国立感染症研究所 感染症情報センター
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◆ レジオネラ症 1999年4月〜2006年(2007年2月28日現在)


レジオネラ症はレジオネラ属菌(主にLegionella pneumophila)による感染症で、その病型には 肺炎型と感冒様のポンティアック熱型がある。後者は1968年に米国ミシガン州ポンティアックで、多数の急性発熱患者が出たことに由来する。肺炎型では、症状のみで他の病原体による肺炎と鑑別することは困難ではあるが、四肢の脱力や意識障害などの神経・筋症状を伴う例や、急速に全身状態が悪化する例があり注意が必要である。レジオネラ属菌は、本来水中や湿った土壌などの自然環境に普通に存在している細菌で、15〜43℃で繁殖し、循環式浴槽水、空調施設の冷却塔水、給湯器の水などの人工的な温水中に生息するアメーバなどの原虫の細胞内で増殖している。そのため、打たせ湯、ジャグジー、加湿器、噴水などにより発生したエアロゾルを吸入することで、気道感染を起こして発症することが知られている。

図1. レジオネラ症の年別報告数および年別累積報告数の推移(1999年4月〜2006年)
図2. レジオネラ症の発症月別報告数(1999年4月〜2006年)
レジオネラ症は1999年4月の感染症法施行から全数把握の対象疾患となり、無症状病原体保有者を含め、診断したすべての医師に届け出が義務付けられている。また、2006年4月からは肺炎型とポンティアック熱型の病型が合わせて報告されることとなった。

感染症法のもとで報告されたレジオネラ症は、1999年(4月〜)56例、2000年154例、2001年86例、2002年167例、2003年146例、2004年161例、2005年281例であり、2006年は517例であった(2007年2月28日現在)(図1)。2000年3月に静岡県(温泉:23例)、2000年6月に茨城県(総合福祉センター入浴施設:24例)、2002年7月に宮崎県(温泉:34例)で、いずれも循環式浴槽水による集団感染があり、また、2002年8月に鹿児島県(9例)で同じく循環式温泉施設によると推定される集団感染がみられた(4事例については順に、IASR Vol.21 No.9 p.188、同p.3-4 、IASR Vol.24 No.2 p.3-5、同p.5-6 参照)(図2)。その後は、大規模な集団発生事例は認められていないものの、2005年、2006年と報告数は著明に増加している。

図3. レジオネラ症の都道府県別・年別報告数(1999年4月〜2006年) 図4. レジオネラ症の報告都道府県と推定感染地(2006年第13〜52週) 図5. レジオネラ症の性別・年齢群別報告数(1999年4月〜2006年)

1999年4月〜2006年の累積報告数1,568例のうち、発症月の記載のある1,458例(1999年4月以前の発症例を除く)についてみると、前述の集団発生を除けば、発症月に明らかな偏りは認められなかった(図2)

報告のあった都道府県別にみると、東京都173例、愛知県107例、大阪府93例、静岡県88例、埼玉県73例、神奈川県66例、新潟県65例、茨城県58例、宮城県51例、兵庫県51例が多かった(図3)。また、従来、感染地域としては日本(国内)も含め国名までであったものが、2006年第13週からは、国内の都道府県名など、より詳細な地域が可能な限り報告されることとなった。2006年第13〜52週の報告432例について、報告都道府県と感染地域とされた都道府県を比較すると、静岡県、長野県、山口県などでは感染地域とされた数が報告数より多く、東京都、千葉県、愛知県などでは報告数が感染地域とされた数より多かった(図4)

1,568例の性別は、男性1,366例、女性202例であり、男性が圧倒的に多く87.1%を占めた。年齢中央値は64歳(0〜102歳)であり、年齢群(10歳毎)別にみると0〜9歳(12例)、10〜19歳(7例)、20〜29歳(13例)、30〜39歳(22例)、40〜49歳(108例)、50〜59歳(417例)、60〜69歳(473例)、70〜79(380例)、80〜90歳(117例)、90歳以上(19例)で、50歳以上が89.7%を占めた。男女別にみると、男性は年齢中央値が63歳(0〜98歳)で、60代、50代、70代の順に多く、女性は年齢中央値が70歳(0〜102歳)で、70代、60代、80代の順に多かった(図5)

レジオネラ症(肺炎型)は、時に致死的となる重症の疾患である。死亡の報告は、報告後に追加報告されたものを含めて73例(男性58例、女性15例)あり、致死率は4.7%となる。ただし、届け出時点以降の死亡については十分反映されていないことがあり、実際の致死率はより高い可能性がある。死亡などの転帰は本疾患において貴重な情報であるので、追加報告をお願いしたい。

図6. レジオネラ症報告症例における検査法(1999年4月〜2006年)

診断方法を年次別にみると、大きな変化が認められた。1999年には約20%を占めるに過ぎなかった尿中抗原検査法は、年々その割合を増し、2006年には90%以上の症例で実施されていた。2006年に報告された517例に限ってみると、尿中抗原のみが479例であり、尿中抗原+培養が7例、尿中抗原+血清診断(単一血清)が1例、PCR法単独が3例、培養が12例、PCR+培養が3例、培養+血清診断が11例(ペア血清5例、単一血清6例)であった(図6)。即ち、尿中抗原検査が487例(94.2%)に実施されているのに比べ、培養は22例(4.3%)に実施されたのみであった。


感染症週報 IDWR 2007年17・18合併号に掲載)
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