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高病原性鳥インフルエンザ
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国内情報
   鳥インフルエンザ感染が疑われる患者に対する医療機関での対応 IDSCロゴ

   2007年1月4日 感染症情報センター





鳥インフルエンザウイルス感染患者が発生する可能性

 2003年末以来、東南アジアを中心とした地域で鳥の間に鳥インフルエンザが流行している。中でもH5N1亜型ウイルスによる高病原性鳥インフルエンザ(Highly Pathogenic Avian Influenza、以下HPAI)が深刻な被害をもたらしつつある。地域的には東南アジアからユーラシア大陸、アフリカ大陸へと広がりつつあり、制圧が困難な状況になっている。鳥からヒトへの感染伝播も発生しており、ベトナム・タイ・インドネシアなど数カ国において、H5N1鳥インフルエンザウイルスによるヒトの感染者および死亡者が報告されている。2007年1月4日現在、WHOに対して公式に報告された感染者数は261名、死亡者数は157名である。

 これらの感染者のほとんどは病鳥または死鳥との直接的かつ密接な接触により感染したと考えられている。また、鳥からヒトへの感染は効率的でなく、このような接触のあった人の多くが感染しているとは言えない。ヒトからヒトへの感染に関しては、家族内での小集団発生事例において、濃厚かつ密接な接触(感染者を看病するなど)に起因すると推定されるヒトーヒト感染が何例か疑われている。仮にヒトーヒト感染事例が存在するとして、その感染経路が接触感染・飛沫感染・空気感染のいずれを主体とするのかは、現段階では不明である。

 日本では、2004年初頭に養鶏場において鳥の間でH5N1ウイルスによるHPAIが流行したが、すでに制圧されている。また、異なる亜型であるH5N2ウイルス感染の鳥における流行が2005年6月より見られたが、流行は制御されており、しかも過去にH5N2亜型ウイルスによるヒトの感染発症事例は世界的にも存在しない。国内のこれら2事例における血清疫学調査では、病鳥や死鳥の処分にあたった人の中から少数の中和抗体陽転者がいたが、発症者はいなかった。


鳥インフルエンザウイルス感染を疑うべき患者

 以上のことから、現在の日本において鳥インフルエンザウイルス感染を疑う患者は、以下の条件をすべて満たす者であると言える。

(1)H5N1鳥インフルエンザが流行している地域へ渡航または在住し、帰国後10日以内
(2)その地域で鳥(体液や排泄物も含む)またはH5N1鳥インフルエンザ感染の患者と接触した
(3)咳・痰・呼吸困難などの呼吸器症状、および発熱を有する

 ただし、(1)・(3)を満たすが(2)を満たさない患者であっても、基礎疾患を有せずかつ急激に症状が悪化する症例については、鳥インフルエンザウイルス感染を疑う必要がある。



鳥インフルエンザウイルス感染の可能性がある患者の管理・治療・医療従事者の感染対策

 前項で述べた条件にあてはまる患者が来院した場合の患者管理・治療・感染対策指針を以下に示す。

  1. 患者に直接接する医療従事者は空気予防策・飛沫予防策・接触予防策のすべてを講じる。より具体的には、

    (A)患者に速やかにサージカルマスクを着用するよう促す

    (B)患者を別室へ誘導し、他の患者との接触をできるだけ少なくする

    (C)スタッフは、念のためN95マスク・ゴーグル(またはフェイスシールド)・ガウン・手袋を着用する

    (D)通常のヒトインフルエンザワクチンを接種していないスタッフは原則として患者に接してはならない(ヒトインフルエンザワクチンで鳥インフルエンザウイルス感染は防御できないが、両ウイルスの混合感染による遺伝子再集合を予防する意味で)

  2. 臨床検体検査のための咽頭ぬぐい液を採取する。採取した検体は保健所を通じて地方衛生研究所などへ送付する。現在、全国の地方衛生研究所ではポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により、H5亜型のウイルスの有無に関する判定が可能である。地方衛生研究所で対応できない場合、およびN亜型の検査については国立感染症研究所で対応している。

     検体として咽頭ぬぐい液の採取が困難な場合、鼻腔洗浄液や鼻腔ぬぐい液で代用することを考慮する。しかしこれらの検体を用いると、H5N1ヒト感染症例からのウイルス検出に関する感度が低くなると考えられている。また、患者血清を使用することも一つの選択肢であるが、発症後早期には血清中にウイルスが検出されないと考えられるので注意が必要である。

     毎年冬に流行する通常期のインフルエンザの際と同様に、検体を用いてインフルエンザ迅速診断キットによるA、B型の診断を行なっても構わない。しかし、これまでの知見によると、H5N1ヒト感染症例における迅速診断キットによるA型陽性率は低く、H5N1感染の診断には基本的に役立たない。迅速診断キット陽性の場合は通常のインフルエンザに感染している可能性が高いと考えた方がよい。また、迅速診断キットでの診断のために、抽出液による処理を行った検体、抽出液等は、ウイルスの分離には不適当であるので、鳥インフルエンザウイルス検査用の検体は迅速診断キット用検体とは別に採取する必要がある。

