国立感染症研究所 感染症情報センター
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麻疹 麻しん 2008年(2009年 第4週)



 麻しんは「はしか」とも呼ばれ、麻しんウイルス(ParamyxovirusMorbillivirus属)によって引き起こされる感染症で、39℃前後の高熱と耳介後部から始まって体の下方へと広がる赤い発疹を特徴とする全身性疾患である。麻しんに対して免疫を持たない者が感染した場合、典型的な臨床経過としては10〜12日間の潜伏期を経て発症し、カタル期(2〜4日間)、発疹期(3〜5日間)、回復期へと至る。一方、ヒトの体内に入った麻しんウイルスは、免疫を担う全身のリンパ組織を中心に増殖し、一過性に強い免疫機能抑制状態を生じるため、麻しんウイルスそのものによるものだけでなく、合併した別の細菌やウイルス等による感染症が重症化する可能性も生じうる。また、発生頻度は低いものの、麻しん脳炎や、罹患後7〜10年の期間を経て発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)などの重篤な合併症もある。麻しんは接触感染、飛沫感染、空気感染(飛沫核感染)のいずれの感染経路でも感染し、発症した場合に麻しんに特異的な治療方法はない。手洗い、マスク等の感染対策も十分に効果的な予防手段とは言えず、唯一の有効な予防方法はワクチンの接種によって麻しんに対する免疫を予め獲得しておくことである。

 2008年の1月1日から開始された麻しんの全数把握調査によると、第1〜52週(1月1日〜12月28日診断のもの、2009年1月21日現在)の麻しん患者発生報告数は全都道府県から11,007例あった。週別報告数をみると、第2週には100例を超え、第5〜13週は、400〜500台の報告数で推移した。その後、第14週には一旦減少したが、これは第12週以降、大半の学校等が春季休暇になった影響と思われる。第18週以降は減少傾向となったが、第27週には累積報告数が1万例を超えた。第30週には第2週以降初めて100例を下回り、第32週以降は毎週50例未満で推移したが、第52週までの最少報告数は第43、48週の12例であり、10例未満にはならなかった(図1)。都道府県別に累積報告数をみると、神奈川県3,558例、北海道1,460例、東京都1,174例、千葉県1,071例、福岡県677例、大阪府392例、埼玉県388例、静岡県245例、愛知県197例、京都府193例の順となっている(図2)。一方、これを、2007年10月1日現在の各都道府県の人口をもとに、100万人当たりの報告数に換算すると、神奈川県400.7、北海道262.1、千葉県175.6、秋田県140.9、福岡県133.9、東京都92.0、大分県74.8、京都府73.2、岡山県67.6、静岡県64.5となり、大都市圏以外でも麻しんの流行がみられたことがわかる。日本全体では、100万人当たりの報告数は86.1となり、WHOが定義する、麻しん排除の判断基準のひとつである、「1年間の報告数が100万人当たり1未満(輸入症例を除く)」という状況には、まだ遠く及ばない(図3)

図1. 麻しん報告数の週別推移(2008年)

図2. 麻しんの都道府県別累積報告状況(2008年)

図3. 人口百万人当たり都道府県別麻しん報告状況(2008年)

 病型別累積報告数は、臨床診断例6,805例(61.8%)、検査診断例3,178例(28.9%)、修飾麻しん(検査診断例)1,024例(9.3%)となっており、臨床診断例が最多であった(図4)

 年齢群別では15〜19歳2,906例(26.4%)、10〜14歳1,838例(16.7%)、0〜4歳1,680例(15.3%)、20〜24歳1,408例(12.8%)、25〜29歳1,038例(9.4%)、5〜9歳928例(8.4%)の順となっている。10〜20代からの報告割合が約65%を占めており、30歳未満からの報告数が全体の90%近くを占めている(図5)。年齢別では、15歳761例、16歳713例、1歳632例、0歳610例、17歳580例、14歳509例の順で、14〜17歳および0〜1歳が患者発生の中心であり(図6)、これは2008年初頭より1年間続いた。

図4. 麻しん累積報告数の病型別割合(2008年)

図5. 麻しん累積報告数の年齢群別割合(2008年)

図6. 麻しん累積報告数のワクチン接種歴別年齢分布(2008年)


 麻しん含有ワクチンの接種歴別の報告数は、接種歴なし4,910例(44.6%)、1回接種2,933例(26.6%)、2回接種131例(1.2%)、接種歴不明3,033例(27.6%)となっており、ワクチン未接種者が最も多く、次いで接種歴不明者、1回接種者の順であった(図7)。年齢が高くなるほど接種歴不明者の割合が多い(図6)

図7. 麻しん累積報告数のワクチン接種歴別割合(2008年)

表1. 脳炎合併症の報告があった麻しん症例(2008年)

図8. 肺炎合併の報告があった麻しん症例年齢群別割合(2008年)

 麻しんの重篤な合併症である脳炎は9例報告されており、全例10代以上であった。このうち麻しん含有ワクチンの接種歴の無い者が5例、1回接種が1例(親の記憶による)、接種歴不明が3例であった(表1)。肺炎合併例は、223例の報告があった。これを年齢、または年齢群別にみると、0歳、1歳がそれぞれ21.1%ずつで最も多く、10歳未満の小児が約56%と過半数を占めていた(図8)。発生届に掲載されている症状・合併症の中で、発熱、発疹、カタル症状以外では、腸炎の報告頻度が高かった。肺炎、中耳炎、クループ、脳炎は、全病型でみるとそれぞれ2.03%、1.15%、0.28%、0.08%に合併していた(図9)

図9. 麻しんの病型別合併症割合(2008年)

