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4/30/2003


(仮訳)


SARS電話取材(要旨)
(4月25日)


WHO感染症局の局長であるDavid Heymann博士と、GOARN(世界的集団発生の警報と対応のためのネットワーク)の調整役であるMike Ryan博士による、4月25日のプレス・ブリーフィングでは、以下のようなことが話題となった。

SARSは「根絶」できるか、「蔓延するのか」

1. SARSは世界的な問題であり、WHOの第一の目標は世界的な拡大を防止することにある。

2. 現時点では、世界的に蔓延し、一般の社会や医療従事者にとっての恒常的な危機となるとは考えていない。言い換えると、集団発生は収束できると考えている。

3. 現時点では東南アジアからの、北回りの飛行ルートに従って広がっており、アフリカへの広がりは見られていない。

4. アフリカのサブ・サハラ領域やアジアの一部のように、今まで報告のあった国々とは異なり、サーベイランスや医療施設をはじめとして、この感染症を検知し、対応するためのシステムが十分でないところへ広がってしまい、状況が把握できなくなったり、蔓延してしまうことを恐れている。また、この地域には、現在まだあまり知られていない、AIDSなどの免疫力の低下した人口があり、これらへの影響が計り知れない。

5. 以上のような理由から、国際的問題として国際協調のもとで、今直ちに、行動を起こさなければならず、そうすることが感染拡大の防止と蔓延を阻止するために、最も重要なことである。

6. 現在も地域内で伝播が続いており、状況が懸念されているのは、中国(香港を含む)、シンガポール、カナダである。

上海、中国について

7. 上海は非常に協力的であるが、中国のサーベイランスシステムには全体として多少の問題があり、報告されているよりは少し、患者数が多い可能性がある。

8. 最も蔓延の可能性が高いのは、大きな国土と人口を持った、最も多い患者を出している中国で、そのためにWHOは強く介入し、収束のために協力している。

9. 北京は大きく方針を変え、北京からの人々の移動を制限し、長期休暇の短縮や、大勢が参加する集会の中止を勧告するなど、この問題に真剣に取り組んでいる。

致死率の変動について

10. 致死率(CFR)が3~4%から6%へ上昇したのは、その定義上の特性のためである。通常サーベイランスでは、継続的に報告を受け、変化をモニターしていくことから、CFRに変動があることはまれではない。また、新しい疾患で、徐々に患者群の詳細がわかり、診断技術や治療技術が変化してくるにつれ変動が見られることもまれではない。

11. 継続して調査が続けられていくサーベイランスにおけるCFRの定義は、「死亡数」を「全患者数」で除したものである。この分母には、今後死亡する可能性のある人も含まれており、これを考慮するとCFRは高くなる。しかし、その上昇は数%に過ぎず、他の計算方法に必要な情報が得られない以上、最も適切な計算方法でCFRを提供することとなる。

12. 現在のCFRは、様々な年齢群の、様々な基礎疾患や社会的に異なる条件下の人々を一緒にした、大まかなものである。

カナダへの旅行勧告と検査陽性率との関連について

13. カナダでコロナウイルスの陽性率が60%と低いが、これは臨床所見と疫学的情報に基づく症例定義が、感度は高いが特異性が低いことと、逆に検査の特異性は高いが、感度が低いことの組み合わせで生じているのではないかと考えられる。旅行勧告の発表は、この検査での陽性率とはまったく関係なく、地域内での伝播が続いており、他国への輸出症例があるなどの、以前発表した判定基準に基づく決定である。

14. SARSが蔓延する可能性があるといった当局者の発言も、旅行勧告の発表とは関係ない。カナダの当局は非常によくSARSの感染拡大防止に取り組んでいる。旅行勧告の発表はあくまでも、以前発表した判定基準に基づく決定である。

英国からの予測とAIDSとの比較

15. 予測の話をする際には、必要とする疾病に特異的な変数をモデルに組みこむために必要とする。これらがはっきりしていないSARSをAIDSと比較することには無理があるのではないか。特に、感染伝播に関する要素がほとんど不明な状況で、これを論じることにはかなり無理がある。

16. 致死率だけを取って比較するなら、AIDSは当初ほぼ100%死亡していた。これに対してSARSは回復者がいることから、明らかにAIDSの集団発生時とは状況が異なる。AIDSより深刻な感染症かどうかは、将来的にこの集団発生のモデルを検討し、実際にどれだけの感染が生じたのかを検討してみる必要がある。

SARSの症例定義

17. 常により効率よくSARSを予測できる症状を検討中であるが、現況では変更の予定はない。今後、診断検査結果をどのように症例定義に組み込むかが問題となる。


 
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