国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
急性脳炎


急性脳炎(2004~2006年)2007年2月28日現在


 急性脳炎は2003年11月5日施行の感染症法改正によって、基幹定点(全国約500カ所の病院)からの報告による定点把握疾患から、五類感染症の全数把握疾患に変更され、診断したすべての医師は、診断から7日以内に届け出ることが義務づけられている。届け出の対象は、四類感染症として全数把握されるウエストナイル脳炎と日本脳炎を除き、それ以外の病原体によるもの、および病原体不明のものである。また、炎症所見が明らかでなくとも、同様の症状を呈する脳症も含まれる。当初、インフルエンザ脳炎や麻しん脳炎など、原疾患が届け出対象である場合は除くと解釈されていたが、厚生科学審議会感染症分化会の審議を経て、2004年3月1日以降はこれらも届け出の対象となった。なお、届け出の時点で病原体不明なものについては、可能な限り病原体診断を行い、明らかになった場合には追加で報告することが求められている。

 ここでは、2004〜2006年の届け出症例(2003年12月29日〜2006年12月31日診断分)についてまとめる。この3年間に報告された急性脳炎は、2004年166例、2005年188例、2006年165例であった。

報告のあった都道府県別では、2004年は秋田県(26例)、新潟県(17例)、山形県(14例)、2005年は大阪府(21例)、東京都(16例)、福岡県(16例)、2006年は千葉県(19例)、大阪府(19例)、広島県(12例)が多く、3年間では大阪府(42例)、千葉県(40例)、秋田県(38例)、東京都(30例)、福岡県(28例)が多かった。また、3年間に1例の報告もない都道府県が2県認められた(図1)
図1. 急性脳炎の都道府県別報告状況(2004〜2006年)

3年間の総報告数519例の性別は、男性279例(54%)、女性240例(46%)で、年齢は0歳から93歳にわたり、年齢中央値は14歳であった。年齢中央値は年次により違いが認められ、2004年68歳(0〜93歳)、2005年7.5歳(0〜91歳)、2006年6歳(0〜83歳)であった。
年次別に、年齢群(10歳毎)別報告数をみると、2004年は10歳未満のピークと70代を中心に50〜80代のピークがあり、50歳以上の過半数は、秋田県、山形県、新潟県の3県からの、9〜11月に集中した病原体不明例の報告であった(図2)。 2005年は10歳未満の大きなピークと、50代、60代の小さなピークがあり、2006年は10歳未満のピークの他、これに次いで10代が多く、年次により年齢群分布に違いが認められた。10歳未満は3年間に234例で、1歳(44例:19%)、2歳(37例:16%)、0歳(35例:15%)の順に多かった。
図2. 急性脳炎の年別・性別・年齢群別報告数
 16歳未満の265例のうち、発病月が不明の2例を除く263例について、発症月別および原因病原体をみると、2005年2月および3月、2006年1月および2月が特に多く、その病原体の大半がインフルエンザウイルスであった(図3a)。インフルエンザウイルスにより2004年12月〜2005年5月に発病した45例では、A型17例、B型24例、A型およびB型1例、型不明3例、また、2005年12月〜2006年4月に発病した50例ではA型47例、B型3例であり、当該シーズンの流行型を反映していた。
図3. 急性脳炎の発症月別病原体(2004〜2006年)

インフルエンザウイルス以外では、HHV-6 10例、ロタウイルス7例、アデノウイルス5例、コクサッキーウイルス5例、単純ヘルペスウイルス5例など、ウイルスによるものが多かった。細菌の6例は、サルモネラ菌3例、腸球菌1例、ウシ型溶血性レンサ球菌1例、肺炎球菌およびレジオネラ菌1例であった。病原体不明のものは103例(39%)であった。また、発病月不明の2例の病原体は、1例がB型インフルエンザウイルス(2006年5月診断)で、1例が病原体不明であった。

 16歳以上の254例のうち、発病月が不明の9例を除く245例について発症月別にみると、2004年9〜11月に著しく多かった(図3b)。これは前述の秋田県、山形県、新潟県における原因不明の脳炎・脳症の地域的発生が影響している。245例の病原体別では、病原体名の報告されたものは59例のみで、単純ヘルペスウイルスが20例と最も多く、次いでインフルエンザウイルスの9例であった。細菌の13例のうち9例は肺炎球菌で、ペニシリン耐性あるいは低感受性の記載があるものもあった。次いで多い細菌は、結核菌3例であった。また、病原体不明のものが186例(76%)であった。発病月が不明のものの病原体は、単純ヘルペスウイルスが1例で、他は病原体不明であった。

 死亡の報告は、届け出以降に追加報告のあったものを含めて、70例(2004年29例、2005年27例、2006年14例)で、3年間全体の報告例の13.5%であった。このうち、16歳未満の37例は性別では男性12例、女性25例で、年齢は0歳2例、1歳6例、2歳4例、3歳5例、4歳7例、5歳2例、6歳2例、7歳2例、8歳1例、9歳1例、10歳1例、12歳1例、13歳3例であった。病原体はインフルエンザウイルス16例(うち、A型8例、B型6例、型不明2例)、ロタウイルス2例、アデノウイルス3型1例、アデノウイルス42型1例、コクサッキーウイルスA6型1例、コクサッキーウイルスA7型1例、RSウイルス1例、単純ヘルペスウイルス1例、サルモネラ菌(Salmonella enteritidis )1例、ウシ型溶血性レンサ球菌(Streptococcus bovis )1例、不明11例であった。16歳以上の死亡例は33例で、性別で男性17例、女性16例で、年齢群別では16〜19歳1例、20代3例、30代1例、40代2例、50代5例、60代8例、70代9例、80代4例であり、それらの病原体は、インフルエンザウイルス2例(B型1例、型不明1例)、麻しんウイルス1例(20代)、単純ヘルペスウイルス1例(70代)、不明が29例であった。

 急性脳炎・脳症は、死亡以外にも、永久的な後遺症も残すこともある重篤な疾患である。都道府県による報告数の差などからも、未報告の症例は多数存在すると考えられ、急性脳炎が届出対象疾患であることを、一層周知徹底することが必要である。また、病原体不明が半数以上を占めていた。症例の集積を迅速に捉えることは重要であるので、病原体検索中の臨床診断のみの段階での迅速な届け出が必要である。一方で、病原体の特定は診療現場における早期診断・治療や、ワクチン接種などによる予防対策に非常に重要となる。そのため、できる限り病原体を特定し、届出後であっても追加報告することが望まれる。特に集団発生や地域的流行など公衆衛生上重要と判断される場合などにおいては、医療機関と行政機関の協力によって、より積極的な病原体検索を実施することが望まれる。

感染症発生動向調査週報 IDWR 2007年第10号に掲載)


Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.