国立感染症研究所 感染症情報センター
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◇ 腸管出血性大腸菌感染症2006、2007年(2009年2月12日現在)


 腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法に基づく3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が診断した全ての医師に義務づけられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の検便によって偶然発見される場合もあるが、探知された患者と食事を共にした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。腸管出血性大腸菌感染症の報告は1996年8月6日に伝染病予防法のもとで指定伝染病に規定された時に始まっているが、以下においては、1999年4月の感染症法施行以降の報告の範囲で記述する。


■年次推移(図1)
 年間報告数(診断週が各年第1〜52週のもので、2009年2月12日までに報告されたもの)は2006年が3,922例、2007年が4,617例であり、2000〜2005年の年間累積報告数(2000年3,648例、2001年4,435例、2002年3,183例、2003年2,999例、2004年3,764例、2005年3,589例)と比較すると、2007年は最も多く、2006年は2001年に次いで3番目に多かった。有症状者は2006年が2,515例(64.1%)、2007年が3,083例(66.8%)であり、有症状者の占める割合は、2003年以前は平均約62%であったが、2004年以降は約67%と増加している。
図1-1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・症状別発生状況(1999年4月〜2007年) 図1-2. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・有症状者割合(1999年4月〜2007年)


■週別推移(季節性)(図2)
 例年、報告数の最大のピークは夏季にみられ、2006年、2007年においても8月をピークとして、7月中旬から9月上旬にかけて報告数が多かった。2007年には、5月下旬〜6月と9月下旬〜10月にかけて大規模食中毒事例が発生し報告数の増加が見られた(2003年の9月の報告数増加は幼稚園で発生した大規模食中毒事例の発生によるものであった)。
図2. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年)


■都道府県(報告地であり、必ずしも感染した都道府県を示すものでない)(図3)
 2006年:東京都(268例)、大阪府(262例)、福岡県(223例)、愛知県(211例)、神奈川県(209例)が多く、15の都府県で年間累積報告数が100例を超えた。人口10万人当たりの罹患率でみると、宮崎県(11.50:報告数132例)が最も多く、次いで佐賀県(10.66:報告数92例)、富山県(10.54:報告数117例)が多かった。
 2007年:東京都(476例)、大阪府(438例)、福岡県(264例)、宮城県(251例)、兵庫県(210例)が多く、17の都道府県で年間累積報告数が100例を超えた。人口10万人当たりの罹患率でみると、宮崎県(11.29:報告数129例)が最も多く、次いで石川県(11.28:報告数132例)、宮城県(10.69:報告数251例)が多かった。
図3-1. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告数と罹患率(2006年) 図3-2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告数と罹患率(2007年)


■感染地域(確定または推定として報告されている)
 2006年:感染地域を国内とするものが3,856例(98.3%)、国外とするものが53例(1.4%)、不明が13例(0.3%)であった。
 国内の感染地域詳細として都道府県名も届け出られることになった2006年4月以降の3,753例について内訳をみると、大阪府(219例)、福岡県(192例)、東京都(189例)、愛知県(181例)、神奈川県(150例)、熊本県(149例)、兵庫県(136例)が多かった。国内感染での集団発生事例としては、富山県の保育施設関連(74例)、岐阜県の保育施設関連(49例)、佐賀県の保育施設関連(38例)などがあった。
 国外の感染国の内訳は、中国22例、韓国11例、インドネシア5例、タイ、ハワイ、グアム各2例で、その他にイギリス、イラン、インド、スイス、ブラジル、ベトナム、ボリビア、モンゴル、国不明各1例であった。国外感染での集団発生事例は、中国への修学旅行が1件(11例:第38〜39週)、韓国への修学旅行が1件(8例:第40週)報告された。
 2007年:感染地域を国内とするものが4,553例(98.6%)、国外とするものが50例(1.1%)、不明が14例(0.3%)であった。
 国内の感染地域の内訳は、東京都(432例)と大阪府(416例)が際立って多く、次いで福岡県(251例)、宮城県(249例)、兵庫県(202例)、千葉県(154例)、愛知県と埼玉県(各131例)の順に多かった。国内感染での集団発生事例は、東京都の学校食堂関連(204例:第20〜23週)、宮城県の仕出し弁当関連(143例:第40〜44週)、福島県の保育施設関連(33例:第33〜36週)、岩手県の保育施設関連(31例:第37〜42週)などがあった。
 国外の感染国の内訳は、韓国12例、中国、トルコ各4例、ベトナム、インドネシア各3例、台湾、タイ、シンガポール、エジプト各2例、アルゼンチン、インド、オーストラリア、ニュージーランド、ペルー、サイパン、ジャマイカ、インド/カンボジア/ベトナムのいずれか各1例、国不明8例であった。国外感染における大きな集団発生はなかった。
 国外での感染:国外感染の占める割合は、2003年にはオーストラリアへの修学旅行、2004年には韓国への修学旅行2件に伴う集団発生が影響し、それぞれ報告数の2.2%、4.1%を占めたことがあった。2006年は2件の国外集団感染事例が発生したものの、2006、2007年のいずれも報告数の約1%であった。推定感染国としては、毎年報告されているインドネシア、2003年を除き毎年報告されている韓国の他に、中国、タイ、ベトナムなどアジア地域からの報告が多い。


