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現時点における H5N1型インフルエンザウイルスの
   ヒトへのリスクの検討

 2004年7月8日 WHO(原文

 



WHO鳥インフルエンザ・ホームページ

http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/en/

 

過去2週間の間に、鳥インフルエンザの流行はアジアのいくつかの国々の家禽のあいだで、再興したようである。この流行は、高病原性鳥インフルエンザAウイルス(H5N1型)のまったく新しい流行かもしれないし、または今年はじめに報告された流行の継続かもしれない。最近の2つの新しい研究報告 ――H5N1ウイルスの病原性はさらに増強されており、また流行のあったアジア地域においてますます広がりつつあるということについて―― と、今回流行が再びおこってきたことをあわせて考えると、鳥インフルエンザウイルスのヒトへの脅威についてWHOがもちつづけてきた懸念はより一層強まることになる。

 

インフルエンザA(H5N1)ウイルスは、農場におけるヒトへの感染の脅威、そしてより大きくいうと全世界への脅威となるために、WHOはずっと警戒をつづけてきた。1997年以降の3回の集団発生で、いくつかのアジア諸国においてこのウイルスは種の壁をのりこえ、感染した鶏やアヒルから直接ヒトに感染したことが報告されている。ヒトへの直接の感染は、重症で、時には致死的な結果をもたらした。さらにいえば、ウイルスはヒトからヒトへ簡単に感染する能力を獲得し、パンデミック(世界的な大流行)をおこす可能性がある。

 

このたび2つの研究報告がこのウイルスについての新しい知見をもたらした。ひとつには、中国農務省の職員とその共同研究者らが、H5N1ウイルスは中国南部のアヒルに広く侵淫していると考えられること、またさらに、ウイルス感染の症状がより重くなっているのを見いだしたことを、Proceeding of National Academy of Scienceにおいて先週報告した。しかしこの研究結果は、マウスにおける実験で確認されたものであり、ヒトに関して直接の意味は持たないかもしれない。

 

また、科学雑誌Natureは今週、地域の家禽および野鳥がウイルスの拡散を増幅することに寄与し、地域内により強い足場を築きつつあることを示す報告を掲載した。このような結果は、ウイルスを制御下におくことが、本年春に考えられていたより一層難しい可能性を示唆する。

 

家禽生産の場においてインフルエンザA(H5/N1)の集団発生が検知された時に、その感染制御に有効なリスク管理ツールがある。例えば中国においては、先週安徽省で集団発生が見つかった際に、この手法を迅速に適用した。このリスク管理手法は、感染した、あるいは曝露を受けた鳥類の殺処分、厳格なバイオセキュリティ対策とワクチン接種を含んでいる。この手法では、ウイルスを完全に封じ込めるために数ヶ月から数年かかってしまうが、これまでのところは有効な手段であった。

 

しかしながら、ヒトの健康被害のリスク評価については、あまり開発が進んでいない。最近の報告によると、ウイルスはここ数年の間、常に環境中に存在していたにもかかわらず、依然としてヒトに容易に感染する能力を獲得していない。何故であろうか?この進化を阻害する何かがこのウイルスには有るのだろうか?この最近の報告を受けてWHOは、動物およびヒトにおけるサーベイランスや、ウイルス株の解析を含むリスク評価活動が、可及的速やかに実行されることを強く希望し、そのための支援を提供する。

 

もしWHOが、最近の集団発生由来の分離されたウイルス株と臨床検体すべてを、自由に入手することが可能であったとしたら、このウイルスについてより多くの知識が得られたであろう。それぞれのH5N1型ウイルスは同じではなく、それがどのように違っているかについての情報は、われわれに重要な見識を与えてくれる。たとえば、科学誌Natureに報告された研究によると、インドネシアの鳥インフルエンザウイルスはベトナムとタイで見られたウイルスと同じ遺伝子型に属しながらも、はっきりと異なった株である。この違いによってもし何らかの影響があるなら、それは何であろうか?この様な情報がありさえすれば、公衆衛生対応策の計画立案者たちは、最近のアジアにおける一連の集団発生において、同じウイルスに直面しているのかどうかを知ることができるであろう。この質問は、緊急に解答を必要とする一連の多くの疑問のうちのひとつである。

 

今年始めに報告された集団発生を受けて、WHOが始めたパンデミック事前対策活動(pandemic preparedness activities)は今後も継続される。わずか2週間ほど前にWHOは、クアランプールにおいて13ヵ国とアジア太平洋地区から招かれた専門家との会合を主催した。会議参加者らには他の議題と共に、WHOによる事前対策自己評価ツール(WHO preparedness self-assessment tool)が提供された。WHOは、既知の抗ウイルス剤に対するインフルエンザウイルスの感受性の変化を監視する、世界サーベイランス・システムについて、科学者らや薬学関係者と協力している。さらに、パンデミック時用のワクチン開発も継続する。共に米国にある2つのワクチン製造会社は、ヒトにおける安全性と効果を検討する予定の試作ワクチンの生産を行った。

 

総括すると、最近の展開が示唆するのは:

 

・      ウイルスは、以前に考えられていたより広域に広がっており、野鳥から検知され、従ってelimination(排除)することはより困難であると思われる。

・      最近のあらゆる集団発生から分離されたウイルスおよび検体は、循環しているウイルスを監視し、現在のパンデミックワクチン株の適性を評価するために、WHO協力研究期間ネットワークと共有する必要がある。

・      感染制御対策が強化されており、各国政府が家禽の殺処分にあたる人々に、ヒトのインフルエンザウイルスに対するワクチン接種を提供することが推奨される。

・      感染した鳥類への曝露があったすべての人々、特に殺処分に関わる人々には、抗ウイルス剤が提供される必要がある。

・      実験的なインフルエンザ・パンデミック用ワクチンの、ヒトにおける臨床試験は加速されなければならない。

・      ヒトにおける鳥インフルエンザ症例の早期診断は困難であるが、ヒトの罹患を早期に検知するためのサーベイランスの強化は不可欠である。

 

環境中に鳥インフルエンザウイルスが残存する限り、新たなヒトでのパンデミックウイルスの出現のリスクは無くならない。最近の報告に基づき、WHOの警戒と対策活動は高いレベルで続けられる。H5N1型ウイルスによる脅威は短期間で無くなるとは思われないことから、WHOはFAO(国連食糧農業機関)やOIE(国際獣疫事務局)を含む他の国際機関と協力して、事例の監視活動を行っている。

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(2004/8/3 IDSC掲載)