国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
◇ A型肝炎 2005年(2006年5月26日時点)

A型肝炎はA型肝炎ウイルス(HAV)の感染により、2〜7週間と比較的長い潜伏期間ののち、発熱、全身倦怠感、食思不振、悪心・嘔吐、黄疸などの急性肝炎症状を起こす疾患である。成人では顕性感染が75〜90%と多いが、小児では不顕性感染が80〜95%と多い。HAVは糞口感染によって伝播するため、その発生状況は衛生環境に左右され、衛生環境の未整備な途上国では10歳までにほぼ100%が感染して、無症状のまま抗体を保有するといわれている。現在の日本においては、50歳以下での抗体陽性者は極めて少なくなっている。

A型肝炎は1987年に感染症サーベイランス事業の対象疾患に加えられ、全国約500カ所の病院定点から月単位の報告により、発生動向調査が開始された。その後1999年4月の感染症法施行より、急性ウイルス性肝炎の一部として全数把握疾患となり、診断した全ての医師に届け出が義務づけられるようになった。さらに2003年11月5日からは感染症法の改正によって、単独疾患として四類感染症に分類され、無症状病原体保有者を含む届け出となった。

感染症法のもとで報告されたA型肝炎の過去の年間報告数は、1999年(4月〜)761例、2000年381例、2001年491例、2002年502例、2003年303例であったが、2004年は139例と著減し、2005年は171例であった(図1)。性別では男性108例、女性63例であった。年齢は1〜91歳(中央値45歳)で、過去の年齢中央値と比較すると上昇傾向が認められた(図2)。
図1. 急性ウイルス性肝炎の発生状況(2000〜2005年)

推定感染地域は国内123例、国外36例、不明12例であり、2005年は前年(2004年)に比べ、国内、国外ともにわずかな増加がみられた(図3)。なお、患者の接触者として検査されて判明した無症状病原体保有者の報告が1例あった。死亡例の報告はなかった。
図2. A型肝炎の報告症例の年別年齢中央値の推移 図3. A型肝炎の年別・推定感染地域別報告数 図4. A型肝炎の性別・年齢群別報告数(2005年)

国内感染が推定された123例は、性別では男性78例、女性45例、年齢は1〜91歳(中央値:48歳)であり、年齢中央値には上昇傾向が見られた。年齢群別では10歳未満2例、10代5例、20代12例、30代22例、40代24例、50代21例、60代18例、70代12例、80代6例、90代1例で、30〜60代に多く、特に30〜50代の男性に多かった(図4)。都道府県別では北海道16例、東京都12例、大阪府12例、兵庫県12例、岡山県10例が多く、一方、報告のない県が16県みられた。ただし、これらは届け出を行った自治体であり、感染地を意味するものではない。
発症月の記載があった120例について発症月をみると、1月をピークに、5月を除く1〜6月に多く、7月以降は少ない傾向が認められた(図5)。
図5. A型肝炎の年別・発症月別報告数 図6. A型肝炎の報告症例の推定感染経路/推定感染源(2005年)
これは、2001年を除く2000〜04年の傾向とほぼ同様である。推定感染経路は経口感染91例、患者との接触1例、不明が31例であった。経口感染の推定感染源をみると(複数回答あり)、牡蠣が27例、牡蠣以外の海産物が17例、寿司が4例、水が2例であった(図6)。感染経路や感染源の推定は感染拡大防止策、感染予防策に有用な情報であるので、医療機関においては、問診などによりできる限り具体的な情報を収集することが望まれる。

国外感染が推定された36例は、性別では男性26例、女性10例であり、年齢は4〜64歳(中央値:33.5歳)であった。年齢群別では、10歳未満1例、10代0例、20代10例、30代12例、40代5例、50代5例、60代3例であった(図4)。発症月は全例で記載されていたが、特別な集積は認められなかった(図5)。

推定感染国をみると(複数国名の記載あり)、インド6例、インドネシア4例、カンボジア4例、韓国3例、中国3例、フィリピン3例、タイ3例、ミャンマー3例などであり、アジアが32例と89%を占めた(図7)。
図7. A型肝炎の国外感染例の推定感染国(2005年)
推定感染経路は経口が32例、不明が4例で、経口感染の推定感染源では(複数回答あり)牡蠣が3例、牡蠣以外の海産物が8例、水が5例、生野菜が2例、果物が1例であった(図6)。

A型肝炎はワクチンによる予防が可能であり、わが国では16歳以上の者が任意接種として接種可能である。特に流行地への渡航者にはワクチン接種が勧められる。また、調理従事者や保育施設従事者などの感染予防、感染拡大防止にも有用と考えられる。

IDWR 2006年第20号「速報」より掲載)



Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.