国立感染症研究所 感染症情報センター
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ニパウイルス

海外情報


●マレーシアにおける脳炎の終結
VIRAL ENCEPHALITIS OUTBREAK IN MALAYSIA VIRTUALLY OVER
(WHO 西太平洋事務局5月7日press release)

1998年10月以来、マレーシアのNegri Sembilan, Perak,および Selangor州において発生していたウイルス性脳炎について、政府はまもなく、この病気の制圧を宣言する予定である。

1998年10月に流行が発生してから、合計258例の患者と100例の死亡が確認された。1999年4月30日現在、ここ8日間新たな入院例はなかったが、 36人の患者はいまだ入院していている. 発病のピークは3月の中旬で、そのときは毎日7例の新しい患者が入院した。

日本脳炎は流行初期には起きていたことが確認されたが、多くはニパウイルス(Nipah virus)による感染である。詳しく調査された71例のなかで20例の患者と8例の死亡者については日本脳炎のみが原因であり、28例では日本脳炎とニパウイルスの混合感染であり、そのうちの17例が死亡した。ニパウイルス単独では139例の患者とそのうちの49例の死亡が確認されている。

およそ90万頭にのぼる豚の賭殺は1999年4月16日に終了した。このことによりこのウイルスのリザーバーを撲滅し、流行を終結させたと考えられる。非常に多くの豚の賭殺は経済に大きな影響を与えたが、多くの人々の命を救ったことは明らかである。

マレーシアでは残りの豚農場についての検査の全国プログラムが始まっており、調査検体が陽性の場合、豚は検疫されて処分されることとなる。.

多くの証拠から、現在までのところ人への感染ルートは豚との直接接触であることが指摘されているが、他の動物における検査も続行中である。大コウモリ(fruit bat)に注目が集まっている。同様のコウモリは、1994年にオーストラリアで分離されたウイルスで、ニパウイルスと似ているヘンドラウイルスの自然宿主として確認されている。.

流行発生以来のこの地域の犬とネコの一部でニパウイルスの感染が確認されているが、これらの動物が病気の伝播の役割を持っているかどうかは明らかでない。感染した犬やネコは置き去りにされた野良犬・野良猫であったため、感染したブタの死体を食べて感染した可能性もある。

ニパウイルスとその感染様式を特定する研究は今後も続けられるが、このウイルスによる脳炎の流行は首尾よく制圧されたようである。

●ヘンドラ様ウイルスによる感染症の集団発生−マレーシア、シンガポール、1998-1999年
Outbreak of Hendra-like virus - Malaysia and Singapore, 1998-1999
MMWR, Vol.48, No.13, 1999.
1998年9月29日より1999年4月4日までの間に229例の熱性の脳炎患者(111例48%死亡)がマレイシア保健省に報告された。1999年3月13日から19日にシンガポールの畜殺場での労働者で9例の同様の脳炎患者(1例死亡)と2例の呼吸器疾患患者が発生した。疫学的、検査室的調査結果から、オーストラリアのヘンドラウイルスに似ているが違う、以前には見られたことのないパラミクソウイルスがこれらの集団発生に関与していることが判明した。

マレーシア
疑われている疾患は発熱、強い頭痛、筋肉痛と脳炎あるいは髄膜炎の徴候あるものとした。3つの集団発生が確認されており、最初のものは1998年9月下旬、ペラク州のイポ近くで始まり、1999年2月初旬まで続いた。二つ目はネグリセンビラン州のシカマト近くで、1998年12月と1999年1月におこった。3つめの最も大きなものは1998年12月ネグリセンビラン州のブキットペランドック近辺にて始まった。2例がセランゴール州で発生している。

当初患者はブタと接触歴のある成人男性の間で主に発生しており、同時に同じ地域のブタの間でも同様の疾患と死亡がおこっていた。最初日本脳炎が疑われ、実際数例の患者では日本脳炎ウイルスの感染が陽性であった。しかしながら、症例がブタに濃厚な接触歴のある男性に偏っていることから他の病原体の可能性が示唆された。

マラヤ大学医学微生物学教室にて、患者の中枢神経組織から未知の病原体が分離された。13例の患者の血清をCDCで検査したところ、1例しか最近の日本脳炎感染の証拠は見つからなかった。患者3例からの分離検体を電顕で検索したところパラミクソウイルスに一致するウイルス粒子が発見され、蛍光抗体法にてヘンドラウイルス(以前馬モビリウイルスと呼ばれていたもの)類似のものが示唆された。その後の塩基配列の検索などにより、このウイルスはヘンドラウイルスに似ているが、全く同じではないと言うことが判明した。ヘンドラウイルスを使用した捕捉IgM-ELISAにより、日本脳炎が陰性であった12例全てで陽性結果が得られた。その後の検査で患者26例中23例(88%)で抗ヘンドラウイルスIgMが検出され、ヘンドラ様抗原と核酸が患者の中枢神経組織や肺、腎にて検出された。同時に疾患発生のあった農場のブタの中枢神経組織、肺、腎においてもヘンドラ様抗原が陽性であった。

