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インフルエンザA/H5 感染の診断のための動物検体採取に関する WHO実験室ガイドライン

 2004年2月6日 WHO(原文

 


基本情報

ウイルス診断の成功の多くは、検体の質と、実験室で検体が処理される前の、輸送と保存の状態に依存する。細胞培養や発育鶏卵を用いた呼吸器系ウイルスの分離や、ウイルス抗原や核酸の直接検出に用いる検体は、基本的に、インフルエンザの臨床症状発現後3日以内に採取しなければならない。ヒト、ブタ、ウマを含むホ乳類では、インフルエンザは主として気道感染症である一方、鳥類においては気道と腸管(大腸)感染として認められる。


検体の種類

ホ乳類および鳥からの様々な検体が、上気道のウイルス感染の診断に適している:

  ・鼻腔拭い液
  ・咽喉拭い液
  ・気管拭い液

上気道からの拭い液に加え、インフルエンザ感染の際の鳥類からの採取検体には以下がある:

  ・総排泄口拭い液 (cloacal swab)
  ・排泄物検体

可能な限り、生きている鳥や殺したばかりの鳥からは総排泄口拭い液を採取するべきである。ケージ(飼育用の入れ物)または環境中から採取した排泄物検体は、唯一の入手可能な検体であることが多いが、検体の由来種の特定を全面的な確信をもって行うことはできない。

もしも死亡獣が調査中に発見された場合には、高病原性トリ・インフルエンザウイルスを疑うべきであり、気道および腸管からの検体採取とともに、脳、脾臓、心臓、肺、膵臓、肝臓、腎臓を含む代表的内臓器官からも検体をとる必要がある。

インフルエンザA(H5N1)の検査診断のための検体は、以下の優先順位で採取するべきである:

  ・生きた動物から

1. 気管
2. 咽喉・鼻腔
3. 総排泄口
4. 排泄物(環境からの検体を含む)
5. 飲み水

  ・死亡した動物から

1. 肺洗浄液
2. (気管や肺を含む)複数の組織の複合検体
3. 排泄物(環境からの検体を含む)
4. 総排泄口
5. 飲み水

検体採取の手順

必要な物品

・1〜3 mlのスクリューキャップ付プラスチックチューブ
・ポリエステル繊維が先端についているスワブ
・ウイルス搬送用培地
・剖検用器具

ウイルス搬送用培地

(A) 搬送用培地199

1. 組織培養用培地199に0.5%の濃度でウシ血清アルブミン(BSA)を加えたもの

2. 0.5%BSAを含む溶液1リットルに対して下記を加える:
 −ベンジルペニシリン(2×106 IU/L)
 −ストレプトマイシン(200 mg/L)
 −ポリミキシンB(2×106 IU/ L)
 − ゲンタマイシン(250 mg/ L)
 −ナイスタチン(0.5×106 IU/ L)
 −塩酸オフロキサシ(60 mg/L)
 −サルファメトキサゾール(0.2 g/L)

3. ろ過滅菌し、1.0〜2.0 mlの容量ずつスクリューキャップ付きチューブに分注する。

付記:畜産業において抗生物質の使用が増加しており、高い濃度の抗菌剤と抗真菌剤の使用が必要となっている。

又は

(B) グリセロール搬送培地

1. リン酸緩衝液(PBS):

NaCl

8 g

KCl

0.2 g

Na2HPO4

1.15 g

KH2PO4

0.2 g

蒸留水

全体で1リットルとするのに必要な容量

2. 溶液の全体量が1リットルとなるように、オートクレーブ(加圧滅菌)したPBSと滅菌グリセロールを1:1で混ぜる。

3. 1リットルのPBS/グリセリン溶液に対して下記を加える:
 −ベンジルペニシリン(2×106 IU/L)
 −ストレプトマイシン(200 mg/L)
 − ポリミキシンB(2×106 IU/L)
 − ゲンタマイシン(250 mg/L)
 −ナイスタチン(0.5×106 IU/L)
 −塩酸オフロキサシ(60 mg/L)
 −サルファメトキサゾール(0.2 g/L)

