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インフルエンザ

WHO 更新情報
  H5N1 鳥インフルエンザ −ヒト用ワクチン開発の第一ステップ

    2005年8月12日 WHO(原文


8月6日米国国立アレルギー・感染症研究所の研究者はH5N1亜型鳥インフルエンザウイルス感染症からヒトをまもるために開発されているワクチンの初期臨床治験の結果を発表した。まだ予備的な段階であるが、そのデータは試験的ワクチンが少数の健常成人で免疫応答をおこすことができたことを示している。

更なる治験が必要ではあるが、この新しい発見はH5N1ウイルスに特異的なワクチンを開発することが可能であることを再確認するものである。 現時点で、H5N1亜型ウイルスは次のパンデミックをおこす可能性がもっとも高いウイルスとされている。アジアにおけるH5N1亜型ウイルス感染の拡大と進化により、前世紀におこった3回のパンデミックのうち最後のものが始まった1968年以来のどの時点よりも、現在世界はパンデミックの発生に近づいている。

ワクチンは、個々人をパンデミック・インフルエンザからまもる主要な対応策である。パンデミック・インフルエンザのもたらす罹患率と死亡率は、これまで社会を大きな混乱におとしいれ多数の死者をだしてきたが、もしワクチンを迅速にかつ十分な量生産することができるのならば、この社会負担を軽減することができる。 しかしながら、ワクチンが次のパンデミックの影響を緩和する点においてそのような役割をになうことができるまでには、多くの問題が解決されなければいけない。最大の問題は、限定された抗原の供給量を最大限に活用できるようなワクチンの組成を見つけることである。

抗原は、ワクチンのなかで免疫応答をおこさせる成分である。今回の米国の治験はこのワクチンの組成に関して重要な知見をあたえるものである。今回のワクチンは、毎年通常の季節性流行をおこすインフルエンザに対して製造されているワクチンに含まれているより多くのウイルス抗原が含まれている。 限定されている抗原の供給量を膨らませる方法―ワクチンにアジュバンドを加える、筋肉注射でなく皮下注射を用いるなど―が提案されている。アジュバンドはワクチン成分に加えることにより免疫応答を高め、理論的にはより少ない抗原で免疫応答を達成するようにする働きのある化学成分である。アジュバンドを使うような、抗原を節約する方法は、いくつかのワクチン製造業者が試みており、暫定的結果が2,3ヶ月以内に出ると期待されている。

現時点ではインフルエンザワクチン製造能力の90%が、世界人口の10%をしめるにすぎないヨーロッパおよび北米に集まっている。現在の世界のインフルエンザワクチン製造能力(通常の3価のワクチンで毎年3億ドーズ)はパンデミック時に必要な世界のニーズを満たすには少なすぎるが、これはすぐに増大できるものではない。

インフルエンザ・パンデミックは、すべての国に数ヶ月のうちに広がることができ、多量で幅広い予防策と治療策の需要をもたらすという点で特異的な感染症である。よって、パンデミックは、世界のワクチンおよび緊急時の治療へのアクセスの点で大きな不平等をもたらす。過去の経験からみると、国内で製造能力のある国は、輸出用市場に対して物資を完全に自由化する前にまず国内のワクチンおよび他の重要資源への需要を満たすことになるはずである。

世界のインフルエンザ・ワクチンの製造能力は現在限られているために、パンデミックの始まる前にパンデミック用のワクチンを大量に製造することは必然的に、季節性のインフルエンザ用のワクチンの製造能力を減少させる。季節性のインフルエンザの流行による死亡者数は毎年25万人から50万人と推定されている。現在の状況では、季節性のインフルエンザに対応するワクチン製造能力は、パンデミックインフルエンザへの準備とのバランスがとれたものでなくてはならない。しかしながら、一旦パンデミックが始まると、すべての製造者は通常のインフルエンザワクチンの製造をやめて、パンデミック用のワクチンのみを製造するであろう。


WHOは、パンデミックの始まりにおいてどの国においても十分なワクチンの供給がえられないであろうことを想定して、広い範囲のパンデミック対策についての勧告をおこなってきている。


(2005/8/16 IDSC 掲載)



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