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家禽における高病原性H5N1鳥インフルエンザの流行に関連した、人間への健康リスクの評価

 2004年5月14日 WHO(原文

 

背景

H5N1亜型の高病原性トリ・インフルエンザウイルスによるヒトの重篤な疾患がベトナムとタイにおいて確認されたことから、WHOは2004年1月下旬、インフルエンザ・パンデミック準備計画(influenza pandemic preparedness plan)を実行に移した。これらの患者と3月中旬までに引き続き報告された患者は、ベトナムとタイにおける高病原性H5N1鳥インフルエンザの家禽の間での流行と直接関係していた。

H5N1亜型ウイルスの家禽における感染は、2003年12月中旬から2004年2月までに、さらに6カ国(カンボジア、中国、インドネシア、日本、ラオス、韓国)で確認された。この流行は、その広がった地域、国際的な拡大の程度、そして農業分野への経済的な打撃の大きさからみて、これまでの流行とは比較にはならないものであった。今回の流行国の半数以上で、高病原性鳥インフルエンザ流行は歴史上初めてのことであり、その対策は困難をきわめた。

人の健康において、今回の高病原性鳥インフルエンザの流行はふたつの意味を持つ。ひとつは、H5N1亜型ウイルスが人間への感染力をもち、1997年から3度にわたって、高い致死率をもつ重篤な疾患を引き起こせることを示した。2004年度のヒトの間での集団発生は記録上最大のものだが、公式に報告されただけで34例、うち23例の死亡が発生した。ヒトの感染を予防するワクチンはなく、病状が重篤になると特別な治療方法もない。

高病原性鳥インフルエンザの流行が持つ、二つ目の、そしてより重大な意味は、インフルエンザ・パンデミックをおこしうる新しいウイルス亜型が出現する可能性がでてきたということである。インフルエンザのパンデミックは、過去に何度も、しかし不定期におこり、つねに高い罹患率と死亡率を示し、社会的かつ経済的に甚大な被害を与えてきた。

リスクの評価

現状では、H5N1亜型ウイルスの家禽の間での流行がある限り、ヒトの健康上のリスクは続く。今回流行した国の中には、動物およびヒトにおける(同ウイルスの流行を把握するための)疾病のサーベイランスおよび報告システムが十分に機能していないところがある。したがって、ヒトの感染の報告がないからといって、ヒトの健康への危険性がなくなったとは言えない。

ヒトの健康危機リスクの評価は、高病原性トリ・インフルエンザの罹患率および、サーベイランス・システムの信頼性を考慮に入れた家禽の間で疾病状況のリスク評価に基づいて行わなければならない。地域あるいは国内の家禽の感染が無いことを明らかにするには、何らかの信頼できる調査、確認するためのシステムが必要である。同様に、ヒトにトリのH5N1亜型ウイルス感染が起こった場合に早期探知が可能となるように、ヒトの呼吸器疾患のしっかりとしたサーベイランス・システムが必要である。

家禽間の流行対策

家禽間の鳥インフルエンザ対策は、1億羽以上の鳥の殺処分を必要としたが、それによってヒトへの感染リスクを減少させた。しかし、サーベイランス・データの入手は困難であるため、家禽間のウイルス感染が制圧され、ヒトの健康危機リスクはもはやなくなったと結論することはできない。

4月には、家禽での集団発生の終息宣言間近であった国の中で、感染がすでになくなったと考えられた地域、またはこれまで感染のなかった地域での新たな感染の拡大が見つかっている。5月にも新たな流行がおこったという“うわさ”があるが、今のところ確認されていない。WHOは、早急な終息宣言は危険であることを何度も訴えてきた。

新しい集団発生を直ちに探知し、封じ込め、流行終息地域で再流行がおこらないようにするためには、強力なサーベイランスと対策、そしてバイオキュリティ策を講じることが肝要である。そのような対策がとられない限り、(H5N1亜型ウイルスの流行は)再度発生し、それが国内、国際間で拡大するであろう。

即時対応が必要な事項

家禽におけるH5N1亜型による高病原性鳥インフルエンザの状況および、ヒトの健康への深刻な影響の可能性が未知であることから、WHOは以下のことを呼びかける。

○ 商業飼育、小規模飼育にかかわらず、家禽全体におけるH5N1亜型ウイルスの感染を制圧するための努力を続ける;

○ 家禽間の新あらたな集団発生を、関係当局および機関への迅速に報告する;

○ 感染制御対策の進行状況を確かめ、疾病の発生がなくなったことを監視する制度を導入する;

○ 公衆衛生部門、農業部門、獣医・家畜保健関係機関の間の緊密な連携を進める

○ ヒトの感染症サーベイランスを強化し、ヒトへの健康影響を評価するために必要なデータの収集と公表を行う;

○ WHOの世界的インフルエンザサーベイランスのネットワークに属する研究施設と、分離ウイルスを共有する。

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(2004/5/24 IDSC掲載)