国立感染症研究所 感染症情報センター
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コレラ

コレラ 2006年(2007年3月29日現在)

コレラは1〜5日(通常1日以内)の潜伏期の後に、下痢や嘔吐で急激に発症する腸管感染症である。殆どの場合、腹痛や発熱はみられない。典型的症状は激しい水様性下痢(重症例では米のとぎ汁様)と脱水であるが、近年の報告症例では軽症であることが多い。しかし、胃腸の弱い人(胃切除者など胃酸の働きが低下している人)や高齢者、乳幼児では重症化して死亡することもあり、軽視できない疾患である。
図1. 性別・年齢群別・推定感染地域別にみたコレラの報告(2006年) 図2. 発症月別・推定感染地域別にみたコレラの報告(2006年) 図3. 推定感染国別にみたコレラ菌の型分布(2006年)

コレラは1999年4月施行の感染症法に基づく二類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務づけられている。WHOの報告基準では、コレラ毒素産生性のO1血清型コレラ菌およびO139血清型コレラ菌によるものと定義されており、わが国でも同じ定義を用いている。

過去の年間累積報告数は1999年(4月〜)39例、2000年58例、2001年50例、2002年51例、2003年25例、2004年86例、2005年55例で、2006年は45例であった。平均的には年間50例程度の報告である。

2006年の45例の報告では、疑似症が11例あり、無症状病原体保有者は1例あった。疑似症を除く34例では、性別は男性25例、女性9例で、年齢中央値は56歳(7〜86歳)であり、推定感染地域別では国内が6例、国外が28例であった。死亡と記載された症例はなかった。

国内を推定感染地域とする6例(男性3例、女性3例)について年齢群別にみると、50代1例、60代1例、70代3例、80代1例で、年齢中央値は71.5歳であった(図1)。報告の限りにおいては、疫学的関連性があると記載された症例はなく、すべて散発例と思われた(IASR 27: 273-274, 2006参照 http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/320/kj3201.html)。発症月別にみると、1月が2例、6月が1例、9月が3例であった(図2)。国内での感染は従来7〜9月に集中する傾向が認められていたが、2005年においては1月が最も多く、7〜9月は1例のみであり、季節性は明らかではなくなってきている。コレラ菌の型ではO1小川型5例の他、国内では初めてと考えられるO139型の報告があった(IASR 28: 86-88, 2007参照 http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/325/kj3251.html)(図3)

国外を推定感染地域とする28例(男性22例、女性6例)について年齢群別にみると、10歳未満1例、20代6例、30代2例、40代2例、50代8例、60代4例、70代5例で、年齢中央値は54歳であった(図1)

推定感染国別では、インド12例が最も多く、ついでフィリピン10例(無症状の1例を含む)、インドネシア3例、パキスタン1例、中国またはフィリピン1例、タイまたはカンボジア、ラオス、韓国が1例であり、すべてアジア地域であった(図4)
図4. コレラの推定感染国の割合(2006年)

無症状の1例を除き、推定感染国別・発症月別にみると、インドでは6月の6例が最も多いが、このうち5例は同一ツアーによる集団感染によるものであった(IASR 27: 233, 2006参照 http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/319/pr319g.html)。次いで5月に3例、2月、4月、10月に各1例の発症がみられた。フィリピンでは1〜3月及び8〜10月に、インドネシアでは7及び8月に発症者がみられた(図2)。28例のコレラ菌の型を推定感染国別にみると、インド(12例)では、O1稲葉型7例、O1小川型2例、O1小川型及び稲葉型が3例あった。同じ南アジアのパキスタンの1例はO1稲葉型であった。一方、フィリピン、インドネシア、中国/フィリピン、タイ/カンボジア/ラオス/台湾などの東南アジアあるいは東アジアでは、すべてO1小川型であった(図3)。O139はみられなかった。

コレラが蔓延している地域へ渡航する際には、生水、氷、生の魚介類、生野菜、カットフルーツなどの摂取を避けることが肝要であり、また、無理な旅行日程などによって体調をくずし、抵抗力を落とさないよう心がけることも大切である。

なお、その他の予防策として、わが国には従来からの注射ワクチン(不活性化)があるが、効果が低いことや副反応が多いことなどから、余り勧められていない。海外ではより効果が高く、副反応の少ない経口ワクチン(不活化および生ワクチン)2種類が発売されており、コレラの高度蔓延地域へ出かける援助関係者などに、必要に応じて接種されることがある。


感染症週報 IDWR 2007年12週号に掲載)


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