■性・年齢群(図4・図5)
 2006年:性別では男性1,827例(うち有症状者1,212例、66.3%)、女性2,095例(うち有症状者1,303例、62.2%)で、年齢は0〜98歳(中央値15歳)であった。年齢群別にみると、10歳未満1,651例(0〜4歳1,044例、5〜9 歳607例)、10代538例、20代558例、30代393例、40代214例、50代238例、60代171例、70代99例、80代48例、90代12例であった。20歳未満では男性がやや多いが、20歳以上では女性が多くなっており、年齢中央値は男性11歳、女性19歳で2005年(男性11歳、女性18歳)と同様の性差が認められた。症状別でみると、男女ともに30代、40代、50代では無症状病原体保有者が、それ以外では有症状者が多かった。有症状者の占める割合は10代77.5%、70代以上75.5%、10歳未満72.4%、20代60.0%、60代57.9%の順に大きかった。
 2007年:性別では男性2,143例(うち有症状者1,500例、70.0%)、女性2,474例(うち有症状者1,583例、64.0%)で、年齢は0〜99歳(中央値19歳)であった。年齢群別にみると、10歳未満1,711例(0〜4歳1,081例、5〜9 歳630例)、10代644例、20代755例、30代505例、40代243例、50代318例、60代205例、70代146例、80代77例、90代13例であった。2006年と異なり、男性が多いのは10歳未満のみで10歳以上はすべて女性が多く、年齢中央値は男性14歳、女性21歳で2006年と比較しどちらも高かった。症状別では、男女ともに30代、40代で無症状病原体保有者が、それ以外では有症状者が多かった。有症状者の占める割合は10代76.1%、10歳未満75.7%、70代以上70.3%、20代68.9%、60代59.5%の順に大きかった。2006年と比較して、20代の有症状者の割合が大きかった。
図5-1. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢群別・症状の有無別報告数(2006年) 図4-2. 腸管出血性大腸菌感染症の年齢群別割合(2007年) 図5-1. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢群別・症状の有無別報告数(2006年)
図5-2. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢群別・症状の有無別報告数(2007年)


■感染経路・感染源(確定または推定として報告されている)
 2006年:3,922例の感染経路は、経口感染1,419例(36.2%)、接触感染610例(15.6%)、経口または接触感染89例(2.3%)、動物・蚊・昆虫等(以下動物等)からの感染37例(0.9%)、経口または接触または動物等からの感染15例(0.4%)、接触または動物等からの感染8例(0.2%)、経口または動物等からの感染7例(0.2%)、その他31例(0.8%)、不明・記載なしが1,706例(43.5%)であった。その他として、職場の定期検便2例、実習中の感染1例などが報告されていた。経口感染とされた1,530例(複数の感染経路での報告を含む)のうち、肉類の喫食が記載されていたものは454例あった。454例のうち、210例は生肉(加熱不十分の肉を含む)を喫食しており、種類として生レバー・レバ刺しが122例と多かった。
 2007年:4,617例の感染経路は、経口感染2,065例(44.7%)、接触感染611例(13.2%)、経口または接触感染45例(1.0%)、動物等からの感染17例(0.4%)、経口または動物等からの感染6例(0.1%)、接触または動物等からの感染2例(0.0%)、経口または接触または動物等からの感染8例(0.2%)、その他102例(2.2%)、不明・記載なしが1,761例(38.1%)であった。その他として、職場の定期検便2例、実験室内感染1例が報告されていた。経口感染とされた2,124例(複数の感染経路での報告を含む)のうち、肉類の喫食が記載されていたものは582例あった。582例のうち、生肉を喫食していたものは266例で、そのうちの158例が生レバー・レバ刺しを喫食していた。


