国立感染症研究所 感染症情報センター
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◇ E型肝炎 1999年4月〜2005年第38週(2005年9月27日現在)


 E型肝炎はE型肝炎ウイルスが経口感染することによって起こる疾患である。従来水系感染が主であると考えられており、インド、中央アジア、北アフリカ、中国などでの大規模な集団発生が知られている。欧米諸国や日本などの先進国では散発的に発生し、途上国への渡航により感染するものが大半を占めると考えられていたが、近年渡航歴のない患者発生が散見されるようになり、先進諸国においてもE型肝炎ウイルスが土着していると考えられるようになった。
 臨床経過としては、平均6週間の潜伏期を経て、全身倦怠感、食欲不振、黄疸、発熱などの症状で発症する。小児での不顕性感染はA型肝炎ほどには多くない。通常は約1カ月間で完治し、慢性化することはない。しかし、ときに劇症化して死に至ることもあり、致死率は全体で1〜2%とA型肝炎と比較して高く、特に妊娠第3三半期の妊婦では20%に上るとの報告もある。

報告数推移
 E型肝炎は、1999年4月の感染症法施行から急性ウイルス性肝炎の一部として全数把握の対象疾患となり、さらに2003年11月5日からは感染症法の改正によって、単独疾患として四類感染症に分類され、無症状病原体保有者を含め、すべての医師に届出が義務付けられている。

  感染症法のもとで報告されたE型肝炎の発生動向をみると、1999年(4月〜)0例、2000年3例、2001年0例、2002年16例、2003年30例、2004年37例、2005年(〜第38週)34例であり、2002年から2004年にかけて報告数は急増し、2005年の報告数も第38週の時点で、前年同時期の報告数を上回っている(図1)。この急増については、病原体検査(IgM HEV抗体検査)の普及による影響も考えられ、発生そのものが急増しているとは一概には言えない。
図1. E型肝炎の年次別・推定感染地域別報告状況
 1999年4月から2005年第38週に報告された累積報告数は120例であり、男性103例、女性17例で男性に多い。年齢は14〜86歳(中央値56歳)で、50代(35例)、60代(33例)が特に多く、50代、60代の男性が全体の半数以上を占めている(図2)。死亡の報告は3例あり、いずれも男性で60代2例、70代1例であるが、それらの集計による致死率は2.5%であった。
図2. E型肝炎の性別・年齢階級別報告状況(1999年4月〜2005年38週)

しかし、死亡の報告については、届け出時点以降での発生が十分に反映されていない可能性がある。推定感染地域別では、国内感染87例、国外感染31例、不明2例であり、国内:国外はほぼ3:1の割合であった。しかし、E型肝炎の潜伏期は比較的長いので、国外感染が認識されない可能性も考える必要がある。

国内感染例

 国内感染と推定された87例は、男性72例、女性15例で、年齢別(10歳毎)では60代(28例)、50代(27例)が多く、年齢の中央値は56歳であった。87例のうち発病年月日の記載があったのは78例であったが、発病月に一定の傾向は認められなかった。報告された地方別では、北海道(29例)が特に多く、次いで関東・甲信越(17例)、九州(14例)、近畿(11例)の順で多かった(図3)。都道府県別では、北海道に次いで多いのは、東京都(5例)、兵庫県(5例)、長崎県(5例)であっ た(図3の表)。北海道、兵庫県、鳥取県、長崎県ではいずれも、会食による集団発生事例が含まれていた。
図3. E型肝炎の地域ブロック別・都道府県別報告状況(1999年4月〜2005年38週)

 87例のうち、推定感染経路が経口感染と記載され、さらに推定される飲食物の記載のあったものは36例で、その内容(一部重複あり)はブタ16例、イノシシ13例、シカ7例、牡蠣/タチ(鱈の精巣)1例、馬刺しユッケ1例、焼肉1例、生の肝臓(種類不明)1例であった。ブタ、イノシシ、シカの詳細(一部重複あり)としては、ブタ:肉5例(うち2例は生食)、肝臓10例(うち3例は生食)、腸3例、胃1例、横隔膜1例、イノシシ:肉7例、肝臓6例(うち5例は生食)、心臓2例(うち1例は生食)、シカ:肉6例(うち5例は生食)、その他1例、であった。また、イノシシ、シカは近畿地方以西から報告されており、ブタは北海道に最も多いが、本州全土から報告がみられた。保存されていたイノシシ肉やシカ肉からE型肝炎ウイルス遺伝子が検出された例もあった。
 ウイルスの遺伝子型はG1〜4型に分類されるが、87例のうち遺伝子型を把握できたものは14例あり、G3型が11例(北海道2例、大阪府1例、兵庫県4例、愛知県1例、三重県3例)、G4型が3例(すべて北海道)であった。文献でも示されているが、わが国におけるタイプはG3型あるいはG4型であることが示唆された。

国外感染例
国外感染と推定された31例は、男性29例、女性2例で、年齢別では20代(10例)が最も多く、次いで50代(7例)、60代(5例)で、年齢の中央値は38歳であった。推定感染国別では中国(13例)、インド(6例)が特に多く、次いでネパール(2例)で、他にはタイ、ミャンマー、バングラデシュ、パキスタン、アフガニスタン、インド/ネパール、ベトナム/カンボジア、インド/東南アジア、ベトナム/アメリカ、東南アジアが各1例であり、そのほとんどがアジア諸国であった。
 31例のうち、推定感染経路が経口感染と記載され、さらに推定される飲食物の記載のあったものは9例で、その内容では水(4例)が最も多かった。
 ウイルスの遺伝子型を把握できたものはタイでの感染が推定される1例で、G3型であった。


 E型肝炎は輸入感染症と考えられていたが、1999年4月以降に報告された症例の大半が国内感染であり、E型肝炎ウイルスはわが国にも土着していることが示唆された。また、報告のあった自治体は必ずしも感染地域を示すわけではないものの、北海道からの報告が特に多かった。
 報告された症例は50代、60代の男性に多く、この世代の男性の食行動との関連が考えられる。推定される飲食物の記載では、ブタ、イノシシ、シカなどの肉や内臓が多く、加熱不十分の可能性があるのみならず、生食と明記されたものも少なからずあった。また、今回集計した120例の中でも3例の死亡が報告されており、注意すべき疾患といえる。E型肝炎の疫学の詳細については未だ不明な点が多く、発生動向調査の充実が必要である。患者の疫学情報の収集に加え、推定される感染源(特に肉類)からのウイルス遺伝子検出や遺伝子型検査なども積極に行うことが望まれる。
 E型肝炎の予防としては、流行地への渡航時には生水などに注意すること、また国内外を問わず、感染源になりうるブタ、イノシシ、シカなどの肉や内臓を食する場合には、十分加熱することが大切である。

感染症発生動向調査週報 2005年第38週に掲載)



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