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劇症型溶血性レンサ球菌感染症 2006年(4月)〜2010年(2012年3月23日現在) |
劇症型溶血性レンサ球菌感染症〔Streptococcal toxic shock-like syndrome(STSS)〕は、A群溶血性レンサ球菌の感染によって起こる疾患として、1987年に米国で最初に報告され、わが国での最初の典型的な症例は1992年に報告された。発熱、疼痛(通常四肢の疼痛)で突発的に発症し、急速に病状が進行して、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)などを引き起こし、ショック状態となる。その致命率は30%以上に及ぶとされる。 本疾患は、感染症法(1999年4月1日施行)に基づく全数把握疾患として、診断したすべての医師は7日以内に届け出ることが義務付けられており、その発生動向が調査されている。届出基準は、1999年4月〜2006年3月までの期間においては、1)原因菌としてA群溶血性レンサ球菌の検出(血液または通常ならば菌の生息しない臓器から)、2)ショック症状、3)以下の症状のうち3つ以上:肝不全、腎不全、急性呼吸窮迫症候群、DIC、軟部組織炎(壊死性筋膜炎を含む)、全身性紅斑性発疹、痙攣・意識消失などの中枢神経症状、の1)〜3)のすべて満たすものであった(1999年4月から2006年3月までの報告はIDWR2007年第38号速報p.9〜13参照:http://idsc.nih.go.jp/disease/invasiveA/idwr200738.html)。2006年4月からは、1)の原因菌についてはA群に限らずβ溶血を示すレンサ球菌すべてとされ、また3)については3つ以上から2つ以上に変更された。今回は、届出基準変更後の2006年4月から2010年までの報告分についてまとめた。 2006年4月〜2010年の報告は、年別に2006年(4〜12月)76例、2007年93例、2008年106例、2009年103例、2010年122例で、報告総数は500例であった(図1)。届出基準の変更前は、2002年を除き年間50〜60例程度の報告であったのに対し、変更後はおよそ100例前後の報告となっている。罹患率にすると、人口10万対で2007年0.07人、2008年0.08人、2009年0.08人、2010年0.10人となる。 500例について、報告のあった都道府県別でみると、全ての都道府県から報告されており、東京都(67例)、愛知県(37例)、神奈川県(35例)、大阪府(31例)、兵庫県(29例)、埼玉県(27例)の順に多かった(図2)。人口10万人当たりに換算すると、島根県(1.12)、富山県(0.91)、滋賀県(0.71)、鳥取県(0.68)、徳島県(0.64)、香川県(0.60)の順に多かった。 感染地域(確定または推定として報告されたもの)は、すべて国内であった。都道府県別では、東京都(61例)、愛知県(35例)、神奈川県(30例)、埼玉県(28例)、大阪府(27例)、兵庫県(26例)で、報告都道府県とほぼ同じであった。
性別では男性280例、女性220例(男性/女性=1.3/1)であった。年齢の中央値は65歳(0〜98歳)〔男性63歳(0〜98歳)、女性68歳(0〜97歳)〕であった。性別に年齢群(10歳毎)別報告数をみると、男女ともに30代から増加し、男性は60代が、女性は80代がピークであった(図4)。なお、報告は任意であるが、女性のうち妊産婦と記載されたものは3例(20代1例、30代1例、40代1例)であった。
検出された病原体(β溶血を示すレンサ球菌)の血清群別では、A群が354例(71%)で最も多く、次いでG群93例(19%)、B群15例(3%)、C群12例(2%)、A群およびB群1例、C群およびG群1例、血清群不明24例(5%)であった(図7)。このうち死亡175例における血清群は、A群が126例(36%=126/354)、G群33例(35%=33/93)、C群5例(42%=5/12)、B群3例(20%=3/15)、A群およびB群1例、血清群不明7例であった。
感染経路(確定または推定として報告されたもの)は、500例中最も多かったのが創傷感染で209例(42%)、次いで飛沫・飛沫核感染33例(7%)、接触感染5例、経口感染3例、飛沫・飛沫核感染および接触感染2例、創傷感染および飛沫・飛沫核感染1例、創傷感染および接触感染1例、経口感染および接触感染1例、その他24例(5%)、不明221例(44%)であった。その他として報告された主な感染経路には、経皮感染7例、経膣感染3例、尿路感染2例などがあった。 (感染症発生動向調査週報 IDWR 2012年第12週掲載) |
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