国立感染症研究所 感染症情報センター
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デング熱

デング熱 2007年(〜41週)(2007年10月17日現在)


 デング熱は、デングウイルスが感染しているネッタイシマカやヒトスジシマカに刺されることによって感染する感染症である。ヒトからヒトに直接感染することはなく、ヒト→蚊→ヒトで感染が成立する。デングウイルスは熱帯・亜熱帯のほとんどの国に存在し、特に、東南アジア、インド亜大陸・南アジア、中南米では流行を繰り返している他、最近では台湾などでも流行が認められている。現在、日本国内にヒトスジシマカは生息しているが、デングウイルスは常在しないので、国内での感染はない。しかし、流行地から感染者や航空機内の感染蚊などによってウイルスが持ち込まれ、日本においても流行を起こす可能性がある。

 デング熱は、一過性の熱性疾患である「デング熱」(狭義)と、重症型の「デング出血熱」に分けられる。また、不顕性感染も多いと推測されている。「デング熱」は、感染後3〜8日の潜伏期を経て、発熱で発症し、頭痛、眼窩痛、筋肉痛、関節痛を伴う。発症後3〜4日後から胸部、体幹に発疹が出現し、四肢、顔面へ広がる。これらの症状は通常1週間程度で消失する。一方、「デング出血熱」は、「デング熱」とほぼ同様に発症するが、発症後2〜7日の解熱し始めた頃に、血漿漏出と出血症状が出現する。患者は不安・興奮状態となり、発汗し、四肢は冷たくなる。胸水や腹水が貯留し、皮膚の点状出血、さらに10〜20%で鼻出血や消化管出血などの出血症状がみられる。血漿漏出の進行によって、循環血液量が減少してショック状態となることがあり、デング出血熱の中でもデングショック症候群と呼ばれる。

 デング熱(デング出血熱を含む)の発生動向については、感染症法の施行(1999年4月)により、四類感染症に規定され、診断したすべての医師に届け出が義務づけられている。

 感染症法のもとで2006年までに報告されたデング熱は1999年(4〜12月)9例、2000年18例、2001年50例、2002年52例、2003年32例、2004年49例、2005年74例、2006年58例であった。年毎の報告数の変動は、渡航地域における流行状況が反映される以外に、増加については、全数届出疾患であることへの認識の向上や、検疫所における検査体制の整備などの影響が考えられる。2003年の一時的な減少については、重症急性呼吸器症候群(SARS)発生による流行地域への渡航の減少が考えられる。

 2007年の報告数は、第41週(2007年10月14日診断分)までに75例となり、感染症法施行以降の年間報告数としては、最多となった(図1)。75例のうち、狭義のデング熱は71例であり、デング出血熱は4例であった。
図1. デング熱の累積報告数の年別推移(1999年4月〜2007年第41週)

 性別では男性44例、女性31例であり、年齢の中央値は27歳(4〜78歳)〔男性:27歳(4〜67歳)、女性:27歳(15〜78歳)〕であった。報告例の発病月は、夏季休暇による渡航者増加の影響を受けて例年7〜9月に発病者が増加する傾向が認められるが、2007年においても9月(17例)、8月(13例)、7月(10例)の順に多い(図2)。75例の感染地域は、アジアが67例(89%)、中南米7例、オセアニア1例であった。アジアの中では例年インドネシア、フィリピン、インド、タイなどが多いが、2007年においても同様であり、インドネシア25例、フィリピン9例、カンボジア8例、インド7例、タイ7例(複数国名記載分を含む)が多かった(表)

特にインドネシアでは、春季の流行が伝えられており、2007年3〜4月は、感染地をインドネシアとする報告が多かった。またインドネシアの22例のうち14例には、詳細地域としてバリ島の記載があった。中南米を感染地域とする7例のうち、9月を発症月とする3例はいずれもジャマイカが感染国とされており、現地でのハリケーン後の大流行が報じられている。

図2. デング熱の発症月別・感染地域別発生状況(2007年第1〜41週) 表. デング熱の感染国(2007年第1〜41週)

 2007年のデング熱の報告数は、1999年4月の感染症法施行以降最多の年間報告数となっており、今後も流行地域への渡航には注意が必要である。デング熱の治療としては、抗デングウイルス薬は存在せず、疾患特異的な治療方法はない。したがって「デング熱」、「デング出血熱」ともに、対症療法が中心となる。また、ワクチンも存在しない。そのため、熱帯・亜熱帯地域への渡航に際しては、現地でのデング熱の流行状況を十分に把握し、ネッタイシマカやヒトスジシマカは日中に活発に吸血するので、流行地では長袖・長ズボンの着用、昆虫忌避剤の使用などによって、特に日中に蚊に刺されないよう予防対策を行う必要がある。また、帰国時に発熱などデング熱が疑われる症状がある場合には検疫所に相談すること、帰国後に症状があり医療機関を受診する際には渡航歴を伝えることが、適切な診断・治療のために重要である。医療機関等におけるデング熱の検査については、必要に応じて一部の地方衛生研究所または国立感染症研究所に依頼することができる。

 デング熱の動向については、病原微生物検出情報(IASR)特集「デング熱・デング出血熱輸入例 2007年7月現在」(http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/330/tpc330-j.html)も併せてご参照ください。



IDWR 2007年第41号「速報」より掲載)


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