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世界規模のインフルエンザA/H5サーベイランスに関するWHOガイドライン

 2004年2月6日 WHO(原文

 

背 景

現在アジアでは、広範囲にインフルエンザA(H5N1)による高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が動物で、特に鶏の間で流行しており、ヒトに公衆衛生上の危険をもたらしている。このウイルスは、ヒトに感染して重症化や高い死亡率をもたらすだけでなく、適応したり、他のインフルエンザウイルスと再集合をおこしたりして、パンデミック(汎世界的流行)を起こすウイルス株を生じる可能性がある。

世界保健機関(WHO)は、綿密な地球規模の状況監視および国際的な対応についての調整を行なうために、追って通知するまでインフルエンザA/H5の強化サーベイランスを実施することを提言する。疫学的状況が進展するにつれて、WHOはこのサーベイランスについてのガイドラインを見直し、必要に応じて更新していく。

目 的

総合目的

  ・この疾患の世界的な傾向、公衆衛生上の危険、パンデミックの可能性を評価し、「インフルエンザ・パンデミックに関する対策計画*」に特定している、パンデミックに備えた公衆衛生学的活動を開始するために、ヒトや動物の集団におけるインフルエンザA/H5の広がりを監視すること。

* この文書(WHO/CDS/CSR/EDC/99.1)は、以下のURLを参照すること。
http://www.who.int/csr/resources/publications/influenza/en/whocdccsredc991.pdf

 

個別目的(下記のセクション1〜5を参照のこと)

1. ヒトにおけるインフルエンザA/H5ウイルス感染の世界的な発生状況を監視すること。

2. 感染制御戦略への情報提供をするために、どのような新興のインフルエンザ株をも検知し性状を明らかにすること。

3. インフルエンザA/H5ウイルスの感染伝播様式の変化を監視し、インフルエンザA/H5ウイルスのヒト−ヒト感染の可能性を検知すること。

4. 急性呼吸器疾患の異常な発生やそれによる死亡を監視すること。

5. 動物集団におけるHPAIの集団発生の監視に寄与すること。

 

インフルエンザA/H5ウイルス感染のサーベイランス実施を補助する手段

国あるいは地域内における臨床的管理や報告のために、疫学的状況に応じて段階的に区分した症例定義を作成する必要がある。付録1に示すのは、インフルエンザA/H5ウイルスがヒトおよび動物の集団における疾患の原因であると特定された、ベトナムで使用された症例定義である。一般的には、動物集団においてHPAIの集団発生が報告された国や地域では、実験室診断を開始するために、HPAIの集団発生の報告がない国や地域よりも感度の高い症例定義を採用する必要がある。動物集団におけるHPAI集団感染の範囲や、国の物理的な大きさによって、地域の臨床あるいは公衆衛生的管理を目的とした症例定義は、それぞれ異なるかもしれない。しかしながら、インフルエンザA/H5確定例の症例定義がどの段階でも基準とならなければならない(以下の「確定例の症例定義」を参照のこと)。

この手段に含まれる症例分類案は、ベトナムで使用されているものを基にしている。加盟各国は自国の症例分類案に合致するように、これらの手法を適合させる必要がある。

下記の付録に提供されている手段は、各国がすべての段階のデータを集め整理統合するためおよび、WHOに報告を行う手助けになるように作られた。

付録1: ベトナムで使用されている症例定義

付録2: 国ごとの日報の書式

付録3: 患者一覧表の書式

付録4: 患者一覧表に必要な入力変数の説明

付録5: 症例報告様式

付録6: インフルエンザA/H5感染診断のためのWHOリファレンス研究施設

付録7: WHOへの報告時の連絡先

 

付録の電子版はWHOの各地域事務所から入手できる(付録7参照)。

 

患者の管理に関するより詳しい情報は、インフルエンザA(H5N1)に感染したヒトの臨床管理のためのWHO暫定ガイドラインを参照のこと。

http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/guidelines/en/

(訳注:現時点では、実際にはリンク先にそのようなガイドラインは掲載されていないが、各種ガイドライン一覧が参照できる)

 

