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4)SARSの現況


18 20044月現在のSARSの状況を教えて下さい。

 2003年9月にシンガポール、12月に台湾から実験室での感染例の報告と、2003年末から2004年1月にかけて広東省から合計3例の確定例と、1例の「可能性例」が報告されています。これらの症例はいずれも孤発例であり、お互いに関連を見いだすことができていません。また、4月26日現在、中国から2例の「可能性例」と6例の「疑い例」が報告されており、現在調査中です(SARS新着情報)。

SARSについては、各国が各々サーベイランスの対象として報告を義務づけるとともに、WHOが世界的規模でサーベイランスを行っています。個々の症例の確定診断とは別に、サーベイランスへの報告のために決められた症例の定義がありますので、参照してください。

1)WHOが提唱する世界的サーベイランスへの報告のための症例定義
  (WHO Global Surveillance) 

2)日本の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づく感染症発生動向調査の1類感染症として報告する際の症例定義 (届け出基準)

WHOが提唱する世界的サーベイランスへの報告のための症例定義(非流行時):下の1)および2)の定義を同時に満たすもの。

1)臨床定義:以下の4つすべてを満たす。

(1) 38℃以上の発熱

(2) ひとつ以上の下気道症状(咳、呼吸困難、息切れ)

(3) i) 肺炎またはRDS(呼吸窮迫症候群)の肺浸潤影と矛盾しない放射線学的所見、
または 
 ii)明らかな他の原因がなく、肺炎またはRDS の病理所見と矛盾しない病理解剖所見

(4) 他に疾患を説明できうる診断が考えられない
2)実験室検査による定義:以下のSARSコロナウイルスの実験室検査がひとつ以上陽性となる。

(1) SARSコロナウイルス用ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査

(2) 血清学的検査(i) 酵素免疫測定法(ELISA)またはii) 免疫蛍光法(IFA)による)

(3) ウイルスの分離培養
(実験室検査は、WHOの勧告にもとづいたレファレンスラボで行うこと)

「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づく感染症発生動向調査の1類感染症として報告する際の症例定義(非流行時)

診断した医師の判断により、症状や所見からSARSが疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断や血清的診断がなされたもの:

・ 病原体の検出(例、ウイルス分離など)

・ 病原体の遺伝子の検出(例、PCR法、LAMP法など)

・血清抗体の検出(例、酵素免疫測定法(ELISA)、免疫蛍光法(IFA)、中和試験など

(検体は、鼻咽頭ぬぐい液、喀痰、尿、便、血清など)



19 SARSアラートとは何ですか?

 SARSアラートとは、非流行期においてSARSの集団発生をいち早く検知するためにWHOにより提唱されました。具体的には、

(A) 同一の医療機関内で10 日間に、複数の医療従事者が以下の基準を満たす急性の呼吸器感染症を発症した場合

   あるいは

(B) 同一の医療機関に関連した医療従事者を含む職員、患者、来訪者のあいだで、10 日間に3 人以上が以下の基準を満たす急性の呼吸器感染症を発症した場合

   をSARSアラートと呼びます。

基 準

 ・発熱(≧38℃)及び1 つ以上の下気道症状(咳嗽、呼吸困難、息切れ)を有する。

 ・ 肺炎またはRDS(呼吸窮迫症候群)の肺浸潤影と矛盾しない放射線学的所見、あるいは、明らかな他の原因がなく、肺炎またはRDS の病理所見と矛盾しない病理解剖所見がある。

 ・ 他にこの病態を完全に説明できる診断(例えば嚥下性肺炎など)がない。

ただし、クラスター(患者の集積)の発生を監視する医療機関の施設単位の定義は、その施設の状況などに基づき、病院が大きい場合は、ひとつの科、あるいは病棟を対象とします(「SARSの集団発生終息後の期間におけるアラート、情報確認、 公衆衛生上の管理」)。


なお、厚生労働省結核感染症課の平成15年12月15日健感発第1215001号通知「SARSの非流行時における報告等について(PDF)」にて、非流行時における報告基準等を示しています。日本における国への報告の際にはこちらをご参照ください。



