国立感染症研究所 感染症情報センター
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◇ マラリア 2006〜2009年(2010年6月1日現在)


 マラリアはハマダラカの刺咬によりPlasmodium属のマラリア原虫が体内に侵入して起こる疾患であり、原虫種の違いにより、三日熱(原虫種はP.vivax)、四日熱(P.malariae)、卵形(P.ovale)、熱帯熱(P.falciparum)の4種類がある。マラリアは亜熱帯、熱帯の100カ国以上の国々に広く分布し、世界人口の最大40%が感染の危機にある疾患1)であり、2008年において患者数2億4,300万人、死亡者数86万3,000人と推計されている2)。日本を含む非侵淫地からの旅行者が侵淫地から帰国して発症する輸入マラリアも問題となっており、年間1〜3万例程度とされている3)4)。日本における輸入マラリアの発生状況として、2006〜2009年の報告症例について集計結果をまとめた。

1.全マラリア
 日本におけるマラリア報告数は、1999年4月に感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下感染症法)が施行される以前の伝染病予防法下では年間50〜80人で推移していた。しかし感染症法施行後、報告数は増加し、1999年(4月〜)112例、2000年154例、2001年109例と年間100例を超えたが、2002年83例、2003年78例と減少し、2007年からは50例台で推移している(図1)

 2006〜2009年に報告された226例をみると、性別は男性158例、女性68例で、年齢別では0〜9歳6例、10〜19歳3例、20〜29歳94例、30〜39歳65例、40〜49歳31例、50〜59歳18例、60〜69歳6例、70〜79歳2例、80〜89歳1例であった(図2)。原虫種別では三日熱78例、四日熱3例、卵形8例、熱帯熱126例、不明11例であった。

 死亡の報告は1例(70代女性)あり、熱帯熱マラリアであった。但し、感染症法下では届出は原則診断時のみであるため、届出以降に死亡した症例は把握されていない可能性がある。

図1. マラリアの年別・原虫種別報告数(1999年4月〜2009年)n=904) 図2. マラリアの性別・年齢群別・原虫種別報告数(2006〜2009年)n=226

 226例の感染地域(確定または推定として報告されている)は、アフリカが127例、アジア58例、オセアニア23例、南米6例、中東2例、中米1例、2地域以上の記載および不明が9例であった。アフリカの中では全例がサハラ以南アフリカで、西アフリカと東アフリカ(計119例)でアフリカ全体の94%を占めた。アジアの中では南アジアと東南アジア(計55例)でアジア全体の95%を占めた。オセアニアは全例パプアニューギニアであった(表1)

 さらに、日本からの渡航者における罹患状況を把握するために、住所地が日本国内のもの*215例に限ってみても、感染地域・感染国は同様の傾向であった(*住所地が報告されていなかった2006年3月までは最近数年間の主な居住地が国内のものとした。なお、逆に2006年4月からは最近数年間の主な居住地は届出されなくなったため、住所地が日本国内の中には海外からの移住者が一部含まれている可能性がある)(表2)。また、215例について、報告数の比較的多い6つの地域(西アフリカ、東アフリカ、南アジア、東南アジア、オセアニア、南米)別に、全マラリア・三日熱マラリア・熱帯熱マラリアの報告数の年次推移をみた。三日熱マラリアの多い東南アジアの報告数が減少する一方、熱帯熱マラリアの多い西アフリカの報告数に増加傾向がみられた(図3)。熱帯熱マラリアは短期間で重症化や死亡に至る危険があり、熱帯熱マラリアの流行地への渡航者は渡航前に医療機関(渡航者外来、トラベラーズクリニック等)を受診することが勧められる。2006年第13週以降は届出症例の職業が国にも報告されるようになった。職業は渡航目的と必ずしも一致しないが、215例のうち212例が2006年第13週以降の報告であり、その内訳は、会社員・公務員・教員が62例(29%)と最も多く、学生が34例(16%)と次に多かった。国際協力、NGO、NPO、ボランティアは19例(9%)であった。その他には、研究員、音楽家、写真家などがあった。マラリア以外の輸入感染症にも共通することとして、感染リスクを評価し、対策に繋げるためには、渡航目的や滞在期間を把握するシステム(届出項目に加える等)を構築することが不可欠と考えられる。また、海外で長期に滞在する国際協力関係者は現地で診断、治療されていることも少なくないと考えられ、報告数は過小評価されている可能性がある。

2.マラリア原虫種別
a.三日熱マラリア
 報告数は78例であり、性別では男性58例、女性20例で、年齢別では0〜9歳1例、10〜19歳2例、20〜29歳35例、30〜39歳21例、40〜49歳11例、50〜59歳3例、60〜69歳4例、70〜79歳1例であった(図2)。感染地域はアジアが40例と約半数を占め、インド(20例)、インドネシア(10例)が多かった。次いでオセアニアが17例と多く、全例パプアニューギニアであった。アフリカ、中東、中米、南米も少数であるが報告された(表1)

b.四日熱マラリア
 報告数は3例であり、性別では男性2例、女性1例で、年齢別では20〜29歳2例、60〜69歳1例であった(図2)。感染地域別ではすべてアフリカであった(表1)

c.卵形マラリア
 報告数は8例であり、性別では男性6例、女性2例で、年齢別では20〜29歳6例、30〜39歳1例、50〜59歳1例であった(図2)。感染地域別では7例がアフリカであり、1例はアフリカもしくはアジアであった(表1)

d.熱帯熱マラリア
 報告数は126例であり、性別では男性86例、女性40例で、年齢別では0〜9歳5例、10〜19歳1例、20〜29歳45例、30〜39歳40例、40〜49歳20例、50〜59歳12例、60〜69歳1例、70〜79歳1例、80〜89歳1例であった(図2)。感染地域別ではアフリカが105例と80%以上を占めた。その中で西アフリカが76例とアフリカ全体の70%以上を占めた。次いでアジアが14例と11%を占め、その中で東南アジアが10例とアジア全体の70%以上を占めた(表1)

表1. マラリア報告症例の原虫種別感染地域・感染国(2006〜2009年) 表2. 日本からの渡航者におけるマラリア報告症例の原虫種別感染地域・感染国(2006〜2009年) 図3. 日本からの渡航者におけるマラリアの感染地域別報告数の推移(1999年4月〜2009年)

 【文献】
1)Gerald L Mandell et al. PRINCIPLES AND PRACTICE OF INFECTIOUS DISEASES seventh edition, 2009, 3437
2)World Health Organization. World Malaria Report 2009
3)厚生労働省検疫所. 海外旅行者のための感染症情報:FORTH(FOR TRAVELLER'S HEALTH)マラリア
http://www.forth.go.jp/archive/tourist/kansen/07_mala.html
4)World Health Organization. International travel and health 2009

【参考情報】
●速報:マラリア1999年4月〜2004年12月感染症週報2005年第34号
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2005/idwr2005-34.pdf
●病原微生物検出情報(IASR)特集:マラリア1999年4月〜2005年
http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/323/tpc323-j.html
●病原微生物検出情報(IASR)特集:輸入マラリア2000年12月現在
http://idsc.nih.go.jp/iasr/22/252/tpc252-j.html
●病原微生物検出情報(IASR)特集:日本におけるマラリア
http://idsc.nih.go.jp/iasr/18/213/tpc213-j.html
●感染症の話:マラリア感染症週報2005年第4号
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k05/k05_04/k05_04.html


IDWR 2010年第38号「速報」より掲載)



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