1.ヒトにおけるインフルエンザA/H5ウイルス感染の世界的発生状況の監視

背 景

ヒトにおけるインフルエンザA/H5ウイルス感染のサーベイランスを実施することは、以下の理由により重要である:

  ・ヒトにおけるインフルエンザA/H5ウイルス感染に関する最新の情報を衛生当局に提供する

  ・更なるサーベイランスや感染対策活動の対象を絞るために、インフルエンザA/H5の活動性のある地域を見つけ出す

  ・インフルエンザ・パンデミックに備えたワクチン開発についての提言を準備するために、国際的な研究努力の協調を促進する

 

サーベイランスの対象事例

世界的なサーベイランスの実施のために、加盟各国は以下の定義を満たすすべてのインフルエンザA/H5検査確定例を、後述の「情報の報告および周知」の項で詳述されている手順に従ってWHOに報告するよう求められている。加盟各国はまた、第3章:「インフルエンザA/H5ウイルスの感染伝播様式の変化の監視およびヒト−ヒト感染伝播の可能性の検知」に詳述されている、すべての区分の症例に関する情報をWHOに報告するよう求められている。

A.2003年10月1日以降に、ヒトあるいは動物集団における疾患の原因としてインフルエンザA/H5ウイルスが同定されている国々あるいは地域において、インフルエンザA/H5ウイルスの検査を実施するかどうかの決定は、以下の要因を考慮した症例ごとのリスク評価の結果に基づいて行うべきである:

  ・ 原因不明の急性呼吸器疾患による死亡も含めた臨床所見;

  ・ 地域の動物集団において報告されたHPAI集団感染の範囲;

  ・  発症前7日以内に、インフルエンザA/H5感染と確定されたヒト症例との接触(触れることができる、あるいは会話ができる程度の距離の範囲);

  ・  発症前7日以内に、原因不明の急性呼吸器疾患を発症し、後に死に至った症例との接触(触れることができる、あるいは会話ができる程度の距離の範囲);

  ・インフルエンザAの検査結果が陽性。

註:インフルエンザA/H5の検査に基づく調査は、対象を絞り込んだ疫学調査の目的で行うことも考えられる。そのような状況下で発見された確定例は、臨床所見にかかわらず報告されるべきである。

B.2003年10月1日以降に、ヒトあるいは動物集団における疾患の原因としてインフルエンザA/H5ウイルスが同定されたことのない国々あるいは地域において、インフルエンザA/H5ウイルスの検査を実施するかどうかの決定は、動物集団におけるHPAIの集団発生が報告された地域との地理的な近さと、以下の症例ごとの要因の両者を考慮して行うべきである。

  ・原因不明の急性呼吸器疾患による死亡も含めた臨床所見;

  ・職業に関連した曝露;[1]

  ・飼育されている家禽類が死亡したとの噂のある地域に住んでいること;[2]

  ・発症前7日以内に、動物集団でのインフルエンザA(H5N1)によるHPAI 集団感染が報告されている国あるいは地域に旅行歴があり、かつ以下の項目の1つ以上に該当するもの:

− あらゆる状況下で、その生死にかかわらず、飼育家禽、野鳥、豚のいずれかに接触(1 m以内)したこと;

− 発症前6週間以内に、飼育された家禽や豚が移動制限されている施設を訪れ曝露したこと;

− インフルエンザA/H5感染と確定されたヒト症例との接触(触れることができる、あるいは会話ができる程度の距離の範囲);

− 原因不明の急性呼吸器疾患を発症し、後に死に至った症例との接触(触れることができる、あるいは会話ができる程度の距離の範囲);

− インフルエンザA の検査結果が陽性。



[1] 養鶏場や養豚場における労働者、家禽加工工場労働者、家禽処理担当者(捕獲、袋詰め、鳥の搬送、死んでいる鳥の処分)、生きている動物を取り扱う市場の労働者、生きているか殺されたばかりの家禽を用いて料理をする調理者、ペットの鳥の販売・取り扱い業者、インフルエンザA(H5)ウイルスの検査施設で働く者、医療従事者などがリスクの高い職業である。

