国立感染症研究所 感染症情報センター
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Q7. 新型インフルエンザウイルスが出現する可能性はどの程度ありますか?

Q8

 人類の歴史上、これまで数十年(30〜40年)周期でパンデミックが発生していると考えられています。1847年と1889年のパンデミックの記録までさかのぼると、それぞれのパンデミックの間は、42年(1847〜1889年)、29年(〜1918年)、39年(〜1957年)、11年(〜1968年)でありました。1968年の香港インフルエンザ以来38年間パンデミックは起こっていませんが、インフルエンザに関する科学的知見が蓄積されるにつれ、再びパンデミックがおこることが10年前から懸念されていました。1993年にはドイツでの第7回ヨーロッパインフルエンザ会議、また1995年に米国でのパンデミックインフルエンザ会議での報告をはじめとして、多くの専門家から「人の世界において流行する新型インフルエンザウイルスが早ければ数年のうちに出現する」との警告が出されていたのです。つまり第一に、過去の歴史的な経験から可能性は徐々に高まりつつあるという考え方があります。

 これまでの新型インフルエンザウイルスは、すべて鳥世界からヒト世界に侵入したウイルスから発生しています。この侵入にはQ4に示したように3つの段階があります。現在、世界各地で発生しているH5N1亜型の鳥インフルエンザウイルスが、やがてヒトに容易に感染するようになり、さらにヒトからヒトへ効率的に感染するようになると、新型インフルエンザとなってパンデミックを起こすことが懸念されています。いつどのように、鳥インフルエンザウイルスがヒトに適応して、新型インフルエンザウイルスが出現するかは、誰にもわかりません。しかしながら、現在のように、家禽の間で鳥インフルエンザがまん延し、コントロールできない状況が長く続けば続くほど、鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染する機会が増え、それに伴ってウイルスが変異(変化)して、ヒトに適応する危険性は増加すると考えられます。これ故、その可能性が徐々に高まっているのではないかと考えられるわけです。また、2006年10月には現地で、ブタでのH5N1亜型の鳥インフルエンザ感染が確認されたという報道がありましたが、こういった情報も、パンデミックインフルエンザウイルスが、その一つの発生メカニズムとして、ブタの体内でヒトのインフルエンザウイルスと遺伝子組み換えを起こして発生することから、懸念材料の一つとなっています。

 しかしながら、これまでヒトにおいてパンデミックを起こしたのは、低病原性であるH1N1、H2N2、H3N2のみであり、鳥の高病原性ウイルスがヒト世界に侵入してパンデミックを起こしたという経験がないこと、また歴史上、16種類ものHA亜型のうち、ヒト世界にはH1、H2、H3亜型しか侵入した形跡はない(Kilbourne ED, 2006.)ため、現在のH5N1亜型からパンデミックが発生することはないのではないかという意見もあります。

 どの程度可能性があるか、それがいつくるかは、誰にもわからないというのが事実です。しかしながら、インフルエンザ専門家の間では、「いつ来るかはわからないが、いつかは必ず来る」というのが定説になっており、もし来た場合には大きな被害が予想されるにもかかわらず、準備がなければ社会は混乱するのみであるということです。パンデミックへの準備は、台風や地震、津波、ハリケーンなどの自然災害、あるいはバイオテロなどの人為的災害への準備などと、いかに人々の生命を守るかということにおいて共通のものであり、このような危機管理の視点から世界的にその準備が進められているのです。






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