国立感染症研究所 感染症情報センター
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◆ アメーバー赤痢 1999年4月〜2006年12月



 アメ−バ赤痢は寄生性の原虫である赤痢アメーバー(Entamoeba histolytica )を病原体とする感染症である。赤痢アメーバーの感染嚢子(シスト)に汚された飲食物等を経口摂取することにより感染する。シストは小腸で脱嚢して栄養型となって、大腸粘膜面に潰瘍性病変を形成する。栄養型は大腸内被嚢しシストとなって糞便中に排出され感染源となる。
 感染症のうち症状を示すのは5〜10%とされる。症状は大腸粘膜の潰瘍病変によっておこる粘血便、下痢、しぶり腹(テネスムス)、鼓腸、排便時の下腹痛が主体である(腸管アメーバー症)。典型例ではイチゴゼリー状の粘血便となり、数日〜数週間の間隔で憎悪と寛快を繰り返す。増悪例では腸穿孔を起こす事がある。また、腸管アメーバー症の約5%で腸管外にも病変が及ぶ事があり、腸管外アメーバー症と呼ばれる。この多くは腸管部から赤痢アメーバーが血行性に転移することによる、肝臓、肺、脳、皮膚などの膿症形成である。肝膿症がもっとも頻度が高く、発熱、上腹部痛、食欲不振、悪心、嘔吐などの症状が見られる。腸管症状を伴わずに発生する場合もある。またときには、潰瘍の穿孔、肝膿瘍の破裂などおこし、死に到ることもある。

 アメーバー赤痢の発生動向の把握については、かつて伝染病予防法の法定伝染病の「赤痢」に「細菌性赤痢」と「アメーバー性赤痢」が含まれ、届け出られていた。そこでは、赤痢症状を伴う者に加えて、腸管外病変を持つ者、ならびにシストを排泄している無症状病原体保有者が届け出の対象とされていた。現在は感染症法(1999年4月施行)のもとで、独立した疾患としても全数把握疾患となっており、診断した全ての医師に届け出が義務付けられている。法施行当初は四類感染症として、2003年法改正(2003年11月5日施行)により五類感染症として無症状病原体保有者は除き、症状を有する患者のみが届け出の対象となった。

 1999年4月から2006年12月の期間に報告されたアメーバー赤痢は合計4,129例であった。年別には1999年(4月〜)276例、2000年378例、2001年429例、2002年465例、2003年520例、2004年610例、2005年698例、2006年753例であり、増加が続いている。わが国における罹患率は、2006年において人口10万対0.59人である。4,129例の都道府県別の報告数は東京都(1,048例)、大阪府(549例)、神奈川県(392例)、愛知県(248例)、兵庫県(219例)の順に多く(図2)、人口10万人当たりでは東京都(8.6人)、大阪府(6.2人)、神奈川県(4.6人)、京都府(4.4人)、兵庫県(3.95人)の順に多かった。

 感染地域(推定あるいは確定として報告されている)は国内が2,798例(68%)、国外が652例(16%)、不明679例(16%)であった(図1)。また、2006年3月まで「最近数年間の主な居住地」が届け出られていたが、1999年4月〜2006年3月に診断され届け出られた3,530例では、国内が3,339例(国内感染2.308例、国外感染447例、不明584例)、国外が114例(国内感染5例、国外感染93例、不明16例)、不明77例(国内感染4例、国外感染5例、不明68例)であった。

 4,129例の性別は、男性3,677例、女性452例(男性/女性=8.1/1)であり、年齢の中央値は45歳(0〜92歳)〔男性のみでは47歳(0〜92歳、女性のみでは33歳(0〜92歳)〕であった。
 季節や月による報告数の明らかな隔たりは認められない。

 4,129例中、死亡の報告は27例あり、死亡割合(届出上の致死率)は0.65%であった。27例は男性26例、女性1例で、年齢の中央値は60歳(35〜86歳)であった。ただし、死亡の報告は、届け出時点以降の死亡例が十分反映されていない可能性があり、届け出後の死亡については、できるだけ追加報告いただくようお願いしている。

以下では、感染地域が国内および国外のものに分けて、それぞれ述べる。


<国内感染例>
 1999年4月〜2006年12月の期間に報告された国内感染のアメーバ赤痢は2,798例あった。年間報告数は男女ともに増加傾向が認められ、2006年(583例)は2000年(246例)の2.4倍であった(図3)。2,798例の性別は男性2,475例、女性323例(男性/女性=7.7/1)で男性に多い。年齢の中央値は45歳(2〜92歳)〔男性47歳(4〜87歳)、女性34歳(2〜92歳)〕で、年齢群別報告数(10歳毎)を性別にみると、男性は30〜50代に多く、女性は20〜30代が多かった(図4)
図1. アメーバ赤痢の年別・感染地域別報告状況 図2. アメーバ赤痢の都道府県別・感染地域別報告状況(1999年4月〜2006年12月) 図3. アメーバ赤痢の国内感染例の年別・性別報告状況(1999年4月〜2006年12月)
図4. アメーバ赤痢の国内感染例の性別・年齢群別報告状況(1999年4月〜2006年12月)