培地の適切な選択のには、下記の「検体採取の準備」の項を参照のこと。

検体採取用容器の準備
滅菌されたプラスティック製のスクリューキャップ付き容器に、1.0〜2.0 mlの搬送用培地を分注する。(培地を分注した)この容器は使用時まで、−20℃で保存することが望ましい。しかしながら、4℃で48〜96時間(48時間より短い方が望ましい)、もしくは室温で1〜2日の短期間ならば保存することが可能である。

検体採取の準備
検体容器には「実地データ収集用紙(英語)」と同じ番号をふる必要がある。可能な時には、動物の種類、動物の科目分類、検体の種類、採取日、および、その検体を採取した地理的な位置などの情報を記録する必要がある。

組織培養用培地(A)は、すべての種から採取した臨床検体の収集や輸送に、幅広く使用される。グリセロールを含む培地(B)は、検体を直ちに冷却することが難しい場合に、検体の安定を長期間保つ働きがあり、卵へ接種するのに適しているが、培養組織への接種には適さない。

臨床検体は以下に説明するように採取し、搬送用培地に入れる必要がある。すべての検体は、氷上におくか、4℃に保たれなければならない。

標準予防策(standard precaution)を常に実施するべきであり、検体を患獣から採取する時は常にバリアープロテクション(barrier protections)を適用する。

鼻腔拭い液
乾燥したポリエステルスワブを口蓋と平行に鼻孔に挿入し、数秒間そのまま静置する。その後、回転させながらゆっくりと鼻中を下方へと引き抜く。両鼻孔の検体は同じスワブで採取する。スワブの先端を2〜3 mlのウイルス搬送用溶液が入ったプラスチック容器に入れ、柄の部分は折り取る。

咽喉拭い液
咽頭後部をしっかりと拭き取り、スワブを上に記載した様に搬送用培地に入れる。

気管拭い液
生きた鳥の気管支へポリエステル製スワブを挿入し、やさしく内壁を拭き取って採取する。その後スワブは、上に記載した様に搬送用培地に入れる。

屠殺場のブタを含む死亡動物からの気管拭い液は、死体から肺と気管を取り出してから採取することができる。手袋をした手で気管を握り、気管の中に入るだけスワブを挿入し、しっかりと内壁を拭き取る。その後スワブを上に記載した様に搬送用培地に入れる。

総排泄腔拭い液
生きた鳥からの総排泄腔拭い液は、排泄口の中深くに挿入したスワブによって、しっかりと内壁を拭き取り採取する。スワブは排泄物がしっかりと塗りつけられていなければならない。それからスワブを、上に記載した様に搬送用培地に入れる。

排泄物検体
鳥市場の生きた家禽が入れられた鳥かごや、野外の野鳥からの排泄物検体は、排泄したての新鮮で湿っている排泄物から採取する。スワブには、排泄物をたっぷりと着けておく必要がある。それからスワブを、上に記載した様に搬送用培地に入れる。

組織検体
組織検体は搬送用培地に入れないで即座に凍結し、後に卵や培養組織に接種する前に、搬送用培地に入れるのが理想的である。

インフルエンザ診断とサーベイランスのための血清採取

診断のためには、急性期の血清検体(全血3 〜5 ml)は、臨床症状出現後すぐに採取されるべきであり、発症後7日より後であってはならない。回復期血清は2〜4週間後に採取されるべきである。屠殺場や、採血後放つような自由飛び回っている野鳥の血清疫学調査の場合には、血清検体は一回だけ採取される。血液は血餅形成後に2500 rpmで15分間遠心し、赤血球と血清を分離する。血清をピペットで移し、赤血球は捨ててかまわない。血清検体は、−20℃で保存する。

商品名や商標名の使用は、対象を特定する目的のためだけであり、WHOがこれを推奨あるいはその品質を保証するものではない。

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(2004/2/12 掲載)