国立感染症研究所 感染症情報センター
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麻疹 麻しん(2007年第19週)



 麻しんは麻しんウイルス(Paramyxovirus科Morbillivirus属)によって引き起こされる感染症で あるが、空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々な感染経路を示し、その感染力は極めて強い。典型的な麻しんを発症した場合、感染後10日間前後の潜伏期を経て、3日間前後続くカタル期で発症し、その後高熱と全身の発疹を呈する発疹期に至る。カタル期においては、麻しんに特異的な症状は口腔内に認められるコプリック斑であるが、他は咳、くしゃみ、鼻水等の非特異的な感冒様症状や結膜充血、眼脂等の結膜炎症状が主であり、麻しんと気付かれない場合も少なくない。麻しんは通常は症状出現の1日前頃より他者への感染性があるといわれており、また感染力はカタル期において最も強いために、発疹期となって症状が本格化するまでの期間に麻しんと自覚することなく発病者から感染を拡大させてしまう場合も少なくない。特に現在報告されている成人麻しん症例の大半を占める10代後半から30代前半にかけての年齢層は行動範囲が広く、乳幼児が発病した場合と比べて広範囲に麻しんウイルスを伝播させる可能性が高い。麻しんは特異的な治療法はなく、カタル期・発疹期を合わせると1週間以上高熱が続き、入院率や肺炎、脳炎、中耳炎などの合併症発生率が未だに高い疾患である。

図1. 麻しんの年別・週別発生状況(1997年〜2007年第19週)

図2. 麻しんの都道府県別累積報告状況(2007年第1週〜第19週)


 感染症発生動向調査によると、全国約3,000カ所の小児科定点からの麻しんの報告数は、2007年第19週は26都道府県から214例(定点当たり報告数0.071)と前週の88例(定点当たり報告数0.030)よりも大幅に増加した(図1)。都道府県別では千葉県56例、埼玉県35例、東京都31例、神奈川県22例、北海道、大阪府各10例、山梨県7例、栃木県6例、長野県5例、宮城県4例、茨城県、群馬県、鹿児島県各3例の順であり、南関東地域からの報告数が増加すると共に、その周辺地域のみならず遠隔地域においても患者発生がみられている。2007年第1〜19週までの小児科定点からの累積報告数は691例であり、既に2005年、2006年の1年間の累積報告数(それぞれ537、519)を上回った。都道府県別では埼玉県168例、東京都109例、千葉県107例、神奈川県56例、大阪府30例、栃木県24例、北海道、鹿児島県18例、茨城県17例、長野県15例、宮城県、山梨県、愛知県各14例、兵庫県、徳島県各12例の順となっている(図2)。累積報告数の上位5都府県の報告数の週別推移をみると、第19週の報告数は5都府県ともに2007年の最高値となっている(図3)。累積報告数の年齢別割合では0〜4歳の報告割合は39.7%と例年と比べて低く、10〜14歳の報告割合は33.9%と例年よりも高くなっている(図4)

図3. 主要都道府県における麻しんの報告の週別推移(2006年第36週〜2007年第19週)

図4. 麻しんの報告症例の年齢群別割合(2000年〜2007年第19週)

 次に、全国約450カ所の基幹定点からの成人麻しん(届出対象は15歳以上)の第19週の報告数は53例(定点当たり報告数0.117)と前週の25例(定点当たり報告数0.055)よりも大幅に増加した(図5)。都道府県別では東京都19例、宮城県6例、埼玉県、千葉県、島根県から各4例、北海道、山梨県から各3例、山形県、神奈川県から各2例、茨城県、富山県、石川県、兵庫県、和歌山県、大分県から各1例の順であり、東京都は第15週以降増加が続いている(図6)。2007年第1〜19週までの累積報告数は208例であり、都道府県別では東京都90例、神奈川県21例、埼玉県16例、宮城県15例、長野県10例、群馬県7例、茨城県6例の順となっている。東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の南関東地域からの累積報告数は132例と全体の60%を超えているが、他地域からの報告数も増加傾向にある(図7)。累積報告数の年齢別割合では、20〜24歳(36.5%)、15〜19歳(24.0%)、25〜29歳(21.2%)、30〜34歳(11.5%)の順であり、29歳以下で全報告数の80%を超えている(図8)

