国立感染症研究所 感染症情報センター
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ハンセン病(医療関係者向け 1)





概 念
 
ハンセン病は抗酸菌の一種であるらい菌による慢性細菌感染症で、主な病変は皮膚と末梢神経で、内臓が侵されることはまれです。各人のらい菌に対する免疫能の差から病型が分類されるので、免疫病とも言われています。「ハンセン病」が正式病名で、「らい」、「癩」などを用いません。診断・治療は一般の医療機関(保険診療)で行われています。感染し発病することは稀です。感染源は、らい菌が多く証明される未治療患者で、飛沫感染といわれています。感染時期は免疫系が十分に機能していない乳幼児期で、その期間の濃厚で頻回の感染以外ほとんど発病につながりません。また感染から発病までには生体の免疫能、菌量、環境要因など種々の要因が関与するため長期間(数年〜10数年〜数10年)を要します。遺伝病ではありません。日本での新患数は、日本人は毎年数名、在日外国人は約5名です。
 では、項目を分けて、説明します。略語は最後にまとめたので、参照してください。

感染と発病
 
人への感染は乳幼児期に、らい菌を多数排菌している患者との濃厚で頻回の接触によって、多数のらい菌が経気道的に入ることが重要です。そして数年から10数年、最近の日本では数十年の潜伏期を経て発症することがあります。発症にはその他、その人の免疫能、栄養状態、衛生状態、経済状態など様々な要因も関与します。なお、小児期以後の人が感染しても現在の日本では発症することはまずありません。すなわち、らい菌は感染・発病を同一線上には議論できません。

外来診療の現況
 
「らい予防法」廃止によってハンセン病は保険診療できるようになり、最近の新規患者の殆どは大学病院ないし一般医療機関の皮膚科で診療されています。

診察内容
 
問診では出生地(国)、小児期生活歴、家族歴などを聞きます。皮膚症状、神経症状などの所見をとり、ハンセン病を鑑別にいれます。次に、らい菌の検出、皮膚病理検査などを行います(図1)。診療や検査、入院などでは通常の感染予防の対応で十分です。

図1. ハンセン病診断への手順

臨床症状
 
皮疹は紅斑、白斑、丘疹、結節、環状の紅斑など多彩で、特異疹はありません。しかし、病型(後述)によってある程度特徴あるので、写真を参考にしてください(図2〜8)。皮疹に痒み無く、知覚(触覚、痛覚、温冷覚等)の低下、末梢神経の肥厚、神経運動麻痺などを認め、気づかずの外傷や火傷、などもおこります。
図2. ハンセン病の皮膚症状(PB, I群)左上臀部に知覚低下を認める白斑局面がある。 図3. ハンセン病の皮膚症状(PB, TT型)左臀部から一部右臀部にわたる中心治癒性の環状紅斑局面、表面は乾燥傾向を示す。 図4. ハンセン病の皮膚症状(PB, BT型)扁平隆起した紅斑局面で、衛星皮疹も認める。
図5. ハンセン病の皮膚症状(MB, BB型)紅斑〜環状紅斑が散在している。 図6. ハンセン病の皮膚症状(MB, BL型)左右対称性の紅斑〜環状紅斑局面 図7. ハンセン病の皮膚症状(MB, LL型)光沢を帯びた結節や浮腫性紅斑
図8. ハンセン病患者に見られた火傷(知覚脱出部にみられている)

神経学的検査
 
痒みのない皮疹部とその周辺の神経学的検査(触覚、痛覚、温度覚)を行います。神経の肥厚、運動障害、等も検査します(図9〜12)
図9. 触覚検査(乾燥した綿球または脱脂綿をちぎってばらして数本の綿にしたもので軽く触れる) 図10. 痛覚検査(虫ピンまたは注射針で軽くはねるか突く) 図11. 温度覚検査(40 ℃前後と5℃前後の温冷二つの試験管で検査する) 図12. 神経肥厚(大耳神経)

らい菌検出の検査
 
らい菌は現在まで培養に成功していません。以下の検出法があります。複数の方法で菌の検出に努めます。

a)皮膚スメア検査:らい菌は皮膚(真皮)に多く存在するので、皮疹部などからメスで組織液を採取します。組織液をスライドグラスに擦り付け、抗酸菌染色* し、検鏡(1,000倍、油浸)します。手技により検出率にばらつきがでます。(図13, 14)*抗酸菌染色:らい菌は抗酸性弱いため、通常の抗酸菌染色では染色されないことがありますので脂肪を取り過ぎないようにします。また染色過程で他の抗酸菌の汚染に注意します。

b)病理組織特殊染色:病理組織を抗酸菌染色* し、400倍で検鏡します。(図15)

c)
PCR検査:皮膚組織や組織液などかららい菌特異的なDNAを証明する検査です。実施検査機関はハンセン病研究センターのみです。(図16)
図13.(左)皮膚スメア検査(円刃刀で皮疹部を刺し、90度回転させ、跳ね上げる。メスに組織液が付着しているので、スライドグラスに塗りつける)
図14.(右)らい菌(皮膚スメア検査のもの。1,000倍、油浸)
図15.(左)らい菌(皮膚の病理組織を抗酸菌染色、Fite染色したもの、400倍)赤染しているのがらい菌
図16.
(右)PCRの結果 {プライマーとして70kDa (157 bp)の熱ショック蛋白(HSP 70)を用いた}

病理検査
 
皮膚の生検では、肉芽腫やレプローマ、浸潤細胞などを観察します。少菌型では類上皮細胞性肉芽腫がみられ、巨細胞も認めます(図17)。神経への細胞浸潤も認めます。一方多菌型では組織球性肉芽腫で、組織球の泡沫状変化(レプローマ)や空胞化が認められます(図18)。特殊染色では抗酸菌染色(上述)、S100染色(神経を観察)などを行います。可能ならば神経の生検も行います。
図17. 病理所見(PB、TT型、類上皮細胞や巨細胞などが見られる、400倍 HE染色)
図18. 病理所見(MB、LL型、泡沫細胞の集まった肉芽腫を形成している、400倍 HE染色)

検査機関
 
ハンセン病の患者数が少ないので、特殊な検査は国立感染症研究所ハンセン病研究センター(病理検査、PCR検査、血清抗PGL-I抗体検査、薬剤耐性遺伝子変異検査)で実施されているだけです(無料)。これらの検査依頼は各都道府県・指定都市の衛生主管部を通じ行う事になっていますが、詳細はハンセン病研究センターに問い合わせて下さい。



医療関係者向け2へ続く




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