■O血清群・毒素型(表1)
 2006年:3,922例のO血清群は、O157 2,690例(68.6%)、O26 867例(22.1%)、O111 110例(2.8%)の順であり、これは従来と同様であった。毒素型も加えると、O157 VT1・VT2が1,742例(うち有症状者70.7%)と最も多く、次いでO157 VT2が837例(うち有症状者63.0%)、O26 VT1が821例(うち有症状者47.7%)であった。O26 VT1は、2004年(645例.2005年1月20日時点)、2005年(561例.2006年3月31日時点)と比べ多かった。
 2007年:4,617例のO血清群は、O157 3,431例(74.3%)、O26 529例(11.5%)、O111 255例(5.5%)の順で、毒素型も加えると、O157 VT1・VT2が2,017例(うち有症状者72.9%)と最も多く、次いでO157 VT2が1,247例(うち有症状者62.0%)、O26 VT1が506例(うち有症状者59.1%)、O111 VT1が155例(うち有症状者55.5%)であった。2006年と比較すると、2007年は東京都(O157 VT2)と宮城県(O157 VT1・VT2)で発生した2つの大規模食中毒事例などによる報告数の増加で、O157の割合が増加した。また、保育園においてO111 VT1による集団感染事例が多発したため、O111の割合も増加がみられた。
表1-1. 腸管出血性大腸菌感染症の報告症例における原因菌の血清群と毒素型(2006年) 表1-2. 腸管出血性大腸菌感染症の報告症例における原因菌の血清群と毒素型(2007年)



