARS患者との接触歴がある無症状の者との密接な接触者で、感染症の症状を呈している者は、現時点まで潜伏期の症例からの感染の報告がないことから、一般の医療機関において、その他の感染症が疑われる者として通常の診療をうけてかまわないと考える。

3.

受診時:受診前に事前に医療機関への連絡を行い、マスク着用やトリアージ等の「疑い例」への対応に準じた感染予防策を講ずるよう促す。

4.

入院:基本的に必要とは考えられないが、診断上及び治療上の必要性や、家庭における隔離が可能かどうか等、個々の事例ごとに主治医が総合的に判断する。帰宅させる場合には、症状の進展に十分注意を払い、症状が悪化すれば直ちに連絡するよう指示する。また、症状が消失するまでは、家族を含めできるだけ周囲との接触を控えることが望ましいが現実的に対処するよう指示する。少なくとも発症後3日目には患者の状態を受診医療機関が確認することが望ましい。本人、家族に対して、SARSの症状や伝播形式などに関する情報提供を行い、健康状態の観察に関する指導なども「疑い例」の接触者の管理と追跡調査に準じて行う。
「疑い例」の外来での管理を参照。)

5.

検査:あくまでその他の除外診断を速やかに行うことが優先される。

6.

72時間の経過観察を行い、この間に症状の進展がない場合には医療機関で再評価を行う。明らかな他の原因が認められず、症状の改善がない場合には、「疑い例」に準じ入院を考慮し、SARSコロナウイルスに関する検査を実施することが望ましい。


2. 「疑い例(Suspected case)」の外来での管理

1.

SARS(当該地への渡航から10日以内で、38℃以上の発熱、呼吸器症状がある)を心配している患者には、すみやかに受け付けなどに申し出てもらう(患者への注意書き等を掲示しておくことが望ましい)。患者にはマスクを着用させて、出来るだけ他の患者と接触しないような隔離室・個室等の場所に誘導する。医療従事者によるトリアージを行うことが推奨される。

 SARS関連の患者の対応をする職員は必ずN95以上の性能のある防御マスク、手袋をつけ、ゴーグルなどで眼の感染防御をし、患者と接触する前後などにはよく手を洗う。手袋をした場合には、はずした後も手洗いをする。

2.

診療に当たる医療従事者は飛沫感染、接触感染、空気感染に対する個人予防策をとり、N95以上のマスクを着用する。使われた手袋、聴診器や他の器具も感染を起こす可能性のあるものとして取り扱う。

適宜、適切な濃度に薄めた漂白剤や消毒用アルコールでの消毒を行うことが望ましい。

3.

(1) 発熱、(2) 咳又は呼吸困難感、(3) 伝播確認地域への発症前10日以内の旅行歴又は居住歴、あるいはSARS「可能性例」との接触があるか確認する。

4.

上記3点をみたす「疑い例(Suspected case)」であると考えられた場合には、最寄りの保健所に届け出ると同時に、SARSウイルスとその他の病原体との重複感染の可能性も考慮に入れ、肺炎の通常の原因を除外するために、すみやかに胸部レントゲン撮影、血球検査(CBC)、生化学検査、インフルエンザ等の可能な迅速病原診断法を行う。この際、病原体検査用の検体採取等を行う。

(検体と採取方法はSARSに関する検査対応についてを参照する</p>

5.

胸部レントゲン写真に異常所見が無い場合は、

1)

現時点では本人の経過観察および周囲への感染拡大予防のため、入院とすることが望ましい。

・入院させる場合には、可能性例に準じ、念のため、空調を他と共有しない個室とし、医療従事者は接触および空気感染の個人予防策(手袋、ゴーグル、マスク、ガウンその他)をとる。

2)

帰宅させる場合は、

・マスク(外科用又は一般用)着用、手洗いの励行等の個人衛生的な生活に努め、人ごみや公共交通機関の使用をできるだけ避ける。回復するまで自宅にいるよう指導する。家族との接触も少ない方が望ましいが現実的に対処する。(これまでの知見では、有熱前駆期での感染の危険性は、肺炎期に比べて低いと考えられている。)

・呼吸器症状が悪化すれば直ちに医療機関に連絡した上で受診するよう指導する。

注)帰宅させる際には、患者に以下の通り説明する。

・発熱後3日程度で症状が軽快した場合は、SARSの可能性は少ないと考えられるが、念のため医療機関を再受診し、医師の判断を仰ぐ。

6.

胸部レントゲン写真で、片側、または両側性の肺浸潤影を認めた場合は、「可能性例」として最寄りの保健所に届け出るとともに以下のような対応をする。


3. 「可能性例(Probable case)」の管理

1.

可能性例は原則個室入院とする

 

「可能性例」の隔離あるいは入院のための病室は、次に示す優先順位で選ぶ。
  1. ドアが閉鎖された陰圧の個室
  2. 専用の手洗いなどを完備した個室
  3. 患者が複数で上記が不可能な場合は、なるべく独立した手洗いと空調システムなどを完備し、SARS以外の患者との接触を断つことの出来る場所にある病室。

2.