  3. 上記検査の結果が判明するまでの間、患者の症状および鳥インフルエンザ感染が疑われる程度にもよるが、入院治療とするのが望ましい。その際、個室管理が原則である。陰圧室が望ましいが、利用不可能な場合は感染症指定医療機関への転送を考えるか、風通しのよい個室で管理する。

  4. 患者には可能な限り早期にリン酸オセルタミビル(タミフル)などの抗インフルエンザウイルス薬を投与する。これまでの知見によると、H5N1感染症例の予後は一般に悪く、また抗インフルエンザウイルス薬は発症後48時間以内に投与しなければ効果的でないと考えられているため、検査結果判明まで待つことは賢明ではない。

  5. 鳥インフルエンザ感染の除外診断に関する評価は頻回に行ない、感染が除外され次第、相応の管理へ移行する。逆に鳥インフルエンザ感染が確認された場合は、H5N1亜型の場合は指定感染症の患者として直ちに感染症指定医療機関(特定・1類・2類感染症医療機関)へ転送し、それ以外の亜型であっても上記医療機関への転送が望ましい。転送にあたっては管轄の保健所と相談する。

  6. 鳥インフルエンザ感染患者や感染が疑われる患者の診察やケアにあたったスタッフに対する健康状況の監視を行なう。特に患者がH5N1感染と診断された場合、それ以前に不十分な感染対策で患者に接した医療従事者に対しては、曝露後予防としてのタミフル投与が推奨される。


保健所への届出など

1,感染確定例

  • A) H5N1亜型ウイルスによる鳥インフルエンザの場合

    鳥インフルエンザ感染症のうち、H5N1亜型ウイルスによるものは「インフルエンザ(H5N1)」という疾患名で指定感染症に政令指定されており、運用上は二類感染症に準じた取扱いになっている。診断が確定した場合は、「高病原性鳥インフルエンザ発生届 および インフルエンザ(H5N1)発生届」により直ちに最寄りの保健所へ届け出る。

  • B) その他の亜型ウイルスによるHPAIの場合

    H5N1以外の亜型ウイルスによるHPAI感染は「高病原性鳥インフルエンザ」として四類感染症に規定されている全数報告疾患である。診断が確定した場合は、「高病原性鳥インフルエンザ発生届」により直ちに最寄りの保健所へ届け出る。

2,感染が疑われる例(段階)

  • A)  H5N1亜型ウイルスによる鳥インフルエンザの場合

    (ア)疑似症患者の症例定義(下記)に合致する場合には、感染症法第8条第1項の疑似症患者への適応に基づき、「高病原性鳥インフルエンザ発生届 および インフルエンザ(H5N1)発生届」により直ちに最寄りの保健所へ「疑似症患者」として届け出る。

    【疑似症患者の症例定義】

    38℃以上の発熱及び急性呼吸器症状のある者を診察した結果、症状や所見からインフルエンザ(H5N1)が疑われ、かつ、検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出により、H5亜型が検出された場合

    (イ)疑似症患者の症例定義に合致しなくとも、【要観察例の判定基準】に当てはまる場合は直ちに最寄りの保健所に連絡し、検体検査などに関する相談を行なう。

    【要観察例の判定基準】

    下記(1)または(2)に該当する者で、かつ38℃以上の発熱および急性呼吸器症状がある者、または原因不明の肺炎例、もしくは原因不明の死亡例

    (1)10日以内にインフルエンザウイルス(H5N1)に感染している、またはその疑いのある鳥(鶏、あひる、七面鳥、うずら等)、もしくは死亡鳥との接触歴を有する者

    (2)10日以内にインフルエンザ(H5N1)患者(感染が疑われる例も含む)との接触歴を有する者


  • B) その他の亜型ウイルスによるHPAIの場合

     診察した患者が【疑い例としての届出基準】に当てはまる場合には、「高病原性鳥インフルエンザ発生届」をもって速やかに最寄りの保健所に「疑い例」として届け出る。(「高病原性鳥インフルエンザに関する患者サーベイランスの強化について」 2004年2月2日 厚生労働省健康局結核感染症課長通知 健感発第0202001号)

    【疑い例としての届出基準】

    下記(1)又は(2)に該当し、発熱等のインフルエンザ様の症状がある場合
    (1)高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染している又はその疑いのある鳥(鶏、あひる、七面鳥、うずら等)との接触歴を有する者

    (2)高病原性鳥インフルエンザが流行している地域へ旅行し、鳥との濃厚な接触歴を有する者


(2007/1/4 IDSC 改訂)


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