[2] 飼育されている家禽類とは一般に肉、卵、羽毛をとるために育てられ、庭や同様な囲いの中で飼育された鳥を指し、鶏、アヒル、ガチョウ、七面鳥、ホロホロチョウなどが含まれる。


確定例の定義

インフルエンザA/H5感染の確定例とは、その生死にかかわらず、以下の項目の検査結果をひとつ以上満たす者とする:

  ・インフルエンザA/H5ウイルス培養陽性;

  ・インフルエンザA/H5に対するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)陽性;

  ・ H5モノクローナル抗体を用いた免疫蛍光抗体法(IFA)でH5抗原陽性;

  ・ペア血清検体でH5特異的抗体が4倍の上昇。

症例定義に含まれるインフルエンザA/H5感染の診断のための検査方法は、これらのウイルスの基本的特定法と考えられる。

WHOは、インフルエンザA/H5に関する検査結果は国立のインフルエンザ検査機関、あるいは他の国立のリファレンス研究施設により裏付けることを推奨する。型同定できないインフルエンザA(すなわち、H3亜型でもなく、H1亜型でもないもの)の検体や分離ウイルスは、直ちにWHOのインフルエンザ協同研究施設や他のWHOが推奨するリファレンス研究施設に送る必要がある(付録6:インフルエンザA/H5感染の診断検査のためのWHOリファレンス研究施設 参照)。

WHOはまた、いかなる国あるいは地域においても、その国最初のヒトでのインフルエンザA/H5の検査陽性の結果は、インフルエンザA/H5感染の診断検査のためのWHOリファレンス研究施設のうちのひとつで確認することを推奨する(付録6参照)。

これに加えてWHOは、追って通知するまで、すべてのヒトからのインフルエンザA/H5ウイルス分離株あるいは検体を、インフルエンザA/H5感染の診断検査のためのWHOリファレンス研究施設のうちのひとつに送ることを要請する(付録6参照)。

インフルエンザ様疾患(ILI)や急性呼吸器疾患の検査診断を行う設備がない国、あるいは行政区は、該当するWHO各国事務所や地域事務所に、助言と技術的な支援のために相談するように要望する。そしてもし、検体を同定あるいは更に詳細な性状決定のために国外に送付しているのであれば、その情報をWHO各国事務所や地域事務所に提供するよう要請する。

情報の報告および周知

WHOは加盟各国に、確定例の症例定義を満たした、その国で最初の症例が発見された場合には直ちに、該当するWHOの各国事務所、地域事務所、および本部に電子メールかファックスで直ちに報告することを要請する(付録7:WHOへの報告時の連絡先 参照)。

最初の症例が特定された場合にWHOは、確定例の集積報告を該当のWHO各国事務所、地域事務所、本部に毎日報告することを要請する(付録2:国ごとの日報の書式 参照)。加盟各国は症例データの要約を、電子メール、ファックス、パスワード保護されているWHO Global Atlasのウェブサイト上からの入力のいずれかにより、毎日報告することが求められる。WHO Global Atlasのウェブサイト上からの入力を望む国は、URLアドレスと各国固有のパスワードを得るために、outbreak@who.intに連絡を取る必要がある。

WHOは、症例ごとの個別情報を、患者一覧表の形式で毎週報告することを要請する(付録3:患者一覧表の書式 および付録4:患者一覧表に必要な入力変数の説明 を参照)。患者一覧表には確定例、鑑別診断としてインフルエンザA/H5感染が考慮されているすべての症例、すべての考慮後に除外された症例を含んでいる必要がある。データ収集の手助けとなる様式も提供されており(付録5:症例報告様式の書式 参照)、それには患者一覧表に必要なすべての項目が含まれている。

WHOはこれに加え加盟各国に対し、独自の症例定義に関する文書とその後の改訂があればそれも含めて、該当するWHO各国事務所、地域事務所、本部に電子メールかファックスで送ることも要請する。

確定例に関する情報のみが、公開され入手できるようになる予定である。

 

