国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
◇ 腸管出血性大腸菌感染症 2005年(2006年3月31日現在)


腸管出血性大腸菌感染症は、1999年4月施行の感染症法に基づく3類感染症として、無症状 病原体保有者を含む症例の報告が診断した全ての医師に義務づけられている。無症状病原体 保有者は、食品産業従事者の検便によって偶然発見される場合もあるが、探知された患者と食事 を共にした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。 なお、腸管出血性大腸菌感染症の報告は、1996年8月6日に伝染病予防法の元で指定伝染病 に規定された時に始まっているが、以下においては、感染症法施行以降の報告の範囲で記述する。

■年次推移(図1)

 2005年の報告数(診断週が2005年第1〜52週のもので、2006年3月31日までに報告されたもの) は3,572例であり、2000〜2004年の年間累積報告数(2000年3,642例、2001年4,435例、2002年 3,183例、2003年2,999例、2004年3,764例)と比較すると、ほぼ平均的な数であった。また、有症 状者が2,414例(68%)、無症状病原体保有者が1,158例(32%)であり、有症状者の比率は2004 年とほぼ同値で、2003年以前(54〜66%)と比較するとやや大きかった。
図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・症状別発生状況


■推定感染地域
 推定感染地域を国内とするものが3,380例(94%)、国外とするものが27例(1%)、不明が165例(5%)であった。国外感染の占める割合は、2003年にはオーストラリアへの修学旅行、2004年には韓国への修学旅行2件に伴う集団発生が影響し、それぞれ報告数の2%、4%を占めたが、2005年は国外感染の大きな集団発生は認められず、1999〜2002年と同様に1%であった。推定感染地域を国外とする27例の推定感染国は、オーストラリア5例(うち2例は修学旅行)、韓国3例、インドネシア3例、ベトナム2例で、その他に米国、ハワイ、グアム、タイ、フィリピン、トルコ、ケニア、ニュージーランド、ペルー、メキシコ、エジプト各1例、国不明3例であった。インドネシアでの感染は毎年報告があり、韓国での感染も2003年を除き、毎年報告されている。


■週別推移(季節性)(図2)
例年、最大のピークは夏季にみられる。2005年においても7月中旬から9月上旬にかけて報告数が多かった。
図2. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況

■都道府県(必ずしも感染した都道府県を示すものでない)(図3)
 ◆都道府県(図3)
都道府県別にみると、大阪府(272例)、東京都(238例)、北海道(188例)、愛知県(182例)、神奈川県(167例)が多く、12の都道府県で年間累積報告数100例を超えた。また、人口10万人当たりの罹患率でみると、宮崎県(9.01:報告数105例)が最も多く、次いで大分県(8.69:報告数105例)、島根県(8.60:報告数64例)が多かった。
図3. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告数と罹患率(2005年)

推定感染地域が国内の3,380例に限ってみると、大阪府(261例)、東京都(218例)、北海道(185例)、愛知県(170例)、兵庫県(156例)が多く、人口10万人当たりでの罹患率でみると、宮崎県(8.72)、大分県(8.61)、島根県(8.42)の順であった。

主な集団発生としては、北海道の介護保険施設(42例)、宮城県の保育施設関連(43例)、香川県の2カ所の老人福祉施設関連(43例)、大分県の知的障害児施設・知的障害者更正施設・知的障害者授産施設関連(59例)などでみられた。

■性・年齢群(図4)

性別では男性1,639例、女性1,933例で、年齢は0〜97歳(中央値18歳)であった。 推定感染地域が国内の3,380例に限ると、性別では男性1,551例、女性1,829例であった。年 齢は0〜97歳(中央値17歳)であり、年齢群別にみると、10歳未満1,366例(0〜4歳899例、5〜9 歳467例)、10代403例、20代471例、30代364例、40代179例、50代206例、60代171例、70代120 例、80代74例、90代26例であった。20歳未満では男性がやや多いが、20歳以上では女性が多 くなっており、年齢中央値は男性11歳、女性18歳で、2004年と同様の性差が認められた。
図4. 腸管出血性大腸菌感染症の年齢群別・性別症状の有無(2004年)

症状の有無でみると、男女ともに30代、40代では無症状病原体保有者が、それ以外では有症状者 が多かった。有症状者の占める割合は特に若年者と高齢者に高く、10歳未満と10代では約 80%を占め、60代では約60%、70歳以上では約75%を占めた。 推定感染地域が国外の27例に限ると、男性12例、女性15例であった。年齢は1〜68歳(中央 値25歳)であり、年齢群別にみると10歳未満5例(0〜4歳3例、5〜9歳2例)、10代5例、20代6例、 30代1例、40代4例、50代4例、60代2例であった。

■血清型・毒素型(表)
血清型では、O157 2,562例(約72%)、O26 619例(約17%)、O111 103例(約3%)の順で、これは従来と同様であった。毒素型も加えると、O157 VT1・VT2が1,497例と最も多く、次いでO157 VT2が851例、O26 VT1が564例(他の型との重複感染例3例を含む)であった。

■重症例・死亡例
 HUSは42例で報告され、有症状者の1.7%に発生していた。性別では男性13例、女性29例であった。年齢は1〜91歳(中央値5歳)で、年齢群別では10歳未満が26例(5歳未満は21例)(有症状者の2.3%)と最も多く、10代3例(同0.9%)、20代1例(同0.3%)、50代1例(同0.8%)、60代3例(同2.8%)、70代3例(同3.3%)、80代4例(同6.9%)、90代1例(同5.6%)であった。
表. 腸管出血性大腸菌感染症の報告症例における原因菌の血清型と毒素型 2005年


この様に小児だけでなく、高齢者においてもHUSがみられている。血清型・毒素型ではO157 VT1・VT2 17例、O157 VT2 18例、O157毒素型不明2例で、O157が全体の88%を占め、他はO111 VT2 1例、O111 VT1・VT2 1例、O121 VT2 2例、血清型不明VT1・VT2 1例であった。

死亡例の把握は、届け出時点で記載されていたか、または届け出後に追加で報告されたもの に限られるが、10例みられており、感染症法施行以降最も多かった。うち4例がHUS発症者であ った。年齢は4歳1例、70代2例、80代4例、90代3例と高齢者に多かった。血清型・毒素型は O157 VT1・VT2 9例、O157 VT2 1例であった。


■2004年のまとめ
感染症法施行以降の年間累積報告数を2000年以降の6年間で比較すると、2005年は4番目の報告数であった。相変わらず各地で保育施設での集団感染事例が発生した他に、高齢者や知的障害者に関連した福祉施設での集団発生もみられた。

また、65歳以上の占める割合(8.5%)が過去最高(1999年5.6%、2000年7.9%、2001年7.6%、2002年7.9%、2003年5.5%、2004年4.2%)であり、死亡者の報告も最多であった(1999年1例、2000年2例、2001年4例、2002年4例、2003年2例、2004年5例)。本疾患は依然として小児や高齢者において、HUSなどの重症例や死亡例がみられるので、今後も予防策の徹底に努める必要がある。

なお、死亡例やHUSの合併については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があるので、このような発生があった場合には報告の修正をお願いしている。

IDWR 2006年第19号「速報」より掲載)



Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.