高病原性鳥インフルエンザ > 海外情報

 
インフルエンザA/H5感染の検査診断のためのヒト検体採取に関するWHOガイドライン

 2004年2月6日 WHO(原文

 



一般的な説明

呼吸器系ウイルスの診断は、質の良い検体の採取、検査施設への迅速な搬送、検査前の適切な保存に依存する。ウイルスは、感染した細胞や分泌物が含まれた検体から最も良く検出される。ウイルス抗原や核酸の直接的な検出や培養細胞におけるウイルス分離に用いる検体は、臨床症状発現後3日以内に取ることが望ましい。

検体の種類

ウイルスの上気道感染の診断に適した検体には様々なものがある:
 ・鼻腔拭い液
 ・鼻咽頭拭い液
 ・鼻咽頭吸引物
 ・鼻腔洗浄液
 ・咽喉拭い液

上気道からの拭い液に加えて、臨床的に適応があれば、ウイルスの下気道感染の診断のために侵襲的な方法をとることもできる:
 ・経気管吸引物
 ・気管支肺胞洗浄液(BAL)
 ・肺生検検体
 ・肺および気管の病理解剖組織

高病原性鳥インフルエンザA/H5 の検査診断のための検体採取は、以下の優先順位で行われるべきである:

 1. 鼻咽頭吸引物
 2. 急性期血清
 3. 回復期血清

感染した細胞の免疫蛍光染色によるウイルス抗原の直接的な検出に用いる検体は、冷蔵保存し、1〜2時間以内に処理する必要がある。ベッドサイドで行う市販の検査用の検体は、製造業者の使用説明書に従って保存する。ウイルス分離用の検体は採取後直ちに冷蔵し、できるだけ早く感受性のある細胞に接種する。もしも検体を48〜72時間以内に処理できないならば、−70℃以下で凍結保存しなければならない。

呼吸器検体はウイルス搬送用溶液に採取して搬送する。様々な種類のウイルスの回収に適した多くの溶液が市販されており、利用可能である。

検体採取方法

必要な物品
・ 喀痰/粘液を捉える装置(trap)
・ ポリエステル製ファイバーチップアプリケーター
・ プラスチック製容器
・ 舌圧子
・ 15ml円錐形遠心分離用チューブ
・ 検体採取用カップまたはペトリ皿
・ トランスファーピペット

ウイルス搬送用溶液
(A) 咽喉、鼻腔拭い液採取時のウイルス搬送用溶液
1. 10gの仔牛抽出液(veal infusion broth)および2gのウシアルブミン分画V (bovine albumin fraction V)を滅菌蒸留水に加える(400mlとする)。
2. 0.8mlの硫酸ゲンタマイシン溶液(50mg/ml)および3.2mlのアンホテリシンB(250μg/ml)を加える。
3. ろ過滅菌を行なう。

(B) 鼻腔洗浄用溶液
1. 滅菌生理食塩水を用いる(0.85% 塩化ナトリウム)。


検体採取の準備
臨床検体は下記のように採取し、搬送用溶液に加える必要がある。鼻腔または鼻咽頭の拭い液は、同じウイルス搬送用溶液の容器中に混合することができる。可能な場合には、一般的な患者情報、検体の種類、採取日、およびその様式を記入した人の連絡先などの情報を、実地データ収集用紙に記録する必要がある。

標準予防策(standard precaution)を常に実施するべきであり、検体を患者から採取する時は常に、バリアープロテクション(barrier protections)を適用する。

鼻腔拭い液
乾燥したポリエステルスワブを口蓋と平行に鼻孔に挿入し、数秒間そのまま静置する。その後、回転させながらゆっくりと引き抜く。両鼻孔の検体は同じスワブで採取する。スワブの先端を2〜3mlのウイルス搬送用溶液が入ったプラスチック容器に入れ、柄の部分は折り取る。

鼻咽頭拭い液
柔軟で細い柄のポリエステルスワブを、鼻孔から鼻咽腔の後壁に向かって挿入し、数秒間そのまま静置する。その後、回転させながらゆっくりと引き抜く。もう一方の鼻孔には別のスワブを使用すべきである。スワブの先端を2〜3mlのウイルス搬送用溶液が入ったプラスチック容器に入れ、柄の部分は切り取る。

鼻咽頭吸引物
鼻咽頭分泌物は、粘液を捉える装置(trap)と連結し吸引器に接続したカテーテルを用いて採取する。カテーテルは口蓋と平行に鼻孔に挿入する。陰圧をかけながら、カテーテルを回転しつつゆっくりと引き抜く。他方の鼻孔からの粘液は、同様の方法で同じカテーテルによって採取する。粘液を両方の鼻孔から採取後、搬送用溶液3mlでカテーテル内を洗浄し検体を採取する(flush)。

鼻腔洗浄液
患者は頭を後方にわずかに傾け、無理のない姿勢で座る。洗浄液(通常生理食塩水)を鼻孔に入れている間は、「K」と発音して咽頭を閉じ続けるように指示する。トランスファーピペットを使用し、片方の鼻腔に対し一度に洗浄液1〜1.5mlを注ぎ込む。その後患者は頭を前に傾けて、検体採集用カップあるいはペトリ皿に洗浄液を出す。この手順を、合計10〜15ml洗浄液が使用されるまで、左右の鼻孔で交互に繰り返す。約3mlの洗浄液に対し、その倍量の搬送用溶液(1:2の比率)で希釈する。

咽頭拭い液
両側扁桃及び咽頭後部をしっかりと拭う。そのスワブは、上述の方法で搬送用溶液中に入れる。

インフルエンザ診断のための血清採取

急性期の血清検体(全血3 〜5ml)は、臨床症状出現後すぐに採取されるべきであり、発症後7日より後であってはならない。回復期の血清検体は、症状出現後14日後に採取されるべきである。患者に死亡の可能性がある場合は、(回復期にこだわらず)第2の生前検体を採取しておくべきである。

単一の血清検体は、患者個々の診断を裏づける決定的な証拠とはならないかもしれないが、症状出現後2週間以上経って採取された場合には、中和試験によりトリ・インフルエンザウイルスに対する抗体を検出するのに有用となる可能性がある。

------------------------------------------------

(2004/2/11 掲載)