2.感染制御戦略への情報提供をするためのあらゆる新興のインフルエンザ株の検知と性状決定

確定例を決定するための診断検査は、H5のみに関したものであり、N糖蛋白には関係がない。動物集団においてインフルエンザA(H5N1)の集団発生が確認されている場合には、ヒトのインフルエンザ症例は同じウイルスによる感染である可能性が高い。N亜型を決定するための検査は行われるべきであるが、そのために報告が遅れてはならない。N亜型の検査を行う体制がない加盟各国は、インフルエンザA/H5感染の診断検査のためのWHOリファレンス研究施設に検体を送付するように求められている(付録6参照)。

インフルエンザA/H5感染症例の確定に続いて、ウイルス株の遺伝子的および抗原性の特性に関する検査を実施する必要がある。WHOは加盟各国が、これらの遺伝子的および抗原性に関する分析を完了するために、元の検体を分注したものと分離ウイルスを、インフルエンザA/H5感染の診断検査のためのWHOリファレンス研究施設(付録6参照)に送付することを望む。

情報の報告および周知

WHOは、インフルエンザA/H5亜型分類の結果が得られた時点で、それを患者一覧表に含め更新することを要請する(付録3:患者一覧表の書式 および付録4:患者一覧表に必要な入力変数の説明 を参照)。

WHOは、ウイルス株の遺伝子的および抗原性の特性の解析結果を、WHO Global Influenza Programme(WHOによる世界規模のインフルエンザサーベイランス、パンデミック対策などに関する総合計画)と電子メールやファックスを用いて共有することを求めている(付録7:WHOへの報告時の連絡先 参照)。

 

検査室管理に関する追加情報については以下を参照のこと:

   ・インフルエンザA/H5感染の検査診断のためのヒト検体採取に関するWHOガイドライン

   ・インフルエンザA/H5感染を実験室診断するための、ヒトと動物由来検体の保存と輸送に関するWHOガイドライン

   ・新型ヒトインフルエンザ亜型が含まれている可能性のある検体の取り扱いに関するWHOバイオセーフティガイドライン

これらのガイドラインは以下のURLから入手できる。

http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/guidelines/en/ 

[日本語]http://idsc.nih.go.jp/others/topics/flu/torii-guide.html

3.インフルエンザA/H5ウイルスの感染伝播様式の変化の監視およびヒト−ヒト感染の可能性の探知

背 景

インフルエンザA/H5ウイルスの感染伝播様式、特にヒト−ヒト感染の発現といった変化は、ウイルスがヒトの疾患を引き起こしたり、ヒト集団での遺伝子再集合(reassortment)の危険性を増加したりといった、ウイルスの適応能力の増強をしめすものであり、連続抗原変異(antigenic drift)の指標となるかもしれない。適切な検査室サーベイランスと組み合わせたこれらの事象の迅速な検出は、インフルエンザ・パンデミックに備えたワクチン開発を促進し、ヒト集団におけるウイルスの伝播拡大の速度を抑える手法の実施に指針を与える。

サーベイランスで取り扱う事項

インフルエンザA/H5ウイルス感染の診断について検討されたそれぞれの人について、1枚ずつ症例報告様式を完成させなければならない(添付5:症例報告様式 参照)。これは詳細な調査を行う際に対象を絞る一助となる、曝露歴についての暫定的な情報を提供すると考えられる。個々の症例は、その地域で用いられている症例定義に従って、症例区分に分類されるべきである。

A. WHOは、曝露およびヒト−ヒト感染可能性の評価のために、すべての国または地域の、あらゆる公衆衛生上の区画において発生した、最初のインフルエンザA/H5ウイルス感染確定例の、徹底的な実地調査を推奨する。

初発例に続く確定例もまた、以下のような事項を優先し、同様に調査される必要がある:

   ・ 発症日が最も新しい症例;

   ・ 動物集団での高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)集団発生の報告がない地域に居住する症例;

   ・ 医療従事者の症例;

   ・ 確定例との接触が報告されており、他にリスクや曝露が報告されていない症例;

   ・ クラスター(患者集積)の一部をなす症例;[3]

