国立感染症研究所 感染症情報センター
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コレラ

コレラ 2005年(2006年3月31日現在)

コレラは1〜5日(通常1日以内)の潜伏期の後に、下痢や嘔吐で急激に発症する腸管感染症である。殆どの場合、腹痛や発熱はみられない。典型的症状は激しい水様性下痢(重症例では米のとぎ汁様)と脱水であるが、近年の報告症例では軽症であることが多い。しかし、胃腸の弱い人(胃切除者など胃酸の働きが低下している人)や高齢者、乳幼児では重症化して死亡することもあり、軽視できない疾患である。

コレラは1999年4月施行の感染症法に基づく2類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務づけられている。WHOの報告基準では、コレラ毒素産生性のO1血清型コレラ菌およびO139血清型コレラ菌によるものと定義されており、わが国でも同じ定義を用いている。

図1. 性別・年齢群別・推定感染地域別にみたコレラの報告(2005年) 図2. 発症月別・推定感染地域別にみたコレラの報告(2005年) 図3. 推定感染国別にみたコレラ菌の型分布(2005年)

過去の年間累積報告数は1999年(4月〜)39例、2000年58例、2001年50例、2002年51例、2003年25例で、2004年は87例と増加したが、2005年は57例であり、平均的には年間50例程度の報告である。

2005年の57例の報告では、疑似症が10例あり、無症状病原体保有者は2例であった。疑似症を除く47例では、性別は男性40例、女性7例で、年齢は21〜87歳(中央値54歳)であり、推定感染地域別では国内が11例、国外が35例、不明が1例であった。なお、死亡と記載された症例はなかった。

国内を推定感染地域とする11例(男性7例、女性4例)について年齢群別にみると、40代1例、50代1例、60代5例、70代2例、80代2例(中央値65歳)であった(図1)。報告の限りでは、疫学的関連性があると記載された症例はなく、すべて散発例と思われた。発症月別にみると、従来国内での感染は7〜9月に多発する傾向が認められていたが、2005年においては1月の発症者が最も多く、7〜9月は1例のみであった(図2)。コレラ菌の型ではすべてO1小川型であった(図3)

国外を推定感染地域とする35例(男性32例、女性3例)について年齢群別にみると、20代4例、30代8例、40代8例、50代7例、60代7例、70代1例(中央値43歳)であった(図1)

推定感染国別では2004年に引き続き、フィリピン17例が最も多く、ついでインドネシア9例、インド4例、台湾2例、パキスタン2例、ミャンマー1例であり、すべてアジア地域であった(図4)。無症状の2例(インドネシア、台湾)を除き、推定感染国別・発症月別にみると、フィリピンでは9〜12月の発症者が多く、インドネシアでは5月の発症者が多かった(図2)
図4. コレラの推定感染国の割合(2005年)

インドネシアでは無症状病原体保有者も含め9例とも、バリ島での感染が推定されていた(感染症週報IDWR 2005年第23週号参照)。35例のコレラ菌の型を推定感染国別にみると、フィリピン、インドネシアではすべてO1小川型であり、インド、台湾では O1小川型とO1稲葉型が同数ずつ、パキスタン、ミャンマーではすべてO1稲葉型であった(図3)。O139はみられなかった。

コレラ流行地域へ渡航する場合には、生水、氷、生の魚介類、生野菜、カットフルーツなどを 避けることが肝要であり、また、無理な旅行日程などによって体調をくずし、抵抗力を落とさないよう心がけることも大切である。

なお、その他の予防策として、わが国には従来からの不活化注射ワクチンがあるが、効果が低いことや副反応が多いことなどから、余り勧められていない。海外ではより効果が高く、副反応の少ない経口ワクチン(不活化および生ワクチン)2種類が発売されており、コレラの高度流行地域へ出かける援助関係者などに、必要に応じて接種されることがある。


(感染症週報 IDWR 2006年13週号に掲載)


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