疾患は、3〜14日間の発熱と頭痛に引き続き嗜眠傾向、行動異常があらわれ、24〜48時間以内に昏睡に陥る。229例の患者のうちほとんどはペラクあるいはネグリセンビリアンの養豚場の男性労働者であった。5例はブタとの接触のあった屠畜場の職員であった。患者の診療に当たった医療従事者からは患者の発生はない。ところによりヒトの発症1〜2週間前にブタでの疾患発生がおこっており、ブタの症状は一様ではないが、努力性呼吸、爆発的な咳と嗜眠あるいは攻撃的行動などの神経学的変化がみられている。一例をあげると、49歳養豚場農夫、3月7日に発熱、頭痛、行動異常と目のかすみにて発症。翌日嗜眠状態となりウイルス性発熱として入院。数日以内に神経症状悪化し、全身痙攣、呼吸不全、血圧低下とスパイク状の高熱をきたし、3月13日死亡した。入院時、CBC、電解質、頭部CTに異常なく、3月13日の髄液所見では、白血球なし、糖正常範囲、蛋白2.09g/L(正常0.15-0.45)血清抗日本脳炎IgMは陰性であったが、血清、髄液にて抗ヘンドラ様ウイルスIgGとIgMが陽性であった。同じ養豚場で働いていた兄弟は数日早く脳炎にて死亡しており、同様に血清、髄液にて抗ヘンドラ様ウイルスIgMが陽性 であった。

シンガポール
11例の患者は全てマレーシアから輸入されたブタを扱っていた。血清検査により11例全てで最近のヘンドラ様ウイルスの感染が証明され、死亡例での限られた塩基配列の検索では、マレーシアのものと同じものであることが示唆された。他の屠畜場でマレーシアから輸入された100頭のブタのうち4頭でヘンドラウイルスに対する抗体が証明された。

公衆衛生的対応
調査の結果、マレーシアでのウイルスの拡大は感染ブタの輸送に伴っていることが示唆された。他の動物の感受性は不明で、本ウイルスの保有動物の調査研究中である。

感染拡大を防止するために、当局は国内でのブタの輸送を禁止し、発生地域の周囲5km範囲内のブタを屠殺した。また発生地域におけるブタに接触する全てのヒトに対して、防護服、手袋、ブーツ、マスクの着用を勧告した。
 シンガポールとタイはマレイシアからのブタの輸入を禁止し、シンガポールはさらにマレイシアから戻ってくる馬も規制した。マレーシア保健省は一般国民に疾患の発生状況とブタに接触するときの注意について啓蒙キャンペーンを開始した。

(補足)
 MMWR, Vol.48, No.16(Update: Outbreak of Nipah virus - Malaysia and SIngapore,1999)において、情報が更新され、これまでHendra-like virusと呼ばれていたが、Nipah virusと呼ばれることになった。また4月27日現在で、マレーシアで257例の患者報告がある(100例死亡)が、3月13-19日46例の報告をピークとして、4月10-16日には4例と減少してきている。また、シンガポールでは3月19日以来新規患者の発生はみられていない。現在までのところヒト−ヒト感染は見られていないことなどが、追加されている。


●マレーシアにおけるヘンドラ様ウイルス(ニパ <Nipah> ウイルス)の流行速報

WEEKLY EPIDEMIOLOGICAL RECORD, 74:120, 1999

マレーシアにおける脳炎の発症数と死亡者数は現在集計が行われているところであるが、発症数はこれ以上は増加しないと見込まれ、流行は収束に向かっていると考えられる。原因として日本脳炎ウイルスとヘンドラ様ウイルス(現在はニパ <Nipah> ウイルスと呼ばれる)の両者が報告されているが、おもにニパウイルスが原因であると考えられている。患者のほとんどはブタと濃厚な接触のある人に限られており、特に発症ブタのいる地域で働いている人に限られている。ニパウイルスの伝播阻止対策として、流行地域での発症ブタの殺処分が進められている。

現在ヒトおよび動物を対象とした疫学研究が多面的に進められている。これにはニパウイルスに感染している動物種および自然界での保有宿主の同定作業も含まれている。ヒトを対象とした研究では、感染の危険性を左右する危険因子の特定に重点が置かれている。アメリカ合衆国疾病対策センター(CDC)、オーストラリア、および日本などからの研究者が参加してマレーシア政府と共同でこれらの調査研究を行っている。



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