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高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)−更新31

 2004年3月2日 WHO(原文

 

アジアでの鳥の状況: 長期的な対応の必要性 以前の集団発生との比較

先週タイのバンコクで開かれた緊急会議の間に、FAO、OIE、WHOは、現在のアジアの家禽類におけるH5N1の集団発生のいくつかの独特な特徴、特に、前例のない地理的拡散、感染拡大の速度および重大性に注目した。

 今回の集団発生を迅速に制御できる見込みは、過去の40年以上にわたる以前の集団発生に対する世界中の経験とは異なっている。それらの集団発生はすべて範囲がずっと小規模で、本質的により難しくなかった。質の良いサーベイランスや適切な資源があり、集団発生が地域的に限られていた国でさえ、制御にはしばしば2年以上を要した。これらの理由その他からWHOは、集団発生が近い将来には制御されるという想定に対して注意を示している。

 WHOは、これらの集団発生の重大な公衆衛生的意味を以前の更新 [原文] で記述している。

 2003年末までは、高病原性鳥インフルエンザは稀な病気と考えられてきた。1959年以来、世界中でわずか21件の集団発生(表1参照)が報告されているにすぎない。大部分はヨーロッパとアメリカ大陸で起きている。全体の中で、多くの農場へと拡大したのは5件の集団発生のみであり、他国へ広がったのは1件のみである。

 2003年12月中旬以降、アジアの8か国でH5N1株による高病原性鳥インフルエンザの集団発生が確認されている。ほとんどの国はこの疾患の集団発生を初めて経験している。数か国では、事実上全土の至る所で集団発生が見つかっている。

 過去2か月以上にわたり、アジアでは1億羽以上の鳥が病死または処分された。この数は、長年にわたって世界で過去に起こった最も大きな5件の集団発生の際に影響を受けた家禽類の合計より多い。

 1959年以降の世界全体での経験からすると、現在の状況が前例のない種類のものであり、制御するのは簡単ではないという公式発表が支持される。現在の状況が独特なのは以下のような点である:

家禽類の裏庭への集中

 集団発生を経験している数か国では、最大80%の家禽類が田舎の小規模の養鶏場や裏庭の飼育場で飼われており、家禽類は自由に動き回っている。中国では、国内の推定132億羽の鶏のうち60%が、人や、豚などの家畜と近接する小規模の養鶏場で飼われている。この状況のために、以前の集団発生の制御に不可欠であった厳格な制御対策の施行は極端に難しくなっている。鳥の出入りを防ぎ生態学的に制御された鶏舎、水に対する処理、そこへ入るすべての人、器具、車両に対する消毒、昆虫・げっ歯類・そのほかの媒介物との接触の防止、といった制御対策が、小規模の養鶏場や裏庭の飼育場に適用することができない。

家禽類飼育の経済的重要性

 家禽類の飼育は伝播確認国の経済及び食料供給に大きく貢献している。農業部門は、ヒトの健康リスクをも低減する方法で生産農家および自作農家の損失を最小限にするという困難な課題に直面している。その地域の多くの人々は家禽に大いに依存しているので、適切な殺処分を導入するのは難しい可能性がある。

制御の経験の不足

 高病原性鳥インフルエンザはこの地域の大多数の国で初めてであり、国ごとに最善の制御方法を示すための国内および国際レベルでの経験が大変少ない。特定の地域における殺処分に成功したと発表した国において、引き続き同じ地域で疾患が再発しているところもある。このことは、ウイルスの再度の入り込み、環境中の持続的な存在、あるいは集団発生制御の不適切な確認を示唆している。

資源不足

 非常に広範囲の集団発生があった数カ国では、農家に補償し、それにより政府の勧告を遵守することを奨励することを含んだ適切な基盤や資源を欠いている。集団発生を報告したいくつかの国では、感染の広がりを検知するサーベイランス、および感染した動物の殺処分のいずれも行われていない。

国際的な拡大の規模

 非常に多くの隣接した国々が影響を受けたので、1国の利益が別の国での制御不十分によって危険にさらされないために、広域にわたる戦略が必要である。

 これらの独特な状況のゆえに、迅速な制御および再発の長期的な予防は非常に達成困難であろう。

 現在の集団発生を抑え込むためには、FAO、OIE、WHOが勧告しているように、殺処分が今なお最初に取るべき行動である。他の経済的に重要な家畜と異なり、家禽類の飼育は大変短期間の生産システムの中で行うことができる。殺処分された家禽類の在庫を置換する十分な財源があるならば、国々は家禽養育の長期的な影響を恐れる理由で、積極的な殺処分の延期をしてはならない。

