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高病原性鳥インフルエンザ

WHO 更新情報
  鳥インフルエンザ−鳥の間でのH5N1鳥インフルエンザ流行の地理的拡大−更新28
     
現状評価とヒトの健康にとっての意味

    2005年8月18日 WHO(原文


2005年7月下旬に始まる政府当局からのOIEへの報告によると、H5N1亜型ウイルスはその地理的分布領域を拡大している。ロシアとカザフスタンはともに7月下旬に家禽の間での鳥インフルエンザの流行を報告し、その原因がH5N1亜型ウイルスであることを8月初めに確認した。この二つの国における集団発生は家禽と野生の水鳥が水源を共有した接触によると考えられている。

これらの流行はこの二国における高病原性A/H5N1ウイルスの記録で確認されうる最初の流行となった。両国ではこれまで同ウイルスの流行は存在しないと考えられてきた。

ロシアにおいてH5N1の家禽間流行の最初の報告からなされてから、これまで流行はシベリアに限定されていたが、現在まで流行は西に広がり6つの行政地域で確認されるようになった。カザフスタンでは、シベリアにおける最初の集団発生の場所に隣接するいくつかの村で家禽間の流行が起こっている。現在までにこれら二国の集団発生は、いくつかの大規模農場と小規模の飼育群を巻き込み、ロシアでは12万羽の鳥が死ぬか殺処分され、カザフスタンでも9千羽以上の鳥が被害を受けている。

8月初めにモンゴルでは緊急報告が出され、同国北部の二か所の湖で89羽の野鳥が死んでいることが報告された。鳥インフルエンザA型ウイルスが原因として確認されたが、その株は同定されていない。検体はWHOのリファレンス研究施設におくられ現在分析中である・また、8月初めにはH5N1亜型ウイルスの家禽間の流行がチベットで確認されている。

これら最近の集団発生の全てで、FAOまたはOIEの高病原性鳥インフルエンザに関する勧告に従った対策がとられていることを政府当局は報告している。現在までヒトの感染例は報告されておらず、サーベイランスは強化され、流行に関する風説は当局により調査されている。

ロシアおよびカザフスタンにおける流行は、H5N1亜型ウイルスが東南アジア諸国における最初の流行地をこえて広がっていることの証拠となっている。各国のこれまでの積極的な対策にもかかわらず、H5N1亜型ウイルスがベトナム、インドネシアの多くの地域で、またカンボジア、中国、タイ、そしておそらくラオスのいくつかの地域において確認され続けていることをFAOは警告している。東南アジアでの流行は、1億5千万羽をこえる鳥の死亡または殺処分につながり、農業、そして家の庭で飼っている鳥からくる収入と食料に頼っている多くの農村部の農民に特に深刻な影響を与えている。ヒトの感染例のほとんどが病鳥または感染して死んだ鳥との直接の接触があり、ヒト症例はこれまでのところベトナム、タイ、カンボジア、インドネシアで確認されている。ヒトからヒトへの感染が確認されているのはこれまでごく小数である。日本、マレーシアそして韓国におけるH5N1亜型ウイルスの家禽間の流行の対策は成功裏におわった。

WHOは、野鳥における鳥インフルエンザ感染は抑えられるものではなく、また試みるべきでないというFAOおよびOIEの方針に強く賛同する。野生の水鳥は全ての亜型のA型インフルエンザウイルスの自然宿主であることが知られている。野鳥は、これらのウイルスを低病原性の形で長距離を運搬しながらも感染症状は示さず、鳥インフルエンザで死ぬことはまれである。渡り鳥で高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認されることは同様にまれであり、これらの鳥が高病原性鳥インフルエンザの感染拡大に果たす役割はまだよく解明されていない。

この4月に中国中部の青海湖で6千羽以上の渡り鳥が集団死したが、鳥インフルエンザによるこのような非常に大規模の渡り鳥の集団死は異例である。7月に発表された研究ではこの流行におけるH5N1亜型ウイルスは東南アジアで過去2年間流行しているウイルスに近いことを示している。

最近OIEのウエブサイト(http://www.oie.int/eng/info/hebdo/aIS_58.htm#Sec6)で報告されたロシアにおける流行の原因ウイルスの分析結果によると、このウイルスは青海湖での集団発生の際に渡り鳥から採取されたウイルスと明らかに近縁であることが示されている。モンゴルにおける渡り鳥間の流行の際に採取された検体を分析すれば、最近の流行の拡大を明らかにするに有用であろう。鳥におけるH5N1亜型ウイルスの拡大と進化を監視し、その結果をこれまでしられているH5N1亜型ウイルスの特徴と迅速に比較することは、パンデミック・インフルエンザのリスクを評価するにおいて必要不可欠な活動である。

ヒトの健康への影響

ロシアとカザフスタンで家禽間の流行をおこしているウイルスは、種の壁をこえてヒトに感染し、死亡率の高い重症の疾患をおこすことができることが、1997年および2003年の香港における流行および東南アジアにおける2004年初めからの流行において示されている。家禽でのH5N1亜型ウイルスの流行が最近確認された地域でもこれと同様のヒトでの感染のリスクが存在する。

東南アジアにおける流行の経験によると、ヒトの感染例はまれではあり、家禽からヒトの伝播は簡単にはおこらない。これまでのところほとんどのヒト症例が農村部でおこっている。全てではないが殆どのヒト症例が、鳥との直接の接触、特に鳥を殺す、羽をむしる、料理の準備をするなどで、感染して死んだまたは発症している鳥と接触を持っている。鳥の飼育または殺処分にかかわっている者の感染はこれまで確認されていない。適正に調理された鶏肉や卵を食べることによる感染も今のところ確認されていない。

いくつかの異なった国々で確認されている、家禽数の密集度と飼育の方法に関係する要因も、ヒト症例の発生に関係する可能性がある。H7N7亜型ウイルスによる2003年のオランダにおける高病原性鳥インフルエンザの集団発生の際には、家禽の飼育および殺処分にかかわった者とその接触者の間で80例以上の結膜炎患者が確認され、一人の獣医が死亡した。この事件は3千万羽以上の家禽の殺処分により封じ込むことができたが、このことは最近の新たな流行国で集団発生のおこった農場で対策をおこなう際には、FAO/OIE/WHOの勧告に準じておこなう必要があることを強調するものである。

パンデミックのリスク評価

さらに多くの国でH5N1亜型の鳥インフルエンザの流行が広がりうることは今のところ否定できない。WHOは、各国が家禽間の流行および渡り鳥の集団死亡のサーベイランスを強化し、FAOおよびOIEが勧める封じ込め策(http://www.oie.int/eng/AVIAN_INFLUENZA/guidelines.htm)を導入することを勧告する。家禽の間での流行がおこっている地域では、感染鳥に暴露された人の間での呼吸器感染症への警戒を高めることも勧められる。ヒトおよび動物からの臨床検体とウイルスを、WHOおよびOIE/FAOのレファレンス研究室に送付することは、パンデミックのリスクを継続して評価し、ワクチン開発を順調におこなうことを助ける。

鳥インフルエンザウイルスの感染域の拡大は、ヒトへの感染の機会を増加させ、大きな懸念となる。個々のヒト症例は、変異と再集合によりウイルスが感染力を増加させる機会を増加させる。ヒトからヒトへ容易に感染するH5N1亜型ウイルスの出現はパンデミックの始まりを示すことである。

(2005/8/19 IDSC 掲載)

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