   ・ リスクや曝露が報告されていない孤発症例。

WHOは、これらの調査において協力する専門家チームの編成を、優先して行う予定である。

B.  WHOは加盟各国が、インフルエンザA/H5の診断が検討されている新規入院者症例数の記録を、毎日取り続けることを求める。これはヒト集団における疾患の潜在的な活動の指標となり、国ごとの日報の書式 にも含まれている(添付2参照)。

C. WHOは加盟各国が、接触により感染リスクがある動物への曝露歴がなく[4]かつ検査室における職業的曝露のない確定例数を、毎日集計し続けることを求める。WHOはこれと併せて加盟各国が、曝露歴不明または不確定の確定例数に関しても、毎日の集計し続けることを要望する。これらの指標は国ごとの日報の書式 に含まれている(添付2を参照)。WHOはヒト−ヒト感染の発生の可能性を監視するために、これらの指標を使用する。

D.   最後に、WHOは加盟各国に対し、インフルエンザA/H5の診断が検討されている症例の、症例区分ごとの詳細な毎日の最新数の一覧を作り続けるように望んでいる。この詳細な一覧に関する情報は、国ごとの日報の書式 に含まれている(添付2を参照)。インフルエンザA/H5の診断が検討されている症例数の動向が変わることは、感染伝播様式の変化の、最初の指標のひとつであるかもしれないと考えられている。



[3] “クラスター”とは、インフルエンザA/H5感染の診断が検討されている(原因不明の急性呼吸器疾患による死亡例を含む)2名以上の人々で、発症が同一の2週間の期間内であり、世帯を共有する者、親戚等を含む広義の家族、医療機関、その他の居住施設、兵舎、レクレーション・キャンプなどの特定の状況に関連付けられた場合と定義される。

[4] “危険のある動物への曝露歴の報告がない”とは、あらゆる状況下において、生きているか、または死んでいる、飼育家禽、野鳥、豚との接触がなく、かつ、6週間以内に移動制限をされていた飼育家禽や豚の関連施設での曝露がなく、かつ、感染につながる危険がある動物への職業的曝露がない場合と定義する。


情報の報告および周知

WHOは加盟各国が、ヒト−ヒト感染を示唆するどのような証拠についても簡潔な説明報告を、電子メールまたはファックスで、該当するWHO各国事務所、地域事務所、本部に直ちに送ることを要望する(添付7:WHOへの報告時の連絡先 参照)。この報告は、症例数および感染伝播(二次感染)の可能性に関する情報を含んでいる必要がある。

WHOは加盟各国が、国ごとの日報の書式(添付2参照)を各国の症例区分の方法に適応させ、電子メール、ファックス、パスワードで確実に保護されているWHO Global Atlasウェッブサイトを通じて、要請されている要約データを毎日報告することを要望する。WHO Global Atlasのウェブサイト上から毎日の要約データの報告を希望する国は、URLアドレスと固有のパスワードを得るために、outbreak@who.intに連絡を取る必要がある。

WHOはまた、症例ごとの情報を患者一覧表形式(付録3:患者一覧表の書式 および付録4:患者一覧表に必要な入力変数の説明 参照)で、毎週送付されることを要望する。患者一覧表は確定例、インフルエンザA/H5の診断が検討された症例、(検討あるいは鑑別診断後)削除された症例を含む必要がある。

確定例に関する情報のみが、公開され入手できるようになる予定である。

4.急性呼吸器疾患の異常な発生および死亡の監視

背景

急性呼吸器疾患の発生や、それによる死亡の異常な増加を即座に検出することにより、適時に検査による調査や、適切な公衆衛生上の対策を開始する必要がある。

サーベイランスで取り扱う事項

WHOは、加盟各国において既に存在する、インフルエンザ様疾患(ILI)および急性呼吸器疾患に関するサーベイランスを継続して行うことを推奨している。

WHOは、既存の感染性疾患の早期警報システム、あるいは、重症急性呼吸器症候群(SARS)のような重症または新興の急性呼吸器疾患のサーベイランスシステムを持っている加盟各国については、あらゆる異常な出来事を積極的に調査し、確実にインフルエンザに関する検査診断を適切に実施することを推奨している。

