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ヒトにおける鳥インフルエンザH5N1感染に対し有効なワクチンの開発−更新4
 2004年1月20日 WHO(原文
 



1999年に発行されたWHOのインフルエンザの世界的流行に対する準備計画には、ヒトからヒトへとまだ拡散していない新たなインフルエンザウイルスの亜型によるヒト感染が確認された後に取るべき一連の手順が設定してある。その手順の一つがワクチン生産に必要な研究の開始に関するものである。

予防的手段として、最近ベトナムで検出された鳥インフルエンザのH5N1亜型に対しヒトを守ることができる新たなインフルエンザワクチンを急いで生産するために必要とされる手順をWHOは進めている。その手順は、ここ数週間の間にベトナム・ハノイにおいてH5N1鳥インフルエンザのヒト感染例が5例検査で確定したことに対する懸念が高まったことを受けて開始された。

ベトナムにおけるヒトの死は、ベトナム・韓国・日本での高病原性H5N1鳥インフルエンザの鳥集団における歴史的に前例のない流行と同時に発生している。鳥における流行は日本では1925年以来であり、ベトナム・韓国では記録の限りでは初めてである。

WHOの世界的インフルエンザネットワークに属する実験施設では、ワクチン生産に向けての原型となるウイルスが用意されている。このネットワークに属するいくつかの実験施設では、H5N1のような高病原性ウイルスに対する作業を安全に行うために必要な高度の安全性(バイオセーフティーレベル3)施設を保持している。原型となるウイルスはワクチン製造に対する「種」として製造者に供給される。

香港と日本の実験施設はベトナムでの検査で確定した2人の死亡例から採取された検体よりウイルスを分離した。そのウイルスは、その起源および現在鳥あるいは他の動物の間で循環しているウイルスとの関連性に関する情報を得るために、分子レベルで現在解析されている。これらの研究はまた候補となるワクチンを製造するために必要なウイルスの抗原的・遺伝子的特性を決定するであろう。

WHOのインフルエンザネットワークに属する実験施設を使用し、新たなインフルエンザウイルス亜型を検出し対応するためにWHOが確立した手順に従うことにより、原型となるウイルスは早ければ約4週間以内にワクチン製造会社が利用できる。

昨年2月に香港で2人の患者と1人の死者を出したH5N1ウイルス株に対して予防効果のあるワクチンの候補が、ロンドン(英国)とメンフィス(テネシー、米国)にあるネットワーク実験施設において昨年開発された。

ベトナムにおける死亡例から分離されたウイルスが2003年の香港におけるH5N1の株に十分類似していることが証明されれば、この現存するワクチンの候補は新しいワクチンの利用可能性を促進し得る。新しいワクチンの試作品はすでに安全性や有効性、遺伝子的安定性、抗原同一性を確認する基礎的検査が終了している。

ヒトにおいて新しいインフルエンザワクチンが使えるようになるにはいくつかの段階が必要である。インフルエンザワクチンで使用されるウイルスは鶏の卵の中で発育する。しかし、H5N1は鶏の胚において非常に致死的であり、ワクチン製造に向けたH5N1ウイルスの原型を準備するには「リバースジェネティックス(reverse genetics)」として知られる新たな技術が必要とされる。

リバースジェネティックスは、実際の症例から採取されたウイルスの遺伝的情報を選択して実験室ウイルスと融合させる。その結果出来るウイルスはヒトの免疫系には認識され、防御免疫反応を惹起するが、病気にはならない。このウイルスを、鶏胚に対してもはや致死的でないように遺伝子的に修飾することもできる。さらなる利点としては、リバースジェネティックス技術を使用すると、ワクチン製造の間に増殖が予測できる原型ウイルスを作り出すことが出来る。

原型ウイルスは、臨床試験に対するワクチンのサンプルを製造するために製造者が使用する。WHOは、予防効果を得るために必要なワクチンの量と回数に関して、さらには異なる年齢層におけるその事項に関して決定を下すために必要とされる臨床試験の調整の手助けをする。

WHOのインフルエンザの世界的流行に対する準備計画の一環として、ワクチン製造会社やその許認可当局がインフルエンザの世界的流行の間にワクチンを組成しないしは承認を出す際の勧告を作成する手順がWHOにはすでにある。

WHO世界的インフルエンザ研究施設ネットワークは、年ごとのインフルエンザワクチンの組成を指導するために1947年に樹立された。WHOにおける最も古くからある疾患サーベイランスネットワークとして、新種のウイルスなどインフルエンザの世界的流行の引きがねとなりうる状況を検出するため早期に警告を発するシステムとしても機能している。歴史的には、インフルエンザの世界的流行は世界中に急速に拡散し、高い死亡率をもたらし、若年で健康な大人も含んだすべての年齢層に及んだ。1918−1919年の20世紀における最も重大な世界的流行では、約5,000万人が死亡した。

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(2004/1/21 掲載)