空気、飛沫、接触感染に対する予防措置を全て含めた、厳格なバリアナーシングを行う。

 

SARS患者の検査、治療には可能な限り使い捨て医療器具を用い、適切に廃棄する。やむを得ず再使用する時は、業者の仕様書に沿って滅菌する。器具の表面は、ウイルスに有効性が証明されている広域消毒剤で消毒する。

 

患者の隔離ユニット外への移動は避けなければならない。移動する場合には、患者にN95以上のマスクを着用させる。

 

ネブライザーの使用、胸部理学療法、気管支鏡、胃内視鏡などのように気道を侵襲する恐れのある処置を行なう場合には、特に注意が必要である

 

以下の個人防御策は隔離領域に立ち入る総てのスタッフ及び面会者が着用しなくてはならない
  N95マスク(最低限)
  手袋(両手)
  ゴーグル
  使い捨てガウン
  エプロン
  汚染除去可能な履物

マスクについては「感染防御マスクについて」を参照に、N95およびそれと同等以上の性能のマスクを「フィットテストキット」を行って用いるのが望ましい。

3.

以下の臨床検体を「SARSに関する検査対応について」に従って採取し、既知の異型肺炎の病原体感染を除外すると同時に、最寄りの保健所・地研と相談して検体の検査を依頼する。「可能性例」は原則として国立感染症研究所へ検体を送付してSARSウイルスの検査を行う。

 

1)

病原体検索用の検体;喀痰、鼻咽頭拭い液、咽頭拭い液、血清(ペア血清 を含む)、便、尿

 

2)

一般検査項目;CBC, CPK, ALT, AST, BUN、電解質、CRPは必須

 

3)

血液培養

 

ペア血清は、仮に採取した症例が後にSARS症例から除外された場合も、この疾患を理解する上で非常に貴重な材料となる

4.

通常の肺炎(異型肺炎を含む)に対する治療および臨床症状に応じた治療が推奨される。(患者のケアに当たるものは、すべて飛沫、接触、空気感染予防策をとる。飛沫を生じる可能性のある治療あるいは処置には特別の注意を払う。)

※飛沫、接触、空気感染予防策とは、隔離施設、手袋、ゴーグル、マスク、ガウンその他の使用を含む

5.

SARSにおいては多数の抗菌薬が試用されてきたが、明らかな効果のあるものはなかった。海外では、ステロイド併用あるいは併用なしで静注用リバビリン(国内未承認薬)使用の報告があるが、その明確な効果は証明されていない。

6.

臨床状態の改善をみた場合、WHOの退院基準を参照に退院時期を決定し、退院後の経過観察を行う。

(注)臨床経過、検査その他によりSARS以外の疾患であることが説明できる場合、標準の抗生剤治療で改善する等、病状の改善を医師が認めるものについては、SARSの可能性は低下する。また現時点では、重複感染の頻度と意義については明らかでない。



4. 「疑い例」、「可能性例」との接触者の管理と追跡調査
 接触者とは、SARSの「疑い例」あるいは「可能性例」の患者が症状を呈している間に、濃厚な接触をもった者とする。濃厚な接触とは、「疑い例」あるいは「可能性例」のSARS患者の介護、同居、又は体液や気道分泌物に直接触れた場合を言う。

1.

「可能性例」の接触者の管理:
感染拡大防止のため、組織的に追跡調査を行う必要がある

 

SARSの臨床像、伝播形式その他に関する情報を提供する

 

接触日から10日間に何らかの症状があった場合には、直ちに医療機関に連絡をとる。異常が無かった場合には11日目にその旨前出の医療機関に連絡する様に指導する

 

接触日から10日間は、毎日体温を記録し、38℃以上の発熱時は医療機関を必ず受診する様に指導する

 

接触者は症状がない場合は日常の行動を続けていてよいと考えられているが、上記サーベイランス期間は念のため人ごみへの外出や出勤、登校は控え、同居人、知人との接触も最小限に留めることが奨められる
(WHOは任意による自宅内での隔離を奨めている)

 

発熱、呼吸器症状など、なんらかの症状を発現すれば、予め電話連絡し、直ちに医療機関を受診して検査を受けることを確実に指導する。

2.

「疑い例」の接触者の管理:

 

SARSの臨床像、伝播形式その他に関する情報を提供する

 

接触日から10日間以内の注意期間に異常があれば、医療機関に連絡をする様に指導する

 

接触者は症状が無い場合は日常の行動を続けていてよい。状況によっては、注意期間は、できるだけ人ごみや他者との濃密な接触は避ける様に指導する方がよい場合もある。

 

発熱、呼吸器症状など、なんらかの症状を発現すれば、予め電話連絡し、直ちに医療機関を受診して検査を受けることを確実に指導する

3. 医療従事者の管理

 

SARSの「疑い例」あるいは「可能性例」の患者に適切な個人防御を取らずに接触した職員は、接触後10日間自宅隔離する。有効な個人防御用具(SARSの院内感染対策参照)を用いて対策を取った上で診療を行った職員は、通常通り業務に就いて差し支えないが、患者と接触後10日間は十分健康に注意し、もしこの間に異常があれば適切な対応をとる。

4.

経過観察対象からの除外

 

調査および検査の結果、接触したSARS「疑い例」あるいは「可能性例」が除外された場合(もはや「疑い例」あるいは「可能性例」の定義に当てはまらなくなった場合)は、接触者は経過観察対象から外される。

*最初に起こりうる最も確実な症状は発熱である。

5. SARSの可能性例に対する院内感染対策WHOの医療機関における管理等米国疾病対策予防センター(CDC)による学校におけるSARS管理 および 家庭・職場における消毒(例)は、感染症情報センターのウェッブサイト上にあります。

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