加盟各国が、感染性疾患の早期警報システム、あるいは重症または新興の急性呼吸器疾患のサーベイランスシステムを持っていない場合は、適切に公衆衛生および検査上の調査を開始するために、急性呼吸器疾患の異常な、あるいは説明の出来ない事例の発生を検知するように計画されたサーベイランスの導入を検討するべきである。サーベイランス活動は、リスク評価の結果および、利用可能な資材施設を考慮し、双方の面から実施を決定する必要がある。

下記の活動項目中ひとつ以上の導入が望まれる:

  ・急性呼吸器疾患として入院あるいは入院中に急性呼吸器疾患となった、症例またはクラスターに対する、全数あるいは定点の病院を基盤としたサーベイランス;

  ・地域における急性呼吸器疾患による原因不明の死亡のサーベイランス;

  ・医療・保健機関における急性呼吸器疾患による原因不明の死亡のサーベイランス;

  ・インフルエンザAウイルス感染症に対する抗ウイルス薬、急性呼吸器感染症の治療に一般的に用いられる抗菌薬、鼻炎薬(decongestant drug)、鎮咳薬(antitussive drug)の販売状況の監視

2003年10月1日以降に、ヒトあるいは動物集団における疾患の原因としてインフルエンザA/H5ウイルスが同定されている国々あるいは地域、およびインフルエンザA/H5の活動が報告されていないが隣接している国々あるいは地域では、1章:ヒトにおけるインフルエンザA/H5ウイルス感染の世界的発生状況の監視 で規定された感染リスクの高い職業に従事する者の熱性疾患について、積極的なサーベイランスの実施を考慮するべきである。

異常あるいは説明のつかない急性呼吸器疾患の発生を検知する能力の向上を図るため、あらゆる国や地域における、病院での医療、看護、介護(hospital-based care)を提供する責任を持つすべての関係施設または機関は、サーベイランス活動に参加し、速やかに公衆衛生当局と情報を共有するよう奨励する必要がある。

可能な限りどこでも、SARSおよびインフルエンザA/H5について実施されているサーベイランスの活動は統合されるべきである。

WHOは、その十分に確立された機構を通じて、急性呼吸器疾患の異常な発生に関する噂も含む、国際的な公衆衛生上の懸念となりえる未確認情報の調査を継続し、加盟各国から寄せられた未確認情報に関する詳細な情報をさらに追求して行く。

情報の報告および周知

WHOは、インフルエンザA/H5に関して調査中の異常あるいは説明のつかない出来事を、直ちに該当WHO各国事務所、地域事務所、本部に電子メールあるいはファックスで報告するよう求める(付録7を参照)。こうした報告によりWHOは、適時必要な専門的な助言を行い、またこれらの事例の調査支援を行うことができ、適切な時期に正確な情報を他の加盟各国、報道機関、一般の人々に必要に応じて提供することが容易になる。

5.動物集団におけるインフルエンザA/H5ウイルスの世界的活動状況の監視

背 景

動物におけるHPAI集団発生の世界規模のサーベイランスは、ヒトの新型インフルエンザ・パンデミックを引き起こす可能性のあるインフルエンザAウイルス亜型の流行状況を監視するために、極めて重要である。現在アジア地域においてインフルエンザA(H5N1)によるHPAIが動物に広範に広がっていることから、ヒトの公衆衛生上のリスクをもたらす、動物のHPAI集団発生に関する最新の情報が、WHOと世界の公衆衛生担当部局による継続的なリスク評価、リスク管理、およびリスクコミュニケーションのために必要である。

サーベイランス、報告、情報周知で取り扱う事項

国際獣疫事務局(OIE)への加盟各国にはすでに、動物における疑いまたは確定したHPAI集団発生に関して、迅速に(24時間以内)OIEへ報告をするように義務がある。OIEは公式ルートで、すなわち主席獣医務官(Chief Veterinary Officer)または畜産生産局長(Director General of the Livestock Department)からの報告を受け取ったすべての出来事を、ウェブサイト上で公開している。公式な報告が無くても、インフルエンザA/H5N1によるHPAI集団発生が確認された国や地域に関する報道発表を行うことによって、OIEは動物における最近のインフルエンザA/H5N1の流行に対処している。動物における最新のHPAI集団発生の要旨は、OIEのウェブサイト上に掲載されている(アジア地域における鳥インフルエンザの更新情報を参照:http://www.oie.int/eng/en_index.htm)。

