国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
インフルエンザQ&A



1.
チクングニア熱とはどのような病気ですか?
2.
チクングニアウイルスはどのようにして感染しますか?
3.
日本にも、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)がいますか?
4.
チクングニアウイルスはどのようなウイルスですか?
5.
チクングニアウイルスはどこにいますか?
6.
チクングニアウイルスはどのような症状の病気を起こすのですか?
7.
チクングニア熱はどうやって診断しますか?
8.
チクングニア熱の治療法はありますか?
9.
チクングニアウイルスへの感染の予防はできますか?
10.
参考文献・参考となるwebサイト



1. チクングニア熱とはどのような病気ですか?

 チクングニア熱は、トガウイルス科アルファウイルス属のチクングニアウイルス(CHIKV)が人に感染する病気です。熱と筋肉痛や関節痛を主な症状とする急性の発疹性熱性疾患です。
 CHIKVは、1953年にタンザニアで発熱患者から初めて分離されて、今日までに西アフリカ、中央アフリカ、南アフリカとアジアの多くの地域で繰り返して検出され、これらの地域で繰り返される流行の原因であるとされています。


2. チクングニアウイルスはどのようにして感染しますか?

 CHIKVに感染したヤブカ属のネッタイシマカ(Aedes aegypti)やヒトスジシマカ(Aedes albopictus)などに刺されることで、ウイルスが人へ感染します。また、蚊は、感染した人から吸血したときに感染します。この他に、サルや、他の野生の動物が病原体保有動物(reservoirs)としてウイルスを保持していると考えられます。このようにして感染した蚊が、他のヒトを刺したときに感染が広がります。

 感染を媒介する主な蚊のうちネッタイシマカ(Aedes aegypti)は、黄熱の病原体を運ぶ蚊ですが、家庭にある容器の中で繁殖して、日中に吸血活動をし、ヒト嗜好性(ヒトを好んで刺す)があります。この蚊が、CHIKVの第一媒介種(primary vector)になります。

 ヒトスジシマカはアジアでのヒトへの感染に関与し、アフリカでは森林に生息する多種の蚊がCHIKVに感染していることがわかっています。2007年7月からイタリアでも、ヒトスジシマカによる国内流行が発生しています。(イタリア保健省8月30日発表参照)

3. 日本にも、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)がいますか?

 ネッタイシマカは日本には生息しませんが、ヒトスジシマカは沖縄地方から東北地方まで生息が確認されており、その北限は秋田県や岩手県にまでおよんでいます。

4. チクングニアウイルスはどのようなウイルスですか?

 トガウイルス科アルファウイルス属のRNAウイルスで、直径70nmのエンベロープを有する球状粒子です。(感染症の話 チクングニア熱, ウイルス一部 チクングニアウイルス感染症 参照)

5. チクングニアウイルスはどこにいますか?

 地理的にはアフリカとアジア(インド、東南アジア)で見られます。(感染症の話 チクングニア熱 図1 参照)

 アフリカでは1952年に初めて流行が報告され、その後、タンザニア、ウガンダ、ジンバブエ、南アフリカ、セネガル、ナイジェリア、中央アフリカ共和国、コンゴ、キンシャサでの流行が報告されています。アジアでは1958年にタイで流行が報告され、カンボジア、ベトナム、ラオス、ミャンマー、マレーシア、フィリピン、インドネシアで流行が報告されています。

 最近では2005年にコモロ諸島で流行がおこり、その後インド洋のモーリシャスを初めとした島国への流行の拡大が報告されました。特にレユニオン島での流行では、2005年の3月から2006年の2月までの期間に、15万人以上の患者が発生し、死者237人が報告されていますが、この大流行の主要な媒介蚊はヒトスジシマカでした。2006年にはインドやスリランカで流行が報告されています。

 近年このように、チクングニア熱の大きな流行が見られ、ネッタイシマ蚊が世界中に広く分布していることから、感染した旅行者により新たな地域へ、CHIKVが持ち込まれる可能性があります。特に、アフリカのほとんどに広がっており、主に蚊とサルの間で感染が繰り返され、CHIKVが循環しているものと考えられています。2006年には、香港、アメリカ、フランス、スイスなどで輸入症例が報告されています。(ウイルス一部 チクングニアウイルス感染症 参照)

 日本国内での感染、流行はありませんが、2006年12月に海外で感染した輸入症例2例が報告されました。

 現在の集団発生、流行については、米国疾病予防対策センター(CDC)の渡航医学のウェブサイト(www.cdc.gov/travel/default.aspx)を参照してください。

6. チクングニアウイルスはどのような症状の病気を起こすのですか?

 CHIKVの感染は、消耗性疾患(debilitating illness)ですが、非致死性で、最も頻繁に見られる症状は発熱、関節痛、発疹、頭痛、全身倦怠、嘔気、嘔吐、筋肉痛、リンパ節腫脹です。
チクングニアの名前は、スワヒリ語の「折り曲げる(that which bends up)」に由来しています。

 潜伏期(感染から発病まで)は2-12日と言われていますが、通常3-7日です。不顕性感染(感染しても発症しない)は起こりますが、その頻度は不明です。

 患者の多くはチクングニア熱と呼ばれる急性の発熱と関節痛で発症します。関節痛は四肢(遠位)に強く対称性で、手首、足首、指趾、膝、肘、肩の順に多く、関節の炎症や腫脹を伴う場合もあります。また、発症した人の8割程度に発疹がみられます。

