国立感染症研究所 感染症情報センター
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デング熱

デング熱 1999年4月〜2006年第12週(2006年3月31日現在)


 デング熱は、デングウイルスを保有するネッタイシマカやヒトスジシマカに刺されることによって感染する疾患であるが、これらの媒介蚊は日中に刺咬する。ヒトからヒトに直接感染することはない。熱帯・亜熱帯のほとんどの国にみられ、特に、東南アジア、インド亜大陸/南アジア、オセアニア、カリブ海諸国、中南米では大きな流行を繰り返している。また、アフリカでも発生がみられ、比較的最近ではハワイでもみられた。現在、日本国内にはデングウイルスは常在しないので、国内での感染はないが、ヒトスジシマカは国内にも生息している。したがって、流行地で感染した者や航空機内の感染蚊などによってウイルスが持ち込まれ、日本においても流行を起こす可能性は否定できない。

 デング熱は一過性の熱性疾患であるデング熱(狭義)と、重症型のデング出血熱に分けられる。また、不顕性感染も多いと推測されている。感染後3〜8日の潜伏期を経て発熱で発症し、頭痛、眼窩痛、筋肉痛、関節痛を伴う。発症3〜4日後から胸部、体幹に発疹が出現し、四肢、顔面へ広がる。これらの症状は通常、1週間程度で消失する。一方、デング出血熱では、デング熱(狭義)とほぼ同様に発症するが、発症2〜7日後の解熱し始めた頃に、血漿漏出による症状と出血症状が出現する。

 患者は不安・興奮状態となり、発汗し、四肢は冷たくなる。胸水や腹水が貯留し、皮膚の点状出血、さらに鼻出血や消化管出血などの出血症状がみられる。
図1. デング熱の年別発生状況(1999年4月〜2006年第12週) 図2. デング熱の報告症例の性別・年齢群別分布(1999年4月〜2006年第12週)

 血漿漏出の進行により、循環血液量が減少してショック状態となることがあり、デング出血熱の中でもデングショック症候群に分類されている。

 デングウイルスには1〜4型の4つの血清型があり、1つの型に感染した場合、その型に対しては終生、防御免疫が得られるが、他の型には感染しうる。デング出血熱の発症機序は解明されたとは言えないが、過去の感染とは異なる型のデングウイルスに再感染した時に発症する機序が考えられている。

 デング熱(狭義)およびデング出血熱の発生動向については、1999年4月の感染症法の施行により、デング熱として一括して四類感染症に規定され、診断したすべての医師に届け出が義務づけられている。

 感染症法の元で報告されたデング熱(デング出血熱を含む)は、合計291例であり、年別では1999年(4月〜)9例、2000年18例、2001年50例、2002年52例、2003年32例、2004年49例、2005年73例、2006年8例(第12週:3月26日診断分まで)であった(図1)。年別の変動については、現地における流行状況が反映されている可能性(IDWR 2004年第50週号 p19-23)以外に、増加については全数把握疾患であることの認識の向上、検疫所における検査体制の整 備などが考えられ、減少については、重症急性呼吸器症候群(SARS)などによる流行地への渡航の減少が考えられる。なお291例のうち、デング出血熱の報告は12例みられた。死亡例の報告は1例あり、最近数年間の主な居住地がスリランカとされている日本人男性で、デング出血熱/デングショック症候群に真菌感染症を合併して死亡した(IASR Vol. 27, No. 1, p14-15)。

 291例について、性別では男性184例、女性107例であった。年齢は1〜73歳(中央値31歳)で、男性では4〜73歳(中央値33歳)、女性では1〜62歳(中央値28歳)であり、年齢群別では0〜9歳9例(3%)、10〜19歳13例(4%)、20〜29歳112例(39%)、30〜39歳78例(27%)、40〜49歳51例(18%)、50〜59歳17例(6%)、60〜69歳10例(3%)、70〜79歳1例(0%)であった(図2)。デング出血熱12例についてみると、性別では男性10例、女性2例、年齢は20〜69歳(中央値37歳)であった。

 発症月の記載があった286例について発症月をみると、8月をピークに7〜9月が多く、全体の44%を占めたが(図3)、これには夏季休暇の影響が考えられた。

図3. デング熱の報告症例の発症月別分布(1999年4月〜2006年第12週) 表1. デング熱の報告症例の推定感染地域

 291例について推定感染地域別にみると、アジア255例、オセアニア20例、南米7例、アフリカ5例、カリブ海諸国1例、中米1例、中東1例、不明1例で、アジアが全体の87%を占めた(表1)

 国別では、インドネシア(64例)、タイ(53例)、フィリピン(37例)、インド(27例)、マレーシア(10例)、ミクロネシア(10例)が多かった。ミクロネシアでの10例のうち、9例は2004年に集中して認められ、うち6例は同一団体旅行者での発生であった。デング出血熱12例に限って推定感染国をみると、ミャンマー(2例)、タイ、シンガポール、インドネシア、モルディブ、タイ/カンボジア、スリランカ、仏領ポリネシア、フィジー、パラグアイ、ブラジル(各1例)であった。このうち3例では、最近数年間の居住地がデング熱の発生地域(ミャンマー、タイ、スリランカ各1例)であり、再感染の可能性も示唆された。残り9例の居住地は日本国内であったが、再感染の可能性については不明である。

 検査診断としては、病原体検出が116例で、内訳は、分離および遺伝子の検出が4例、分離のみが2例、遺伝子の検出のみが105例、詳細不明が5例であった(表2)
表2. デング熱の報告症例における診断方法 表3. デング熱の報告症例におけるデングウイルスの血清型

 また、血清抗体の検出は202例で、内訳はEIA法が69例、イムノクロマト法が12例、HI法が1例であった。さらに抗原検出が1例に行われており、詳細不明が9例みられた。

 血清型別は74例に記載されていた。血清型記載数/報告数を年別にみると、1999年1/9例(11.1%)、2000年1/18例(5.5%)、2001年10/50例(20.0%)、2002年5/52例(9.6%)、2003年5/32例(15.6%)、2004年13/49例(26.5%)、2005年37/73例(50.6%)、2006年2/8例(25.0%)であり、近年、増加傾向がみられた。血清型の内訳では1型29例、2型13例、3型22例、4型10例であり、推定感染地域別にみると、東南アジアでは1型(24例)、3型(12例)、2型(9例)、4型(8例)、インド亜大陸/南アジアでは3型(9例)、2型(3例)、4型(2例)、1型(1例)、オセアニアでは1型(3例)、アフリカでは2型および3型(各1例)であった(表3)。前述のようなデング出血熱の発生機序を考えると、デングウイルス血清型の把握は重要である。

 治療としては、抗デングウイルス薬はないので対症療法となる。予防については、ワクチンは開発中であり、現在使用可能ではない。熱帯・亜熱帯地域への渡航に際しては、現地でのデング熱の流行状況を正確に把握し、長袖服・長ズボンの着用、昆虫忌避剤の使用などによって、特に日中に蚊に刺されないよう注意することが重要である。

IDWR 2006年第14号「速報」より掲載)


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