国立感染症研究所 感染症情報センター
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オウム病 オウム病 1999年4月〜2007年第13週(2007年5月17日現在)

  オウム病は、オウム病クラミジア(Chlamydophila psittaci )を吸入し、1〜2週間の潜伏期間を経て、突然の発熱、咳(通常は乾性)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛、関節痛などの症状が出現する疾患である。ときに、肝脾腫や比較的徐脈(高熱のわりに脈拍が速くならない)が認められる。白血球増多のない肺炎でいわゆる異型肺炎(非定型肺炎)の病態を示す。高齢者や治療が遅れた場合などには重症化し、致死的となることもあるので注意が必要である。オウム病の発生動向については、1999年4月の感染症法の施行以前は定点把握疾患の「異型肺炎」に含まれており、独立した疾患としての実態は不明であった。
感染症法では全数把握疾患の4類感染症として、診断したすべての医師に届け出が義務づけられている。

  1999年4月から2007年第13週までの約8年間に報告されたオウム病は277例であり、年別では1999年(4月〜)23例、2000年18例、2001年35例、2002年54例、2003年44例、2004年40例、2005年34例、2006年23例、2007年6例(第13週は4月1日診断分まで)であった(図1)。2001〜2005年の5年間は、集団発生を除き30〜45例程度で推移していたが、2006年は23例と減少が見られた。この理由として届出基準変更の影響が考えられる。即ち、2006年3月以前の届出基準では、抗体の検出によるものとして「間接蛍光抗体法で抗体価が4倍以上など」とされており、補体結合反応(CF)検査による場合も届け出の対象に含んでいたが、2006年4月からの届出基準では「間接蛍光抗体法による抗体の検出(単一血清でIgM抗体の検出もしくはIgG抗体256倍以上、又はペア血清による抗体陽転もしくは抗体価の有意上昇)」に限定された。これは、CF検査が属共通抗原を用いて行われており、同様の症状を起こすクラミジア肺炎(Chlamydophila pneumoniae を病原体とする肺炎)でも上昇が認められ、オウム病の確定診断ができないためである。過去の報告からみても、従来臨床の現場においては、オウム病診断のための検査としてCF検査が多く用いられており、この変更によってある程度の報告数の減少を来たすと考えられるものの、より正確なオウム病症例が報告されるようになったと言える。

図3. オウム病の報告症例の性別・年齢群別分布(1999年4月〜2007年第13週) 図4. オウム病の月別報告数(1999年4月〜2007年第13週) 図5. オウム病の感染源(1999年4月〜2007年第13週)

  都道府県別では、特に大阪府33例、東京都30例、兵庫県19例、愛知県17例、神奈川県16例、広島県16例が多い。一方、1例も報告のない県は5県みられた(図2)。集団発生としては、家族内のものを除き2001年に動物公園(5例)(IASR Vol.23 No.10 p.6-7)、2002年に鳥展示施設(17例)(IASR Vol.23 No.10 p.3-4)、2005〜06年に鳥展示施設(3例)があった(図1)

  277例の性別は、男性124例、女性153例で、女性にやや多かった。年齢中央値は54歳(1〜95歳)で、年齢群別では0〜9歳2例、10〜19歳11例、20〜29歳19例、30〜39歳38例、40〜49歳46例、50〜59歳61例、60〜69歳57例、70〜79歳37例、80〜89歳4例、90歳以上2例と、50代をピークに幅広い年齢層にみられるが、30歳未満では少なく、30歳以上が全体のほぼ90%を占めていた。

性別・年齢群別にみると、男性は年齢中央値が58歳(1〜95歳)で60代をピークに50〜60代が多いのに対し、女性は年齢中央値49歳(11〜88歳)で30代をピークに30〜50代に多く、女性の患者年齢がやや若かった(図3)。発症日の記載があった255例について発症月をみると、1〜6月、とくに4〜5月が多かった(図4)

  感染原因・感染経路に関して、動物等からの感染が確定または推定されると報告されたものは247例あった。動物等の種類としては、「ヘラジカ」および詳細不明を除く226例で鳥類が推定されていた。鳥類の種類については、インコと推定されたものが154例、ハトと推定されたものが30例、オウムと推定されたものが15例であった(複数の鳥類が推定された例数を重複して計上)(図5)

  診断のための検査方法としては、277例うち病原体が検出された者は6例(病原体の分離1例、病原遺伝子の検出3例、詳細不明2例)のみで、ほとんどが血清抗体検査により診断されていた(表)。2006年3月までにCF検査のみで診断されたものは173例と、この期間の報告数254例の68%を占めていた。前述のようにCF検査はオウム病の診断のための検査としては勧められず、確定診断には、種の特定が可能な間接蛍光抗体法(micro-IF法など)による検査が必要である。届出基準が変更された2006年4月以降に報告された23例では、喀痰から病原体が分離された1例を除く22例が間接蛍光抗体法による血清抗体検査により診断されていた(IgM抗体の検出5例、IgG抗体256倍以上4例、ペア血清での抗体陽転または抗体価の有意上昇11例、IgM抗体の検出+ペア血清での抗体陽転または抗体価の有意上昇1例、IgG抗体256倍以上+ペア血清での抗体陽転または抗体価の有意上昇1例)。Micro-IF法による検査は必要に応じて、一部の地方衛生研究所や国立感染症研究所、また一部の研究機関などに依頼することができる。

  飼育鳥の衛生管理はトリにとって重要であるとともに、飼育にたずさわる人への感染予防としても基本である。乾燥した糞を吸入しないよう注意し、また口移しで餌を与えないようにする。特に病鳥の扱いには注意が必要である。オウム病が強く疑われたり、臨床的にオウム病と診断された場合には、検査を施行し、速やかに適切な抗菌薬による治療を行うことが重要である。また同時に、医師の問診と保健所の調査等によって、感染源に関する情報(感染源の疑いのあるトリなどの状態、推定される感染場所や原因と考えられる行動など)を把握し、必要な場合には推定感染源からの病原体の検出や獣医師によるトリの治療を行うなどして、感染拡大防止ならびに今後の感染予防策に役立てることが重要である。


感染症発生動向調査週報 IDWR 2007年第19週掲載)


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