 2008年4月1日より、5年間の期限付き措置として、1回しか定期予防接種(以下、定期接種)の機会がなかった年齢層のうち、第3期(中学校1年生相当年齢)、第4期(高校3年生相当年齢)の年齢の者に対する2回目の定期接種が導入された。中学校、高校などの学校現場では、定期接種対象年齢の者における麻しん罹患歴や麻しん含有ワクチン接種歴の積極的な把握とワクチンの接種勧奨がなされている。しかし、2008年4月1日〜9月30日の接種状況調査によると、麻しん含有ワクチン接種率は全国平均で第2期が51.2%、第3期が56.4%、第4期は47.6%にとどまっている。保護者を始めとした地域住民の予防接種に対する関心を高め、予防接種率の向上を図ることを目的として、日本医師会、日本小児科医会、厚生労働省の主催で2月28日から3月8日まで、「子ども予防接種週間」が予定されている。この期間は、平日の夜間、土曜日、日曜日にも予防接種が受けられるようにしている機関もある。定期接種対象者(1歳児、小学校入学前1年間の者、中学1年生相当年齢の者、高校3年生相当年齢の者)で、まだ接種を済ませていない者、特に進学、就職を控えている高校3年生相当の者は、この機会を是非利用して接種を受けることが勧められる。

 上述したように、麻しんの報告数は2008年第18週以降減少傾向にあり、特に第38週以降は週に20例以下の報告にとどまっている。今後、麻しんの症例数が少なくなると、感染経路が不明瞭な場合もあり、臨床症状のみでは診断が困難な例が増加することが予想される。その場合、麻しんの検査診断が重要になる。第1例目を確実に検査診断し、迅速な対応に繋げることは、その後の感染拡大を予防する意味においても極めて重要である。今後ワクチン接種等の対策の進行により、麻しんの患者発生数が大きく減少することを考慮すると、現段階から、ウイルス学的な検査診断体制を保健所および地方衛生研究所を含めた行政と医療機関が連携できるよう、その体制を整えておくことが望ましい。

 以下に、麻しん関連情報として感染症情報センターのホームページに掲載されている主な項目とそのURLを挙げる。麻しん対策として活用いただければ幸いである。

■麻疹(はしか):
http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html

1. 麻しん予防接種情報:
http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/01.html
●2008年4月1日以降の予防接種スケジュール
●2008〜2012年度麻疹・風疹の定期予防接種対象者
●高い接種率を達成した自治体における接種率向上への取り組み
●平成20年度麻しん風しん定期予防接種の実施状況の調査結果について(上半期)
●平成19年度定期の予防接種(麻しん風しん第2期)の実施状況の調査結果について(第1報)
●平成19年度定期の予防接種(麻しん風しん第2期)の実施状況の調査結果について(第2報)
●平成20年度麻しん予防接種第3期・第4期接種状況(第1四半期終了時点:各市町村別)
●年齢別麻疹風疹MMRワクチン接種率:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/atopics/atpcs001.html
●予防接種の話:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/b-measles.html
●感染症の話:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k03/k03_03/k03_03.html
●わが国の健常人における麻疹PA抗体保有状況:http://idsc.nih.go.jp/yosoku/Mmenu.html
●麻疹発生DB(データベース):http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/meas-db.html

2. 教育啓発http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/02.html
●「麻疹・風疹ワクチンなぜ2回接種なの?」ポスター:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn01.html
●「麻疹風疹混合ワクチンを1歳のお誕生日のプレゼントにしましょう」ポスター:
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn04.html
●「小学校入学準備に2回目の麻疹・風疹ワクチンを!」ポスター:
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn08.html
●「はしかにならない。はしかにさせない。」ポスター:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn09.html
●麻疹教育啓発ビデオ「はしかから身を守るために」:
http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/Video/measlesVideo.html
●「麻しん排除/ロゴのダウンロード」:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/measlesrogo.html
●「はしか『0』をみんなのチカラで」Kiroro CM:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/02.html
●政府インターネットテレビ(2008/04/03)「はしかにならない。はしかにさせない。」(政府インターネットテレビHPへリンク)
●第3期・第4期予防接種勧奨リーフレット:
http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/08032517.htm

3. 発生動向:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/03.html
●注目すべき感染症/速報
●麻しん発生状況(速報グラフ)
●麻しん施設別発生状況(学校欠席者数)
●病原微生物検出情報[IASR](麻疹特集・速報、ウイルス分離・検出状況他)
●「麻疹」の届出基準・届出様式、「風疹」の届出基準・届出様式、全数把握に関するポスター

4. 対策・ガイドラインなど:
http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/04.html
●麻疹の現状と今後の麻疹対策について
●都道府県における麻しん対策会議のガイドライン
●学校における麻しん対策ガイドライン
●麻しん排除に向けた積極的疫学調査ガイドライン第二版
●医師における麻しん届け出ガイドライン第二版
●医療機関での麻疹対応ガイドライン第二版
●参考資料 教育機関における麻しん(はしか)患者調査票
●「麻しん対策ブロック会議」関連資料等
●「第2回麻しん対策推進会議」議事次第、資料等
●「第2回麻しん対策推進会議」議事録
●病原体検出マニュアル「麻疹診断マニュアル(第2版)」

5. Q&A:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/QA.html

6. 関連情報:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/06.html
●麻しんに関する特定感染症予防指針
●予防接種法施行令の一部を改正する政令 〜定期予防接種対象者に関する改正〜
●「定期の予防接種の実施について」の一部改正 〜定期(一類疾病)の予防接種実施要領の改正〜
●麻疹対策に取り組む団体の紹介:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/link.html

IDWR週報 2009年第4号


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