■重症例・死亡例(図6、表2、表3)
 2006年の4月(第13週〜)から溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、菌が分離されなくても、便からのVero毒素(VT)検出、あるいは血清におけるO抗原凝集抗体または抗VT抗体検出によって診断されたものが、届出の対象となった。同時に届出様式が変更され、それまで任意記載であった臨床症状の報告は、主な症状が選択式となり、急性腎不全、痙攣、昏睡、脳症などが選択項目となり、これらの症状も把握されやすくなった。
 2006年:HUSは102例(うち1〜3月が3例)報告され、有症状者の4.1%に発生していた。性別では男性41例、女性61例であった。年齢は0〜86歳(中央値4歳)で、年齢群別では0〜4歳が52例(有症状者の6.7%)と最も多く、5〜9歳24例(同5.7%)、10〜14歳12例(同5.1%)、15〜64歳7例(同0.8%)、65歳以上7例(同4.2%)であった。HUS発症例は10歳未満の小児に多くみられたが、有症状者に占めるHUSの発症率でみると小児に限らず65歳以上の高齢者も高かった。HUS症例の診断方法は、菌分離が71例(69.6%)、菌は分離されなかったが血清でのO抗原凝集抗体が30例(29.4%)、便から直接のVT検出が1例(1.0%)であった。菌が分離された71例の血清群・毒素型をみると、O157 VT1・VT2 31例、O157 VT2 26例などO157が計62例で全体の87.3%を占め、他にO111が5例(VT1・VT2 4例、VT1 1例)、O26が2例(VT1・VT2 1例、VT2 1例)などであった。
 死亡例の把握は届け出時点で記載されていたか、または届出後に追加で報告されたものに限られるが、3例みられており、内訳は2歳女性(O26 VT2とOUT VT2に重複感染、HUS発症)、4歳女性(O157 VT1・VT2、HUS発症)、70代女性(O157 VT1・VT2、HUS発症)で、すべてHUS発症者であった。報告されたHUS発症例(102例)の致死率は2.9%であった。
 2007年:HUS症例は129例報告され、有症状者の4.2%に発生していた。性別では男性54例、女性75例であった。年齢は1〜89歳(中央値5歳)で、年齢群別では0〜4歳が61例(有症状者の7.5%)と最も多く、5〜9歳43例(同8.9%)、10〜14歳7例(同2.6%)、15〜64歳12例(同0.9%)、65歳以上6例(同2.8%)であった。2006年同様、10歳未満の小児に多くみられたが、有症状者に占めるHUSの発症率は、0〜4歳と5〜9歳の両年齢群において2006年より高かった。HUS症例の診断方法は、菌分離が81例(62.8%)、血清でのO抗原凝集抗体または抗VT抗体の検出が45例(34.9%)、便から直接のVT検出が3例(2.3%)であった。菌が分離された81例の血清群・毒素型をみると、O157 VT2 36例、O157 VT1・VT2 32例、などO157が計72例で全体の88.9%を占め、他にO121 VT2 3例、O165 VT2 3例などであった。HUS症例のうち11例で脳症の発生が報告された。
 HUS症例以外での重篤な症状として、急性腎不全8例、痙攣1例、昏睡1例が報告された。
 死亡例は4例で、内訳は3歳女性(O157 VT2、HUS発症)、4歳女性(患者血清による診断、HUS発症)、50代男性(O157 VT2、HUS発症)、80代男性(O157 VT1・VT2)であった。報告されたHUS発症例(129例)の致死率は2.3%であった。
 なお、HUSの合併や死亡の報告については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があるので、このような発生があった場合には報告の追加、修正をお願いしている。
図6. 腸管出血性大腸菌感染症のHUS発症例の性別・年齢群別報告数(2006年・2007年) 表2. 腸管出血性大腸菌感染症のHUS発症例の年齢別報告数と有症状者に占める割合(2006年・2007年) 表3. 腸管出血性大腸菌感染症のHUS発症例における分離菌の血清群と毒素型(2006年・2007年)


■2006年、2007年のまとめ
 感染症法施行以降の年間累積報告数を2000年以降の8年間でみると、2006年は2001年に次ぐ3番目の報告数であり、2007年は過去最高の報告数であった。2006年、2007年ともに従来と変わらず各地で保育施設での集団感染事例が発生し、さらに2007年には、100名を超える大規模な食中毒事例が2件発生したことが影響している(http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/327/graph/t3272j.gifhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/29/339/graph/t3392j.gif)。
 HUS発症例は、2006年4月の届出基準の改正で、菌が分離されない場合でも、患者の血清抗体の検出または便から直接のVT検出も届出対象となったことによって、2004年48例、2005年42例の報告であったものが、2006年102例、2007年129例と報告数は倍以上となった。死亡の報告数は、2006年3例、2007年4例(1999年1例、2000年2例、2001年4例、2002年4例、2003年2例、2004年5例、2005年10例)であった。
 このように、本疾患は依然として年間3,500〜4,000例の規模で報告が続いており、小児や高齢者において、HUSなどの重症例や死亡例がみられている。感染経路や感染源の推定・確定は、本症の潜伏期間が2〜14日と比較的長いこともあり、はっきりしないことも多いが、近年生肉や生レバーが感染源と見られる届出も多く認められている。特に小児、高齢者や抵抗力の弱い者などでは、肉・レバーなどはよく加熱し、生食は控える必要がある。食品の取り扱いには十分注意して、食中毒の発生予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。最近では自治体をまたいだ広域発生事例も散見されており、食材・食品の流通という観点も併せ、事例調査と対策における自治体間の連携は、本疾患の対策上今後ますます重要と考える。また、保育園や幼稚園などの保育施設での集団感染事例があとを絶たない。1人では手指衛生を十分に行えない乳幼児が集団生活を営む保育施設では特に、感染症発生の早期探知と二次感染予防を含めた拡大防止策の徹底が重要である。


■2008年暫定報告数(2009年2月19日現在)
 報告数は4,320例で、うちHUS発症例は94例である





IDWR 2009年第5〜6号「速報」より掲載)


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