図5. 成人麻しんの年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年第17週)

図6. 成人麻しんの都道府県別累積報告状況(2007年第1〜17週)

図7. 主要都道府県における成人麻しんの報告の週別推移(2007年第1〜17週)

図8. 成人麻しんの報告症例の年齢群別割合(2007年第1〜17週)

 全国の衛生研究所における麻疹ウイルスの分離・検出状況をみると、2006年はD5型を中心にA型、H1型も報告されているが、2007年は5月22日現在山形県、茨城県、神奈川県、大阪府、島根県から21件の報告があり、そのうちウイルスの遺伝子型別が実施された16検体は全てD5型であった(感染症情報センター「麻疹ウイルス分離・検出状況 2007年」)。

 第19週(5月7日〜13日)に入り、小児科定点からの麻しんの報告数、基幹定点からの成人麻しんの報告数は共に大幅な増加がみられている。埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県の南関東地域における成人麻しんを含めた麻しんの報告数は増加しており、同地域における麻しんの流行は拡大傾向が続いている。また、同地域の周辺の地域での患者発生数の増加のみならず、周辺以外の北海道、宮城県、大阪府、鹿児島県等の地域においても患者報告数の増加がみられており、流行は全国に拡大してきていると考えられる。麻しんは春から夏にかけて流行する感染症であるといわれているが、その流行のピークは日本では5月中となることが多い。すなわちこれまでの感染症発生動向調査によると、流行時の患者発生報告数のピークは小児科定点からの麻しんの報告数は第19週前後となることが多く、基幹定点からの成人麻しんでは同様に第20週前後となること多い(図1、図5)

 従って麻しんの流行は、現在そのピークにさしかかりつつある可能性が考慮されるが、その流行は南関東地域とその周辺からさらに広域に拡大しつつあり、その発生動向の推移には今後とも十分な注意が必要である。

 欧米諸国をはじめとする多くの国々では、麻しんは既に『排除』が達成された疾患であり、我が国においても2001年のような多数の乳幼児が感染発病した大規模な流行を2度と繰り返すべきではない。また、日本を含めたWHO西太平洋地域(WPRO)は2012年までに域内からの『排除』を目標としている。そのためには、今後とも日本国内における地域的な流行は積極的に阻止されなければならない。学校、施設等においては1例でも麻しん患者が発生した場合に迅速かつ適切な対応を実施することが望まれる。加えて、現在の流行下においては麻疹ワクチン未接種で麻疹未罹患の方は、至急ワクチンを接種することが勧められる。また、従来の麻しん流行の中心である乳幼児における患者発生の増大を阻止するために、1歳早期(1回目)と小学校入学前1年間(2回目)のワクチン(麻疹・風疹混合ワクチンもしくは麻疹ワクチン)のより積極的な勧奨が重要である。

 以下に、麻しん関連情報として感染症情報センターのホームページに掲載されている主な項目とそのURLを挙げる。麻しん対策として活用いただければ幸いである。

麻疹(はしか): http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html
□緊急情報
□関連情報(注目すべき感染症/速報「麻疹」、医療機関での麻疹の対応について、保育園・幼稚園・学校等での麻疹患者発生時の対応マニュアル)
□国内情報(麻疹の現状と今後の麻疹対策について、我が国の健常人における麻疹PA抗体保有率、他)
□病原微生物情報[IASR]麻疹特集


麻疹発生DB(データベース):http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/meas-db.html
予防接種の話「麻疹」:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/b-measles.html
年齢別麻疹、風疹、MMRワクチン接種率:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/atopics/atpcs001.html
感染症の話「麻疹」:
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k03/k03_03/k03_03.html
「麻疹・風疹ワクチンなぜ2回接種なの?」ポスター:
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn01.html
「麻疹風疹混合ワクチンを1歳のお誕生日のプレゼントにしましょう」ポスター:
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn04.html
「小学校入学準備に2回目の麻疹・風疹ワクチンを!」ポスター:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn07.html
2006年度第2期麻疹・風疹ワクチン接種に関する全国調査−2006年10月1日現在中間評価−:
http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3252.html


IDWR週報 2007年第19号「注目すべき感染症」掲載予定)



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