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2)疫学・サーベイランス




8 SARSの流行期と非流行期はどのように判断するのですか?

 SARSは、2002年11月16日に中国広東省仏山市で発症した最初の症例の報告に始まり、香港、北京などから世界中へ拡大し、大きな問題となりました(「重症急性呼吸器症候群(SARS)集団発生の状況と近い将来に対する教訓」)。2003年7月5日に、台湾での最後の症例が隔離されてから、平均の潜伏期の2倍にあたる20日が過ぎ、新たな症例が発生しなかったことからWHO(世界保健機関)が、世界的な流行が終息したと宣言しました(「SARSの集団発生終息後の期間におけるアラート、情報確認、 公衆衛生上の管理」)。従って、2002年11月から2003年7月5日までを流行期と呼び、それ以降を非流行期あるいは流行間期と呼びます。

2003年9月にシンガポール、12月に台湾から実験室での感染例の報告と、中国の広東省から感染例の報告がありましたが、いずれも独立に発生し、二次感染も無いことから孤発例と判断されました。

これらから分かるように、感染者が集中して大量に発生するか、あるいはヒトからヒトへと次々に感染が広がって行った場合に始めて、再び流行期に入ったと判断されることになります。

感染の状況などは、感染症情報センターのウェブサイト上へ随時提供して行きますので、最新の情報を参考にしてください(IDSC SARSページWHO SARS)。



9 どのくらいのSARS症例が報告されているのですか?

 2002年11月から2003年7月5日までの流行期には、最終的に8,098症例と774死亡例が報告されました。各国からの報告数などは、「重症急性呼吸器症候群(SARS)の国別報告数のまとめ(2002年11月1日〜2003年7月31日)」を参照してください。

日本国内の医療機関から届けられた報告症例総数は、2003年6月末で68例(疑い例52例、可能性例16例)でしたが、すべてが除外規定{1.他の診断によって病状が説明できるもの,2.標準の抗生剤治療等で、3日以内に症状の改善を見るもの(細菌性感染等抗生剤反応性疾患の可能性が高い)}に一致したため、最終的に流行期を通じてSARSの確認例はありませんでした(IASR Vol.24 No.7 p 156-159)。




10 SARS感染の危険因子はありますか?

 前回の流行についてWHOがまとめた報告によると、SARSとして報告された症例中21%が、エアロゾルを発生するような医療手技(気管内挿管や加圧バッグ使用など)にかかわっていた医療従事者でした。このため、医療従事者であることが危険因子のひとつとされていますが、患者との接触密度や実施する医療手技によってその危険度が変化します。

(参考文献: Can Commun Dis Rep 2003;29(11):93-97, Ho et al. SARS Clinical management Workshop, 13-14 June 2003, China, Hong Kong SARなど)

これ以外に、家庭内に発症したSARS患者がいること、高年齢、男性であること、基礎疾患がある場合に感染発症の危険が増すと報告されています。高年齢は特に後述の致死率との関連が注目されます。

また、妊婦の死亡も10人中3人と、比較的に高かったと報告されたが、経験症例数が少ないため妊娠の危険度への関連の分析は十分にできていません。

接触密度の上昇という点から、発症したSARS患者と閉鎖された狭い空間を共有することも危険を増幅すると考えられていますが、航空機内での感染事例が少ないことから、このような場合の危険は低く、特殊な条件下に限られたものであると、現時点では理解されています(「SARSの疫学に関する合意文書」)。


11 SARSの致死率はどのくらいですか?

 SARSの発症率が不明であり、実際にどれだけの感染者がいるか明らかでないことから、正確な致死率を提示することは難しいとされています。

前回の世界的流行では、最終的に8,098症例(Probable cases)と774死亡例が報告され、WHOが集団発生終息後に発表した全体の致死率は9.6%でした(致死率:アップデート49)。報告の中でも言及されているように、致死率は国別、年齢群別で大きな差があることが分かっています(「SARSの疫学に関する合意文書」)。

高齢者での致死率が高いのは各国とも同様ですが、カナダの61歳以上で83%、中国の70歳以上で約27%と大きな開きがあり、それぞれの年齢区分や計算方法の違いから標準化が難しいことも問題とされています(「SARSの疫学に関する合意文書」)。

小児は報告例も少ないのですが、死亡者も報告されていません。この理由については現在研究対象となっており、まだ解明されていません。


12 SARSに感染すると必ず発症しますか?
  SARSの発症率は明らかになっていませんが、血清学的に研究した幾つかの報告があります。香港のPrince of Wales病院での研究では、軽症あるいは無症状の病院スタッフからはSARSコロナウイルスに対する抗体が確認されず、無症状の感染者はまれであるだろうと結論されましたが、香港の献血者と健康な医療従事者を中心に行われた調査では肺炎所見の無い人でも抗体陽性が確認されています。こういった報告から、SARSの不顕性感染、あるいは極めて軽症な症例が存在する可能性も、現時点では否定できません。

参照文献:Emerging Infectious Diseases 2003;9(11):1453-1454.
     THE LANCET 2004;363:841-845.

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