 典型的な急性のチクングニア熱は数日から2週間程度症状が続きます。しかし、デング熱、ウエストナイル熱、オニョンニョン熱やその他のアルボウイルス感染による熱と同様に、中には数週間に渡る倦怠感が残る人もいます。さらに、日常生活に支障をきたすような関節痛や関節炎が、数週間から数ヶ月残る方もいます。このような関節の痛みはデング熱には見られないものです。多くの地域でデング熱とともに広がっていることから、時にチクングニア熱はデング熱と誤って、臨床的に診断されている可能性もあります。したがって、チクングニア熱の発生頻度は、これまでに報告されているよりも、ずっと高いと考えられます。

 CHIKVの感染には、確実な死亡例や、侵襲性の神経症状、出血熱の患者の報告は学術論文に見あたりません。しかし、出血傾向(鼻出血や歯肉出血)や結膜炎はみられることもあり、重症例では神経症状(脳症)や劇症肝炎が報告されています。

 また、CHIKVの感染は、症状があっても無症状でも、終生免疫が獲得されると考えられています。

7. チクングニア熱はどうやって診断しますか?

 CHIKVを検出する病原体診断の方法としては、RT-PCR法を用いて血清中のウイルス遺伝子を検出する方法や、蚊由来C6/36細胞やアフリカミドリザル由来のVero細胞により血清からウイルス分離を行う方法があります。神経症状がみられている場合は、髄液からもウイルス分離や遺伝子検出を行います。

 感染したことにより作られた抗体を検出する血清診断では、IgM捕捉ELISAによるIgM抗体の検出を行います。急性期と比べて、回復期に特異中和抗体価が上昇していることでも診断が可能です。Vero細胞を用いたプラーク減少法による中和抗体測定は比較的迅速に測定できます。(ウイルス一部 チクングニアウイルス感染症 参照

8. チクングニア熱の治療法はありますか?

 チクングニア熱には、ワクチンも、それ特有の抗ウイルス薬による治療法も有りません。治療は症状を和らげる形で行われます。症状により、安静、輸液、イブプロフェン、ナプロフェン、アセトアミノフェン、パラセタモールなどの解熱鎮痛剤を用いて、熱と痛みの症状を緩和します。ただし、出血傾向を呈する場合もあるので(症状の項 参照)、デング熱に準じて鎮痛解熱剤として出血傾向やアシドーシスを助長するサルチル酸系のものは避け、アセトアミノフェンを用いることが望ましい。

 感染した人は、感染の連鎖を断ちきり、感染した蚊による流行が広がらないようにするために、少なくとも症状がある最初の数日は家の中にいて、蚊帳の中にいるなどして、それ以上蚊に刺される事がないようにすることが望まれます。

9. チクングニアウイルスへの感染の予防はできますか?

 CHIKVの感染を予防するには、蚊に刺されないことが肝心です。ワクチンも、予防薬もありません。具体的な予防方法は、デング熱やウエストナイル熱と同様で、日中に蚊に刺されない工夫が重要です。下に幾つかの具体例を示します。

・DEETを含む防虫剤を用いるか、他の米国環境保護局(EPA)が認可した薬剤(活性成分)を、外気に曝されている部分の皮膚に塗る。日本では入手できないものもありますが、各種の昆虫忌避剤が市販されています。いずれも、添付文書や包装にある使用方法を必ず守ってください。

・長袖を着て、長ズボンをはく(衣類も、理想としてはパーメスリンか他の防虫剤で処理をする)

・窓や戸には、蚊の侵入を防ぐためのスクリーンを貼る

・花の植木鉢や、バケツ、樽など、水がたまっているものは空にして、蚊の繁殖場所をなくす。ペットの水飲み容器の水は入れ替え、鳥の水浴び用の水も毎週取り替える。タイヤのブランコなどには穴をあけて、水が出て行く様にし、子供用プールは利用しないときは空にして、横にして立てかける

・さらに、感染拡大を防止するために、チクングニア熱あるいはデング熱に罹っている人は、それ以上蚊に刺されないようにする。屋内に留まるか、蚊帳の中にいること

10. 参考文献・参考となるwebサイト

[参考文献]             

1) Isabelle Schuffenecker et al. Genome microevolution of Chikungunya viruses causing the Indian Ocean outbreak. PLoS Medicine: 7(3)1058-1070, 2006

2) Philippe Parola et al. Novel Chikungunya virus variant in travelers returning from Indian Ocean islands. Emerging Infectious Diseases 12(10)1493-1499, 2006

3) 小林睦生 他.わが国のデング熱媒介蚊であるヒトスジシマカの分布域拡大について.
病原微生物検出情報 25(2)35-36, 2004.


[参考となるウェブサイト]

◎インドの情報

http://www.globalpulse.net/archives/diseases/indian_politici_000434.php

http://cities.expressindia.com/fullstory.php?newsid=233399

http://namp.gov.in/Chikun-Status.html

◎レユニオン島の情報

http://lionel.suz.free.fr/index.php?id=run&sub=chikungunya

◎マダガスカルの情報

http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/4777530.stm

◎旅行者のチクング二ア感染症

http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5538a2.htm

◎CDCによる旅行者への警鐘

http://wwwn.cdc.gov/travel/contentChikungunyaIndia.aspx

◎CDC チクングニア熱(ファクトシート)

http://www.cdc.gov/ncidod/dvbid/chikungunya/

◎WHO 西インド諸島の患者発生状況

http://www.who.int/csr/don/2006_03_17/en/index.html

◎SEARO チクングニア熱

http://www.searo.who.int/en/Section10/Section2246.htm

◎チクングニアのWeb リソース

http://www.chikungunya.ca/

                       


Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.