 感染経路を男女別にみた(表)。男性2,475例では飲食物による経口感染355例(14.3%)、性的接触810例(32.7%)、経口および性的接触32例(1.3%)、その他9例(0.4%)、不明1,269例(51.3%)であった。女性323例では飲食物による経口感染67例(20.7%)、性的接触106例(32.8%)、経口および性的接触6例(1.9%)、その他2例(0.6%)、不明142例(44.0%)であった。性的接触の内訳は、男性では同性間521例(性的接触810例の64.3%)、異性間233例(同28.8%)、異性間および同性間22例(同2.7%)の順に多く、女性では異性間100例(性的接触106例中の94.3%)がほとんどであり、同性間、異性間および同性間は各1例であった。なお、2006年において性別不明の性的接触が増加した理由としては、届出様式に「不明」の項目が追加されたことが影響している可能性がある。感染経路を年別にみると、不明がいずれの年も男女ともで大きな割合を占める。不明以外では、男性では1999年以降継続して性的接触、経口感染の順に多く、異性間性的接触および経口感染の増加傾向が認められ、女性では2002年以降継続して性的接触、経口感染の順に多く、異性間性的接触の緩やかな増加傾向が認められた。

<国外感染例について>
 1999年4月〜2006年12月の期間に報告された国外感染のアメーバ赤痢は652例あった。年間報告数は2001〜2003年は横ばいであったが、2004年以降は男性での増加傾向が認められ、2006年(130例)は2000年(58例)の2.2倍であった(図5)。652例の性別は、男性567例、女性85例(男性/女性=6.7/1)で国内感染同様に男性に多い。年齢の中央値は44歳(0〜88歳)〔男性46歳(2〜88歳)、女性29歳(0〜80歳)〕で、年齢群報告数(10歳毎)を男女別にみると、国内感染例と同様に、男性は30〜50代、女性は20〜30代が多かった(図6)

図5. アメーバ赤痢の国外感染例の年別・性別報告状況(1999年4月〜2006年12月) 図6. アメーバ赤痢の国外感染例の性別・年齢群別報告状況(1999年4月〜2006年12月)

 感染経路を男女別にみた(表)。男性567例では飲食物による経口感染363例(64.0%)、性的接触46例(8.1%)、経口および性的接触18例(3.2%)、その他1例(0.2%)、不明139例(24.5%)であった。女性85例では飲食物による経口感染70例(82.4%)、性的接触1例(1.2%)、経口および性的接触0例、その他0例、不明14例(16.5%)であった。性的接触の内訳は、男性では異性間21例(性的接触46例の45.7%)、同性間18例(同39.1%)、異性間および同性間5例(同10.9%)の順に多かった。女性では性別不明の1例のみであった。感染経路を年別にみると、いずれの年も男女ともに経口感染が多く、男性の報告数増加も主に経口感染の増加によっていた。
 国外感染例の感染国は、中国(124件:19%)、タイ(87件:13%)、インドネシア(71件:11%)、フィリピン(45件:7%)、インド(39件:6%)、大韓民国(34件:5%)の順に多かった(複数回答あり)。

表. アメーバ赤痢の感染経路(1999年4月〜2006年12月)


<腸管アメーバ症と腸管外アメーバ症 2006年4〜12月>
 2006年4月に届出様式の変更があり、腸管アメーバ症と腸管外アメーバ症の病型が届出られるようになった。2006年4〜12月に届け出られた599例のうち、腸管アメーバ症461例(男性403例、女性58例)、腸管外アメーバ症116例(男性107例、女性9例)、腸管および腸管外アメーバ症22例(男性20例、女性2例)であった。腸管外アメーバ症の症状(部位)としては、肝膿瘍130例、胸膜炎7例、心のう炎1例、膀胱炎1例(重複して計上)であった。死亡の報告は4例あり、全て腸管アメーバ症であった。

 アメーバ赤痢の報告数は国内感染、国外感染ともに増加が認められている。特に国内感染例では性感染症と判断されるものが多く、また増加している。わが国においては男性同性愛者や知的障害者施設における集団感染などが注目されてきたが、最近はCSW(コマーシャルセックスワーカー)にも感染が拡大しているとされる。また、アメーバ赤痢患者が梅毒、HIV、B型肝炎等の性感染症を合併していることも指摘されていることから、総合的な性感染症対策の一環として、アメーバ赤痢対策が行われるべきと考えられる。

アメーバ赤痢については、病原微生物検出情報IASR Vol.28 No.4特集「アメーバ赤痢2003〜2006」http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/326/inx326-j.html を併せてご参照ください。



IDWR 2007年第44号「速報」より掲載)
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