20 非流行期である今、SARSに対する備えを教えて下さい。

 当情報センターで作成した「非流行期におけるSARS対応のガイドライン」をご参照下さい。


21 SARSを疑うべき症状を教えて下さい。

 SARS の症状はQ1にあるように、急な発熱と呼吸器症状を主とします。しかし臨床症状だけでは他にたくさんある感染症と区別がつかない場合が多いのが特徴です。しかも例年インフルエンザだけで、年間1,000 万人前後の患者が日本国内で発生していると推定されます。臨床的に、急な発熱と下気道症状といったSARS の臨床症状を満たす患者のすべてに、SARS コロナウイルスの検査を施行することは非現実的であり、対象を絞る必要があります。臨床的所見以外に、他の病原体による疾患を常に念頭に置き、その検査を行うとともに、疫学的要因(患者が発生した中国の各都市などへの旅行・滞在歴など)を十分考慮した上でSARSを疑って検査を進める必要があります。

詳しくは、当情報センターで作成した「非流行期におけるSARS対応のガイドライン」をご参照下さい。



22 SARSを疑わせる患者さんが院内で発生した場合の対応を教えて下さい。

 2004年4月現在、日本の医療機関の外来を受診し、臨床症状においてSARSを疑わせる患者さんが、本当にSARSである確率は非常に低く、他の既知の呼吸器系疾患の可能性が高いと思われます。また、WHOの報告によると発症後5日以内に、つまり、肺炎期以前にその症例が隔離された場合には二次感染例は出ていませんし、ウイルス排出量も発症初期には少ないことが報告されています(「SARSの疫学に関する合意文書」)。

(参照:Lim W. WHO Global Conference on Severe Acute Respiratory Syndrome, Kuala Lumpur, Malaysia, 17-18 June 2003,Gay N & Ma S. Global Meeting on the Epidemiology of SARS World Health Organization, Geneva, Switzerland, 16-17 May 2003)

SARSに限らず、咳をしている患者さんにはマスク着用を促し、診察待合いは他の患者さんとできるだけ離れた場所とします。医療従事者もマスクを着用して対応し、臨床的診断評価を行います。このような対策で、SARS以外の多くの呼吸器感染症の、医療機関での感染拡大予防、医療関係者への曝露予防になります。より詳しい記載は感染症情報センターで作成した「非流行期におけるSARS対応のガイドライン」の「3−4」にありますのでご参照下さい。



23 外来(診療所)にSARSを疑わせる患者さんが来ました。どう対応すればよいですか?

 SARSは基本的に症状と、渡航歴や、SARS「疑い例」あるいは「可能性例」の人との接触の有無により、SARSかどうかを疑うことから始ります。検査としては、「可能性例」の判定には胸部レントゲン検査が必要です。また、血液検査(血球検査、生化学検査)、尿検査などの一般的検査を行い、さらに、喀痰や咽頭ぬぐい液などを用いて通常の肺炎を起こす病原体を調べることも重要です。

 さらに、国立感染症研究所ウイルス第三部において、SARSコロナウイルスに感染しているかどうかの病原体検査が行われます。この病原体検査は大きく3種類に分かれます。ひとつは、血液中の抗体を調べるもので、これには酵素免疫測定法 (ELISA) と免疫蛍光法 (IFA) の二つの方法があります。しかし、これらはいずれも発病初期には検出されず、ELISAの場合は発病後20日を過ぎてから、IFAの場合は発病後10日を過ぎてから検出されます。

あとの2種類はウイルス遺伝子の断片があるかどうかを調べるPCR法と、生きたウイルスを培養して分離・同定する検査で、いずれも咽頭ぬぐい液、喀痰、血液、便、尿などで検査します。PCR法は、一般に発病初期に陽性に出ることの多い診断法ですが、SARS コロナウイルスについては、未だ不完全な段階で、現段階ではSARSウイルスに感染していても検出されないこともあり、検査方法を改良しつつあるところです。ウイルス培養検査は、生きたウイルスの存在を調べることでき、陽性であれば感染の証明ができますが、培養には時間を要します。いずれの検査方法も、陰性だからといって感染を否定することはできません。

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