WHOは国連食糧農業機関(FAO)と同様に、OIEと協力している。WHOは、その十分に確立された機構を通して、感染リスクのある動物の死亡の未確認情報や動物のHPAI集団発生を含む、国際的な公衆衛生上の懸念となりえる未確認情報の調査を継続し、加盟各国から寄せられた未確認情報に関する詳細な情報をさらに追求して行く。WHOが得た、動物のHPAI集団発生の未確認情報を実証するような情報はすべて、OIEおよびFAOとの間で共有される。

したがってWHOは加盟各国に対し、動物におけるHPAI集団発生が疑われる事例での時宜を得た検査による確認、これらのOIEへの適時報告、ヒトの公衆衛生上のリスクを減らすことにつながる、動物集団における適切な感染予防と制御の対策の適時実施を促進するような、サーベイランスの積極的実践と情報共有を行うために、すべての関連政府部局を参加させることを奨励している。
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付録1:ベトナムで用いられた症例定義

ベトナムA/H5インフルエンザに関する症例定義

 

注意:わが国とは検査体制等の整備状況が異なるために、以下の定義の日本語訳を

そのまま国内向けの定義としては当てはめられないことにご注意ください)

Patient under investigation(調査中の症例

38℃以上の発熱を呈し、

かつ

以下のひとつ以上の症状を有する者で、

  咳
  咽頭痛
  息切れ

臨床経過を観察中であり、診断検査を実施中の者である。

インフルエンザA/H5感染 Possible caseA/H5感染の可能性のある症例

i. 38℃以上の発熱を呈し、

かつ
以下のひとつ以上の症状を有する者で、

  咳
  咽頭痛
  息切れ

かつ、以下のひとつ以上に該当する者:

a. ウイルス亜型までは判明していないが、検査によるA型インフルエンザの証拠がある;

b. 発症前7日以内に、A/H5インフルエンザ確定例と感染性のある期間中の接触歴がある;

c. 発症前7日以内に、鶏を含む病気で死亡した鳥との接触歴がある;

d. 発症前7日以内に、高病原性トリインフルエンザ(HPAI)感染が疑われているヒトもしくは動物から得られた検体を取り扱う研究機関で働いていた。

または

ii. 原因不明の急性呼吸器疾患による死亡例であり、

かつ、以下のひとつ以上に該当する者:

a. HPAIの発生が疑われている、もしくは確定している地域(area)に居住している;

b. 発症前7日以内に、A/H5インフルエンザ確定例と感染性のある期間中の接触歴がある。

インフルエンザA/H5感染 Probable case(確定例に準ずる限定的な証拠がある症例

38℃以上の発熱を呈し、

かつ

以下のひとつ以上の症状を有する者で、

  咳
  咽頭痛
  息切れ

かつ、インフルエンザA/H5感染に関する限定的な検査上の根拠がある(単一血清検体でH5特異的抗体の検出)。

インフルエンザA/H5 Confirmed case(確定例

以下のひとつ以上の検査結果が得られている者§

a. インフルエンザA/H5ウイルスの分離培養陽性;
b. インフルエンザA/H5のPCR陽性;
c. インフルエンザA/H5モノクローナル抗体を用いた免疫蛍光抗体検査(IFA)陽性;
d. インフルエンザA/H5特異的抗体価がペア血清にて4倍の上昇。

*)インフルエンザA/H5ウイルスに感染した者は、発症前1日前より発症後7日までが感染性ありと考えられている。

§)インフルエンザA/H5の検査による検討は、死亡例および対象を絞った疫学調査でも行なわれる可能性がある。これらの状況下で確認された確定例についても報告すべきである。

訳注:付録2〜7は、原文を参照 [WHO guidelines for global surveillance of influenza A/H5]

http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/guidelines/globalsurveillance/en/

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(2004/2/23 IDSC掲載)