国立感染症研究所 感染症情報センター
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Q6. パンデミックが起こった場合に、社会全体にはどのような影響がでるのでしょうか?

Q7

 将来パンデミックがおこった際の社会への影響は多数の因子により支配されます。これには、(1)ウイルス自体の病原性、(2)一定の期間に罹患する感染者数、(3)重症合併症の頻度、(4)罹患患者の年齢層、(5)感染拡大の速度、(6)事前準備の程度、(7)対策の効果、(8)社会背景(年齢構成や人口密度、一般的な衛生状態)、(9)医療レベルなどがあり、またそれぞれの寄与の度合いも様々ですが、これらにより実際の社会への影響は大きく変わってくることが予想されます。

 しかしながら、一般的な想定として、1)膨大な数の患者と死亡、2)精神的・肉体的苦痛、3)医療従事者の感染、4)医療機関への過剰負担と医療サービス供給の破綻、5)社会基盤従事者(交通・通信・警察・電気・食料・水道、消防など)の感染、6)社会機能・行政機能の破綻、7)日常生活の制限、8)企業活動の制限、9)ドミノ効果による企業の存続基盤の崩壊、9)生産年齢人口の減少、10)莫大な経済的損失などが考えられます。

 もちろん、将来起こるパンデミックがどのような性質をもつものかは、現状ではわかりませんので、上述の各種因子に、いろいろな数字を仮定して社会への影響が推計されています。たとえば、近い将来パンデミックが発生した場合、WHOはアジアフルのデータを基礎とした方法により、全世界で200〜740万人の死亡がでると推計していますが、スペインフルのデータから推計すれば、1億人を超える数字がでてきます。別の研究では、発展途上国の人々を中心に約6,200万人が死亡するという推定もあります(Murray CJL, 2006)。また米国連邦議会予算局はアジアフル、香港フル級であれば、約1%GDPが減少するが、スペインフル級の重篤なパンデミックが発生した場合には、米国のGDPが約4.25%減少するという試算をだしています。また、Econometric modelを使用した推計では、世界におけるGDPの損失が軽症のシナリオで0.8%(約3300億米ドル)、最重症のシナリオで3.4%(約1兆4000億米ドル)に上ると試算されています(Mckibbin WJ, Sidorenko AA. 2006.)。

 われわれが、数十年あるいはそれ以上の期間をおいて大きな地震が起こる可能性を想定し、常日頃からそれに対して供えを築き上げてゆくように、インフルエンザ・パンデミックに対しても、近い将来の最悪の事態を想定して、社会全体で今から可能な準備を始めることが必要であるといえます。






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