 野鳥は飼育家禽群に低病原性ウイルスを持ち込むのに一役買う可能性があり、家禽群において数か月間ウイルスが感染循環すれば、ウイルスは高病原性の型に変化する可能性がある。野鳥が現在起こっている高病原性H5N1鳥インフルエンザ集団発生の発生源であるという証拠は今のところ得られていない。野鳥を殺処分してはいけない。


以前発生した世界の高病原性鳥インフルエンザ集団発生一覧(表1)


以前の集団発生の所見(1959年-2003年)

 高病原性鳥インフルエンザの集団発生は、好条件下(感染した鳥が十分に整備された商業的生産施設に集まっていて、発生が地理的に限定されている場合)でも、制御するのは非常に困難である。

 −1983年のペンシルバニア州(米国)での集団発生は、制御に2年を要した。約1,700万羽の鳥が処分され、直接的な費用は6,200万USドルであった。間接的経費は2億5,000万USドル以上と見積もられている。

 −2003年のオランダでの集団発生は、ベルギー・ドイツに拡大した。オランダでは、3,000万羽以上の鳥−オランダ全土の家禽群の4分の1に当たる−が処分された。ベルギーでは約270万羽が処分され、ドイツでは約40万羽が処分された。オランダでは、89人が感染し、うち1名(獣医)が死亡した。この集団発生において、家禽業従事者、農場関係者、農場を訪問する人の健康を守るために取る必要があった方策は、防護服・鼻と口を覆うマスク・目の防御具の着用、通常のその年のヒトインフルエンザワクチンの接種、抗ウイルス剤の予防内服などであった。

家禽の密度が高い諸国にとっては、感染制御はさらに困難である。

 −1999年から2000年イタリアでの集団発生では、裏庭の飼育場25ヶ所を含む413の集団に感染し、結果的に約1,400万羽の鳥が処分された。集団発生が家禽の密度の非常に高い地域で発生したので、制御はきわめて困難であった。農場への補償額は6,300万USドルにのぼった。家禽業とその関連する産業で要した経費は6億2,000万USドルと見積もられている。このウイルスは集団発生が収束した4ヶ月後、低病原性の型として再び出現し、またたく間にさらに52か所で集団発生を起こした。

 −メキシコで高病原性鳥インフルエンザが最後に発生したのは1995年であるが、有効性において様々である20億本以上のワクチンを用い、長年の努力をしてきたにもかかわらず、原因となるウイルス(H5N2株)はメキシコから決して完全には根絶できておらず、現在は低病原性の型で存在している。同様に、パキスタンで実施されたワクチン対策は、原因ウイルスの根絶につながってはいないように思われる。

 家禽と野鳥、特にアヒルやその他の水鳥との間の接触を避けることで、低病原性のウイルスが家禽集団に入り込むことを防ぐことができる。現時点ではアジアにおいて、野生の渡り鳥が最近の集団発生に関連していることを示す証拠は得られていないが;

 −これらの集団発生の中には、水のみ場の水の共有などを含む、放し飼いの鳥や野鳥との間の接触が関連しているものもある。糞による水の汚染は、野鳥がウイルスを伝播させる最も効率的な手段であると考えられている。ウイルス(低病原性)は、渡り鳥が集まる湖や池で容易に分離される。

 −特に危険度が高い行為は、飼育されている鶏や七面鳥の近くの池でアヒルの一群を飼うことである。飼われているアヒルは野生のアヒルを引きつけ、野生の鳥から家禽類への重要な感染伝播経路となる。

 感染あるいは曝露を受けた家禽の殺処分を含む積極的な感染制御対策は、鳥インフルエンザH5とH7亜型に対しては、たとえウイルスが初期の段階で低病原性であっても推奨される。(H5とH7のみが高病原性インフルエンザの集団発生に関連した亜型である)

 −大きな集団発生の中のいくつか(ペンシルバニア、メキシコ、イタリア)は当初、家禽における軽い症状で始まった。ウイルスが家禽の中で感染循環を続けるうちに、ついに変異を起こし(6〜9ヶ月以内)、致死率100%近い高病原性に変化した。さらに、これらの集団発生の初期には低病原性ウイルスが存在していたことから、高病原性型の診断に関して混乱を生じた。

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(2004/3/5 IDSC掲載)